第5話 少年。

 砂漠の町コモザ。

 長身の男達が顔を見合わせ、もう何度目かになる溜息をついた。

 シアとギルだ。

 太陽は天高く、想像以上の暑さに悩まされていた。外に居てはほぼ陰に隠れることもできない。暑さから逃れるためにも早く今夜泊まる宿を見つけなければならかったが、どの宿もすでにいっぱいになっていた。


「早くどこか建物の中に避難しないと、あの店先にぶら下がっている魚みたいに干乾びてしまいそうだ」


 隣でぼやくギルの声を聴きながらシアは片膝を付くと、自分の陰に座っていた小柄な少女に水の入った水筒を差し出す。フレイアは明らかに疲弊した表情で水筒に口をつける。


「……これ以上、フレイア様を日に晒し続けられません」


 シアは思いつめた目でギルを見上げた。ギルもフレイアが陰になるように気を配りながら右手で顔に影を作り辺りを見渡す。


「まいったな」

「あてもなく宿を探し回る時間はありません。砂漠では陽が陰ると一気に温度が下がるそうです。おそらくこの町も同じでしょう。フレイア様にこれ以上の負担はかけられません。なんとしてでも宿を見つけなければ」

「くそっ、この町に空いてる宿なんてあるのか?」

「あるよ。おれの店に来てよ」


 二人は同時に振り返った。そこには、10才ぐらいの少年が立っていた。腕には野菜がたくさん入った籠を抱えている。


「ここからは少し離れているけど、食堂をやっているんだ。もちろん、泊まることもできるよ。狭いけどね」


 二人は顔を見合わせる。


「とても助かります。すぐにあなたのお店へ案内してもらえますか?」

「いいよ。買い物も終わったところだし、ちょっと歩くけどついて来て」


 少年は人懐っこい笑顔で答えると、路地の奥へと向かって歩き出した。


「おまえは力持ちだな。重いだろ? 俺が持ってやるよ」


 ギルは少年に声を掛けながらの横へ並び立つ。少年は驚いたように顔を上げた。


「だ、大丈夫だよ。こんなのいつものことだし、お客様に持たせるわけには」


 そう言いながら少年は重そうな籠を持ち直す。


「まあ、そう言わずに、人の好意は素直に受け取っておけ。おまえはまだ子供なんだからな」


 ギルは少年の頭をひと撫ですると、痩せた腕から籠を取り上げた。


「あっ」


 少年は軽々と籠を肩に担ぎあげたギルを見上げる。唖然としている少年を見下ろし、ギルは悪戯っ子のようににっかと笑う。


「ほら、足が止まってるぞ。早く俺達をお前の店へ案内してくれ」

「……ありがとう」


 少年は親切には慣れていないのか、戸惑いを隠せないようだ。頬を赤らめ照れた様子で再びギル達の前を歩き出した。


「おまえ、名前は何というんだ?」

「アミール」

「アミール。良い名だな。俺はギルだ。そして、あいつはシアで、腕に抱きあげているのが俺たちの主であるフレイア殿……」


 突然、ごほん!と、ワザとらしいシアの咳払いにギルは言葉を途切れさせた。


「あの子は、フレイアデンっていうの?」


 首を傾げるアミールに対し、ギルは彼の真正面に立った。長身を屈め、真剣な眼差しをアミールに向けた。


「フレイア・様だ」


 ギルの有無を言わせない雰囲気に、アミールは良く分からないながらもうんうんと頷いた。

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