第18話 前話(17話)加筆分 ※ウイリアム視点

外へ出た俺はひとり早足で庭園の遊歩道をひた歩く。

 

 日が傾き始め、空の向こうは薄っすらと赤い。俺は高鳴る鼓動を胸に思慮を巡らす。


 何故あんな事を口走ったのか……。ただ言い間違えただけ?


 いや、俺はエミリアのあの凛とした美しさ、慎ましさ、心の強さに惹かれているのではないだろうか?


 彼女を見ると無意識のうちに目で追ってしまうし、紅茶の給仕に部屋へやって来る時なんかは特に嬉しく思う。

 ただ、紅茶を運んで来るだけ。それを心待ちにしている自分が不思議だった。

 考えてみれば、ここ最近の俺の心は知らず癒やしを得ていたように思う。

 その要因と考えた時、エミリアという存在へ行き着くのは極々自然な考えだろう。


「……これは厄介な事になってしまったな」


 今の出来事で、使用人達の間で俺のエミリアへ対する想いは周知されてしまった。

 エミリアの耳にもその事は当然伝わるだろう。


 思わず気恥ずかしさが込み上げてくる。

 次にエミリアと顔を合わせる時に俺は一体どんな顔をしたらいいのだろうか。


 そんな事を思いながらも、自然と歩く方向は最近のお気に入りの場所へ。


 さっきまで薄っすらだった夕焼け模様も目的地に着く頃には濃いものへと変わっていた。


 少し高い丘の辺りから見下ろす形での絶景に感嘆が漏れ出る。


 黄金色に輝く太陽の一部は海の地平線に隠れ、オレンジ色の光が空を埋め尽くし、海にもその色が反射している。


 太陽の光を受けた砂浜は金色に輝いていて、まるで宝物が埋まっているかのように感じる。波が静かに寄せては返す様子は、まるで自然界のリズムに合わせて踊っているかのよう。そんな夕焼けの美しさに心を奪われ、先程の焦燥感がゆっくりと柔らいでいく。


 そんな絶景の中にひとつの人影を視界に捉える。


 波打ち際にて、スカートを両手で少し摘み上げながら素足で無邪気に波を蹴り上げる女性。

 蹴り上げた水飛沫は太陽の光を帯びてキラキラと女性の周りを舞う。

 

 その光景の美しさに思わず息を飲む。

 直後、その女性の顔を捉えた時に鼓動がドクンと、高く跳ねた。


 俺は彼女の近くへ歩み寄ると、背後から声を掛けた。


「――エミリアか?」


 俺の声にハッとしたように振り返った美貌は金色の太陽をバックに、もはやその光景はどう表現しようにも伝えきるのは難しい。

 そんな美しい光景――エミリアに俺の心の全ては奪われていた。

 

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