ボツにしちゃった『冬の音』

 四角く切り取られた景色の、上から下へ大きな綿雪が降る。だた一つだけで後には続かない。それもそのはず。真冬でも凍り付くことのないこの地で雪など降るはずもないからだ。空は晴れ、白みを帯びた青に染まる。陽光は草木を淡く照らす。気温は十五度近くになろうか。特別暖かくも寒くもない、平凡な冬の日だ。

 では、今しがた重力に従い落下したものは何か。重すぎず、少しばかりふわふわとした動きを見せた。抜け落ちた鳥の羽が舞ったのだろうか、なんて考えているとまた一つ降った。随分と羽が生え変わる鳥だ。

 窓に近寄ると、少し雑草の生えた茶色い地面に、薄桃色の大きな花びらが散りばめられている。視線を移せば力強く生い茂る葉。そこから伸びた節くれだった太い茎が天を衝き、冬晴れの空を背に大輪の花が見下ろしている。離れの屋根よりも高い。気高く咲く皇帝ダリアの花だ。よく見ると蜜蜂が群がりせわしなくしている。散りかけの花に寄っては代わる代わる西へ飛び立つ。窓越しだと、背をすくめたくなるような羽音も聞こえない。

 再び一枚の花びらががくを離れ、ほんの少しの抵抗を見せてから地に落ちる。皇帝ダリアの花が終わることを、いったい何と言うのだろう。桜は散る、梅はこぼれる、菊は舞う。それから椿は落ち、牡丹は崩れる。ダリアは天竺牡丹とも言うらしいから“崩れる”だろうか。

 冷たく澄んだ空気の中で、また一輪、崩れてゆく。



 目の前に座る彼女は甘いカフェラテに口をつける。窓から見た光景をひとしきり話して満足したようだ。

「……。今日の話題は冬の音だったはずだけれど……」

「だから、皇帝ダリアが崩れる音よ」

 桜ははらりと散る、梅はほろりとこぼれる、菊はひらりと舞う、椿はぽとりと落ちる、牡丹はふらりと崩れる。

「想像するだけでも音が聞こえてくるようでしょう。そういう、風情の話をしているのよ」


「それで? あなたはどんな音を聞いたの」

「えっと……、街にはクリスマスソングが流れて――」

「そう、随分と都会に染まったものね」

 忙しさにかまけて



 ※ここまで書いてボツにした



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