第11話 GW2日目1

「にぃにー!GWだぞー!妹をかーまーえー!!!」

「それは無理な相談だ妹よ。というか昨日も説明しただろ?部活動相続の危機なんだ!あの部が無くなると兄ちゃんはただのデカくて怖い人になってしまう!」

「え?今更?」

「え?」

「「え?」」

妹は一日目は友達の家にお泊まり会をしたので実質今日からGWらしい。にしても、朝イチから妹に謎(?)の真実を告げられショックを受ける。妹よ...俺をそんな風に思っていたのかい?

「朝っぱらからギャーギャー騒がしいな〜。夜勤明けの俺を寝させてくれよ〜...」

妹とそんな問答をしていたら2階から父、鬼島誠真が降りてくる。

「おはよう父さん」

「お父さんおはよー!」

「2人共朝から元気だね〜。年の差を感じるよ...それと、あまりお兄ちゃんを困らせてはいけないよ」

「でも〜...せっかくの皆休みなのに...」

小学5年生はまだまだ遊びたい時期なのだそれなのに...この天使にこんな悲しそうな顔をさせているのは誰だ!!...俺か!?あぁどうしよう!...そうだ!

「なら今年の夏休みは麻由、あなたの為に使いましょう。これではダメですか?」

「...ホント?」

「えぇ」

「もし約束破ったら一生奴隷にするからね!!」

「どこでそんな言葉覚えてきたんですか!?」

「じゃ、約束!ん!」

そう言って指切りを催促する。この子供らしさもいいですね。

「「指切りげんまん、嘘着いたら一生奴隷!指切った!」」

「では行ってきますね。麻由の事頼みます」

「誰に言ってんだ〜?こちとら警察官だぞ?命に変えても守ってみせる!!」

別にそこまでは言ってないのだがやはり父の言葉には安心感を覚える。

玄関を開けるとちょうど向かいの門から吉沢さんが出てくる。

「おはようございます吉沢さん。今日から最終日までよろしくお願いしますね」

「おはー師匠!こっちこそよろしく〜」


談笑しながら登校すれば気づけば目的地である手芸部の部室前に着いていた。

「「失礼します」」

そう言って俺達2人は教室に入る。するとそこにはやっぱり会長である真城先輩と部員である赤狛優心こと、赤。顧問の花山駒智改めて駒ちゃん先生がいた。

「皆さんおはようございます。本日はよろしくお願いします」

「しゃす!」

「あら、2人仲良く登校とはいいご身分ね。でも時間よりも早いのは関心だわ」

「あんまそー固くなんなってwお前の知り合いしか居ないわけだし。そして何より!親友の俺に気を使うなんざむしろ気持ちが悪いぜ?」

「でも先輩と先生が居るので挨拶は大事かと」

「先輩はそうだけど俺の嫁である駒ちゃんには無礼講でいいと思うよ?なー?駒ちゃん先生っ!」

「なんで私には挨拶は無くていいと?」

「だって実質付き合ってるような2人ですよ?それなのに堅苦しい挨拶なんて...それなんの"挨拶"ですか〜?先輩?」

「〜!」

「すみません先輩!!お前も!あんまり真城先輩を怒らせるんじゃねーよ!顔真っ赤じゃん!」

「...やっぱお前はそう捉えるよなー...残念だよ...さ!仕事に取り掛かろうぜ〜」

「ちょっと待ってください!!」

そこで突然の大声。声の主は先生だった。ものすごく頬を膨らませてこちらを涙目で睨んでいる。可愛い。これは赤が惚れるわけだ。

「何先生を置いてけぼりで話が進んでるんですか!!いつ私が赤狛君のお嫁さんになったんですか!!結婚した覚えは無いです!!」

「昨日しましたよ〜?覚えてませんか?ハッ!まさか昨日の話は嘘だったんですね...純情な男子高校生の心を弄ぶだなんて...」

「話って明日は部室に顔だして下さいねと話をしただけじゃないですか!」

「あ、バレました?」

「バレバレです!!」

話の真相とはとても呆気なく、しょうもない話で幕を閉じた。頑張れ赤!友として実らぬ恋でも応援するぞ!!


「さ、気を取り直して今日やることのおさらいな〜。今日は近くの幼稚園、青坂幼稚園から季節の折り紙の依頼を受けてな〜、もうすぐ梅雨だからカエルとか傘とか雨を象徴する壁画っぽいのを折り紙で作って欲しいらしいのよ!これはこの手芸部の毎年恒例らしいから皆頑張ろー!」

「質問、というか疑問いいか?」

「どした?」

「何故に我々5名なんですか?他の部員はどこに?」

この部屋に入ってずっと疑問に思っていた。部なら他に最低でも4名居なくてはいけない。なのにどこにも見当たらない。そこがとても疑問だった。

「それ私も思ったー!赤狛だけだと私たちみたく同好会じゃないのー?」

「それはー...そのー...なんといいますか...」

先生がモジモジしだした。何か言いにくい事があるのだろうか。

「安心してください先生!俺から説明します!」

自信たっぷりに赤が宣言する。

「他の4名はゴールデンウィークを満喫しているぞ!」

「今なんと言いました!?サボりでは無くてですか!?」

「?サボりじゃねーってwあのな!今回のゴールデンウィーク、この仕事別に急ぎじゃないわけwお前らが困ってそうだったから駒ちゃんに相談して早めたのw考えて見ろって。まだ梅雨には早いのに作れって催促する所だと思うか?余裕を持ったスケジュールで頼みに来るに決まってんだろ?」

考えればそうだ。毎年恒例となっているなら数少ない部員に大急ぎで作らせるのは酷な話だ。

「やっぱお前は凄いやつだよ赤。お前は何時でも誰にでも優しいやつだ」

「褒めんなよ、照れるw」

ニカッと笑いながら、でも照れているのか頬はほんのり赤くなっていた。

「ただし!今日で終わらせるって事はつまり!何時間もやることを想定しろよ〜?今日帰れるように頑張ろーな〜w」

この一言で部屋の空気が重くなった。

「先生は監督役だからやらないとして、4人で終わるスケジュールを組んでいますよね?」

「は?組んでねぇよ??」

「さっきの言葉返してください!!お前は馬鹿か!」

「馬鹿とはなんだ失礼な!俺なりに仕事探してきてやってやったろ〜?ガンバ!」

てへぺろっ!とウィンク付きでやられた...初めてこいつの顔面に一撃入れたくなった。

「ではこちら、折り紙約440枚!1人あたり110枚だぞー!喜べ〜?w」

ドンッ!と大量の新品の折り紙がニヤニヤ顔の赤からテーブルに置かれる。

「これは...圧巻の量ですね...」

「流石の私も心が折れそうね...」

「おー!量すげー!!」

「終わりましたら先生から差し入れしますので皆さん頑張ってください!」

作業を開始して直ぐに、

「早速で悪いけど俺トイレ〜」

と、赤がトイレに行く宣言をする。まだ数分しかたってないのに、こいつは10枚ほど終わらせている...早過ぎないか?

「俺も行きます。ついでに飲み物買ってきますね」

俺と赤は教室を後にした。


しばらくしてトイレを済ませ、自販機の前に着いたので周りに人が居ない事を確認して本題に入る。

「で、赤よ。お前なんで嘘ついた?」

「ん〜?何の事〜?」

そういってヘラヘラしながら話を振る。この顔は前も見た。とても無理してる時の顔だ。

「俺にまで嘘をつくのか?何年友達やってると思ってる」

「そっか...。やっぱ、お前は騙せないよなーw流石は親友だぜ!」

「他の人達が旅行と言うのは、嘘だよな?」

「せいかーい!よく分かったな!」

「嘘をつくときのお前の声は少し高くなるんだよ。初めて知ったか?」

「へ〜!俺そうなの!?初知りだぜ」

まぁ、嘘だが。

「そんで。嘘ついてまで俺らだけなのはなんでだ?」

赤は多分、俺が嘘を見抜いてる事を知っててわざとトイレに誘った。こいつも俺の事をよく知ってるよ。

「俺、ガチで駒ちゃん好きなのは知ってるよな?」

「...あぁ。そしてそれは叶わない恋だという事も...」

「やってみなきゃわっかんねーだろ!!」

急な大声にビックリする。外では部活動をしていて自分たちの事でいっぱいいっぱいでも大きな声には流石に気づきこちらを少し見てくる。

「...場所変えようか...」


屋上に続く階段を上り、俺たちはドアを開け屋上に入る。

「ここならいいよな。さっきの話の続き、しよっか」

「俺は応援するとは言ったがあまりにも無謀すぎる。負け戦だ。あと数年待てばお前は結婚できる年だ。そこまで待つのは難しいか?」

「あぁ!難しいさ!毎日この気持ちが溢れて止まんないんだよ!吐き出さないと暴走しそうで、何するか分からない自分が怖い。もし俺が高校生の間に駒ちゃんに恋人が出来たらそいつをどうするかも分からない」

「冗談はよせ」

「冗談冗談w。と、笑えたらどんなに嬉しいか。半分は冗談じゃなくて本気だぜ?」

「...」

「俺を笑うかい?付き合ってもいないのにメンヘラっぽくなっているこの俺を...」

「笑わない」

この一言だけは一切の躊躇無く出てきた。他の言葉は結構色々考えたけどこれだけはハッキリと言える。

「言ったろ?俺は誰も見捨てない。自分よりも他人の為に行動する」

(青...だからお前は優しすぎる。どれだけ自分を傷つけ他人の為に行動する気なんだ...誇らしくもあり、怖いところでもあるよ...)

「...ごめんな。無理に話に付き合わせるみたいで。お前は昔っから変わんないよ...」

「気にすんな赤。それに俺だって変わってる。今回は話を聞いて赤の話に乗ってやる。でも、俺が困ってたらよろしく頼むぜ、親友!」

「いいや。お前は何も変わってねぇよ...ありがとう...」

少し目をウルませながら笑いかけてくる。

「で、今回は何をするんだ?」

「さっきの旅行の件、あれはあながち間違いじゃないんだぜ?俺の家族はこの気持ちを応援してくれてる。ありがたいよ。で、青春して来いってんで俺をゴールデンウィークに学校に行くように仕向けた。俺がバイトしてんのは知ってるよな。子供の世話ってのも案外いい値段になる。今まで貯めたバイト代で旅行券を買って部員に振舞った。説明付きでな。複雑そうな顔されたよ...でも応援はしてるって。いい人たちに出会ったよ」

他の人が聞けばイカレてると思うかもしれないがこいつは真面目だ。もしそんな事を言うなら、お前はこいつの事をなんもわかってない!って。多分顔を殴りに行く。こいつの頑張りを昔から見ていた俺には分かる。熱量と頑張った事が。

「頑張ったんだな。それで、俺はどうすればいい?」

「他のやつらには内緒にしてくれ。時が来たら自分から言うから。今回はまだ先で頼む。やってもらいたいのは俺のアピールかな?普段おちゃらけた俺だけどいい所沢山知ってるお前に期待してんよ!」

「あぁ。任せろ」

「即決かよw」

こいつのいい所なんて無限に出てくる。案外簡単そうだな。

「ついでに言うなら...これは言わなくても後でお前なら察せるからいいかな」

「?了解だ」

「じゃ、そゆことだから戻るか〜!」

そうして俺達は屋上を後にした。

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