第35話
『癒善草』ポーションを飲み続け、『ボックス』の中身を全て使って『ホムンクルスの卵』を作った。
従来の方法には複数の核を使うという事が載っていないので、俺としても予想外の事が起きるかもしれない。
そのため、材料はいくつあっても良い。
異形の化物が生まれるのなら、その場で処分するつもりだし、仮に良い結果が出ればさらに改良すれば良い。
「時間差は10分ほどか。」
時計を見ながら呟く。
魔力を回復しながら『ホムンクルスの卵』を作った。
その結果、等間隔な時間が空き、その間は10分。
たったそれだけの時間で色々調べるというのはハードスケジュールだが、やるしかない。
ピシッ。
まずは一体目。
『ホムンクルスの卵』にヒビが入ったかと思うと、そのまま発光して形が変形し始めた。
その大きさは球体から徐々に人型に、質量保存の法則を無視しているのか、それともあれだけ小さな球体にこれだけの中身が詰まっていたのかは分からないが、凄まじい変化だ。
それは徐々に光を弱め、完全に光が収まった時、そこには薄い緑の肌をした少年が立っていた。
「......」
「......」
緑色の肌はゴブリンらしく、それでいて人間らしい顔立ちに、背筋の伸びた綺麗な直立。
一見すればただの人だ。
ただ、その一見から先が問題だ。
現在、『ホムンクルス第一号』は全裸だ。
生まれたままの姿とはまさしくこの事なのだが、これを少年や彼と呼ぶのはいささか憚られた。
まさかゴブリンの『ホムンクルス』であるはずの彼に、生殖器が無いとは思わなかった。
それだけではない。
排泄器官も無ければ、乳首も毛穴も無い。
まるで、子供の描いた落書きが現実に出た様な、そんな不自然さを持つ存在だった。
そんな興味しか湧かない彼を観察していると、次の『卵』が孵った。
◇◆◇
あれこれやって1時間。
現在7体目の『ホムンクルス』を観察しているのだが、未だにその法則性が見つからない。
結局、一体目から男女男男女男と来ている。
一見すれば次は男という風にも見えるが、7体目の『ホムンクルス』は女だった。
また、結局男や女というのも顔立ちとしての特徴や、体付きから判断したものであって、『ホムンクルス』には全員生殖器が無かった。
更には、今に至るまで彼らは一言も言葉を話さない。
これは恐らく、俺が話さなければこいつらは一生喋られないだろう。
「あ」
「「「「「「「あ」」」」」」」
こんな具合でオウム返しから始めるしかない。
全員が孵化し終えたら言葉を教える事から始めよう。
そう思いながら、8体目を待つ時、一つの可能性を思い付き、残り二つを手に取った。
「すぅうううううう」
集中する為に、深呼吸をする。
息を止め、二つの『ホムンクルスの卵』に力を入れる。
それと同時に両手から大量の魔力を放出する。
「はぁああああ!!!」
魔力が残り1になるまで絞った。
絞った結果、限界値を見た。
ここまでしか入れられないという限界値。
それと同時に、二つの『ホムンクルスの卵』は発光を始めた。
「はは......大成功......」
俺は持っていた『癒善草』ポーションを一気に飲み干した。
◇◆◇
疲労が回復し、『自作布』に10体分の服を作らせてから、俺は目の前に跪く二人の男女を見ていた。
寮の一室に11人の人間が詰まっているのは窮屈だが、流石に都クオリティ。
それでもやはり余裕はあり、息苦しさはそこまで無い。
「マスター、ご命令を。」
「マスター、ご命令を。」
最後の2体。
この二人は特別だった。
『ホムンクルスの卵』を作る時に使った魔力。
それとは別に、『卵』の状態で魔力を注入することで、更なる性能の向上を見られる。
こんな簡単なことなら、もっと詳しく書いておいてほしい。
「二人にはそれぞれ4人ずつ、言語の教育をしてほしい。俺は今から寝る、明日も学校だからな。」
「期限はどれ程で?」
「1週間で完成させてほしい。」
「了解いたしました。」
しかも、それは平民的な一般常識ではなく、貴族や王族などが受ける英才教育の末の様な知識だ。
何がどうしてこうなったのかは分からないが、有用そうなので教育を命じた。
「1週間後の成果に応じて、それぞれに名前を付けるつもりだ。」
「了解しました。」
「承知しました。」
男女とも燕尾服という不思議な光景を横目に、俺は眠りについた。
ああ......疲れた。
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