第27話

 試験の結果が出るのはテストの2日後とのことで、1日の空きができた。

とはいえ、この間に帰って学園の寮に行く準備をするのは流石に無駄が多過ぎたので、既にお別れは済ませて、寮に行くための準備をして来ている。

 そのため、今日1日は完全に暇なのだ。


ということで、初めての都を観光する事にした。


 村には無かった物や、この世界特有の物。

本には記されていなかった物から記されていた物まであるかもしれない。


「私は、ノァと一緒ならどこでもいい。」

「じゃあ、すこしばかり見て回るか。」


 大通りを歩くと、露店や小さな店などが目立つが、よく見てみると、意外にもファンタジーな物が陳列されてある。

 もちろんここは現実で、RPGではないので、特定の場所でしか買い物ができない訳もなく、好きな所で好きに買い物ができるというわけだ。


「そうだ。合格を祈願して、剣でも買おうか?」

「剣!欲しい!」


 これまで一度も木剣から変えたことの無い訓練用の剣だが、その重さは成長に合わせて変えている。

とは言え、斬れない剣と斬れる剣、これまでと仕様も使い方も異なるだろうし、今から慣れておくのも良いかもしれない。


「俺は色々な武器を買うが、ハクは剣だけで良いのか?そうだ、魔法についての本があったら買おう。ハクは幾つか適性があったらしいから、練習しないとな。」

「げぇ、本?身体を動かす方が良い。」

「良いじゃないか。魔法が使えるようになったら、戦いでもっと楽しい事ができるぞ。」


 特に固有属性の三つ。あれは名前から察するにハクとの相性がかなり良いのではないかと思う。

その研究をするにも、俺ができるのは通常の魔法属性の訓練法を教えることだけだが。


「ってことで、色々と店を見て回ろうか。」


◇◆◇


「この剣なんてどうだ!」

「おいおい、あくまで訓練用なんだからな。観賞用の剣なんて買わないぞ。」


 武器屋、というよりは刀剣屋の様な店でハクが目を付けたのは豪華な装飾をした黄金の剣だった。

かなりイカレた値段な上に、鞘と刀身に対する暴力的な装飾品の数々は見ていて殺意すら覚える。


「剣は5本程欲しいな。『鑑定』」


 『オートモード』を応用した『鑑定』。

これは俺自身の脳を自動で動かし、分析した結果を具体的な文章や数値で可視化したものを出す魔法だ。


『52』『63』『33』『55』『89』『35』『47』『66』


 数字で判別できるのは100点満点中の点数だ。

これを更に詳しくするには、もっと集中する必要がある。

ということで、適当に見つけた物の中から品質の良い物を5本ずつ。計10本見繕った。


「これで頼む。」

「はい、セットで銀貨20枚」

「5本も買ってくれるのか!?やったー!」


 3本を『ボックス』へ入れ、2本をハクへ持たせる。

喜んで刃の部分を見ているハクを横目に、各武器から一番良い品質の物を買うことにする。


 槍、鎌、短剣、縄、棍棒、杖、籠手、斧等。


 買っては端から『ボックス』へ突っ込む。


「魔法袋持ちって事は、お客さんらはお貴族さんかな?」

「いいや、違う。だが、仮に貴族だったらどうした?」

「貴族だからって訳じゃないが、ただ酔狂や物見遊山なんかで武器を買うってんなら追いだしたさ。ただ、あっちの娘もあんたもそんな風じゃないからな。」


 なるほど。

疑似的な『ボックス』の魔法を使える道具を持っていると思われ、それなりに金持ちだと思われたということだろうか?

 確かに、俺が店員の立場なら、こんな子供が大量の武器を買っているなんて絶対に勧めないが、この店員はそういった職人としての感覚からか、そこまででしゃばることは無かったらしい。


「心配してくれてありがとう。また来る。」

「おう」


 用は済んだので、次の店へと行く事にした。


◇◆◇


 次に訪れたのは小さな書店。

その中の魔法に関する本をいくつか立ち読みする。

 とはいうものの、魔法の使い方に関する本ではなく、種類に関する本だ。

ハクは読み書きが苦手なので、俺が学んだことから掻い摘んで教えるという方法が一番効率的だ。


「あれ、君達......」

「あっ」

「あ!」


 棚の奥に見覚えのある人を見かけたのだが、どうやら相手も俺達に気付いたらしい。

しかし、こんな所で油を売っていて良いのだろうか。今頃試験の採点や会議を行っていると思うのだが。


「アナタ達、すでにこんな所まで来ているなんて、中々抜け目ないわね。というよりも、ノア君の案かしら?」

「というと?」

「他の受験生はこんな書店まで来て魔法の本を見ようなんて思わないからよ。大抵は試験の結果が気になって外へ出る余裕が無かったり、自信があったりしてもそれに満足して鑑定した属性について学ぼうなんて考えないからよ。」


 ふむ、そこまでが慣例化しているとなると、この教師も年若く見えるだけで、勤続年数はそれなりにあるのだろうか。

 

「あ、それとノア君。話があるのだけれど。」

「はい。ハク、向こうに剣術指南や歴史的な戦士の英雄譚があった。三冊までなら買っても良いから、ちょっと見て来てくれ。」

「わかった!」


 どうやら俺にだけ用があるらしいので、ハクは少しだけ離れてもらうことにした。


「ありがとう。あの子の扱いが随分上手いのね。」

「小さい頃から一緒なので。」

「今でも十分小さいでしょうに......」


 そう言われると耳が痛い。

確かに八歳のやりとりじゃなかったかもしれない。

 精進せねば。


「と、話を戻すわ。あなた、自分が属性を持っていないという事を知っていた様だけど、それでもうちの学園に入るつもりなのね?」

「はい、周りの目は気にしないので、話は単純シンプルにお願いします。ハクは恐らくあと五分ほどで本を持ってくるので。」

「え、ええ。とにかく、学園が【無】属性にとって厳しい環境なのは知っているのね?」

「はい、【無】属性は比較的下に見られ易く、場合によっては無能と呼ばれるのも知っています。」

「そうなの......でも、もしも辛くなったら、いつでも先生の所へ来てね。そうじゃなくても、【無】属性に対して理解のある先生もいるから。」


......


「わかりました。ですが、あまり期待しないようにしましょう。」

「えっ!?な、なんで?」

「ノァ!これが良い!」


 咄嗟に疑問を口にした教師の言葉を、ハクの声が遮る。

それを会話終了の合図として、俺はハクから預かった本を会計して店から出た。


 魔法の本は内容を覚えたし、もうここに来ることは無いだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る