第2話

『そ、そろそろ転生の準備に入って良いかな?ここまで粘る人間は初めてだよ。』


 疲れた様子の包帯男は、溜め息と共にそう言った。

神に呆れられるほどなのだから、そうとうな物だろう。


『私はいっぱい一緒に入られて嬉しいわ!』

「友達の少ない身としては、どう接すれば良いか分からなかったが、喜んでくれたならなによりだ。」


 これからの方針は概ね決まった。

とは言え、友達三号の機嫌は取っておきたい。

 もう少し話した方が良いだろうか。


『ちょちょちょ、ちょっと待って!もう止めて!ぼく疲れたから!』


 包帯男が、包帯に汗を滲ませて懇願する。


そんなに長く話しただろうか?興奮すると時間が分からなくなるのが俺の悪癖だ。


「じゃあ、そろそろ準備してくれ。」

『う、うん。わかったよ。』


◇◆◇


 といった内容を、俺は最近になって思い出した。


 何故、こうも時間が立っている風なのかというと、俺は既に四年もの時をこの世界で過ごしてしまったからだ。


 予想外の出来事だった。

まさか、転生によって四歳の誕生日までの時間を、棒に振る事になってしまうなんて。


 気を取り直して、現状の確認をしよう。


◇ ◆ ◇

ノア・オドトン 四歳 男

HP:10/10

筋力:3

魔力:4

敏捷:1

忍耐:2

知力:9

幸運:100


適性魔法属性:【無】


加護:【最高神の加護】【恋する女神の加護】


称号:【幼児】【転生者】

◇ ◆ ◇

【最高神の加護】最高神との通信が可能、解放レベル1


【恋する女神の加護】女神パルエラとの通信が可能。偶像召喚 解放レベル2


【幼児】ステータスを90%ダウン


【転生者】成長度を50%アップ

◇ ◆ ◇


 これで平均と言った辺りだろう。

近場の子供を見ても、同じ様なステータス内容だった。


 ここで、現状の把握だ。


 俺はどうやら、普通の村人の過程に生まれた様で、三人兄弟の五人家族で過ごしているようだ。

と言っても、9つ離れた姉と、3つ下の乳幼児である妹という、アンバランスな家庭である。


 父親と母親はどちらとも平民で、恋愛結婚の末に家庭を築いたそうだ。

そのせいか、結婚20年目に差し掛かろうかという程なのに、未だに熱が冷める事は無い。


 また、住んでいる場所も普通で、人口が百人弱の村だ。

近隣の住民も仲良くしてくれる。

 時代背景の割には随分治安の良い場所だ。


 しかし、森や山と隣接しているせいか、時折魔獣と呼ばれる謎生物が現れる。

動物をベースに、大幅な強化と凶暴化をした様な生物だ。


 そのせいで、年間に少なくない数の人間に被害が出る。

このままでは、十年としないうちに廃村になるだろう。


 その理由として、若者達の里離れが上げられる。

冒険者という魔獣と戦う職業が人気のこの世界では、冒険者となって活躍する事が出世の最短ルートである。そのため、こんな辺鄙な村よりも、人の多い王都や大都市の方が良いと、行ってしまうのだ。


 むしろ、よくこの年代までこの村が保たれたのかが、俺には疑問である。

過疎化は深刻だが、人を育てるのも楽ではない。

 それなのに、俺が成人するまではそれなりに時間がありそうだ。


 さて、ここで話を切る。

俺のステータスについての話なのだが、どうやら完全に補正は無く、本当にただの子供と同等の能力しか無い様だ。


 とはいえ、記憶と神からの助言があるだけで、十分と言えるだろう。


 そして、俺のこれからの方針なのだが、着実にステータスを上げるのも勿論の事、それだけではかなり厳しい。

 男なら世界最強とか目指したいが、特別な才能もある訳じゃなし、堅実に行こうと思う。


 そこで、称号と加護についてを考えた。

 称号とは、ある一定の成果を挙げた者に与えられる物で、ステータスを倍増させる効果があるようだ。

例えば、『剛腕』という称号には筋力を1.2倍する効果があるし、『魔法使い』なら魔力が1.3倍だ。


 細かい部分は置いといて、それがあれば俺でも強くなれる。


 次に、加護というのは、神々から貰った物と同様に、それなりの恩恵をもたらしてくれる物だ。

その多くは、非人間によって与えられる。

 神であったり、精霊であったりと様々だ。

 しかし、加護は多様性があり、ステータスを上げるだけではなく、属性魔法を使えるようになったり、召喚して戦わせたりもできるらしい。


 これを活用しない手は無い。


◇◆◇


 父の部屋から加護に関する伝承の載った本が見つかった。

何故この様なものを父が持っているのかは分からないが、神からのささやかな貢ぎ物だと思おう。


 しかし、喜んでいるのも束の間、俺はあることに気付く。

俺は文字が読めない。

 まさかの出来事だが、それもその筈、幼児期から聞きなれている言語は喋るくらいなら問題ない。しかし、大人になれば勘違いする話だが、文字と言葉は同じ割り当てがあるだけで、それをそのまま読むことはある程度の教養が無いと不可能であると言う事。


 ただ、前世の記憶から、恐らくの推測やある程度の推測なら可能だ。

伊達に義務教育を受けている訳じゃない。

 それでも、解読は難航しそうだ。


 それはそれで熱くなる訳だが。

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