04

 S08によって、勢いよく殴り飛ばされた扉とG45。

 聴覚を強化していないS08でなくても、遠くに聞こえた扉が叩きつけられた音とG45の怒鳴り声に、ご満悦とばかりのT19の後ろで、O12はありえない物を見るように前方を見ていた。


「先にやる内容は言え」

「マジでできると思ってなかったしぃ? ゴリラ遺伝子でも入ってんの?」

「俺に入ってるなら、お前にも入ってるだろ」

「初期型と一緒にしないでくんない? ねぇ? O」

「え、うん」


 同意を得られたと、T19はS08へ文句を口にしながら、扉が無くなった研究所の中に入ると、廊下に座り込む怯えた顔の研究員がいた。


「あ、ちょうどいいとこに、かわいそーなお姉さん、みっけ」

「ヒッ……」


 まるで何も起きていなかったかのような無垢な笑顔で、T19は研究員の前に屈んだ。


 その頃、正面玄関から繋がる、一番奥の廊下まで辿り着いたG45は、ひとしきりS08とT19への恨み言を吐き終えると、視界に見えた重厚な扉を見上げた。

 似たような扉を、以前にも見たことがある。


 決して近づいてはいけないと言われていた扉で、そこから出ていく人を追いかけて行こうとした奴らは、みんな殺された。

 自分たちと同じような奴らを閉じ込めておく施設。


 つまり、P03が攫われて、閉じ込められるなら、この先だ。


 考えが至れば、行動は速かった。

 前回と同じように、その扉を力任せに、こじ開ける。


「ウラァァァアアァァアァアッッ!!!!」


 正面玄関よりもずっと重い扉を、両手でこじ開ければ、扉の前に倒れている楸がいた。


「楸!?」

「じ、ぃ……?」


 G45はすぐに楸をその場から引きずり出すと、楸を壁際に寝かせ、楸を守るように一緒に飛んできた扉を壁に立てかけ、自分は扉の向こうへ戻ってしまった。

 毒ガスが撒かれているであろう区画へ向かおうとするG45を、止めようと声を上げるようにも、絞りも出せない声。


「――――」


 動けない体に、楸は手を伸ばすのも諦め、目を閉じれば、自分の身を隠していたはずの扉が退かされる音と差し込む光。

 瞼を震わせ、目を開けてれば、扉を退かした相手の影が目に入る。

 子供のような、小さな姿。


「役立たず」


 S08だった。


 足を持って、引きずるように部屋に放り込まれれば、そこにはT19とO12の姿もあった。


「お、意外に生きてた」


 いまだに痺れて動かない体を遠慮なく叩くT19に、楸は何も言えずに、視線だけでO12へ助けを求めれば、目があった末に、鼻で笑われた。


「役立たずはほっといて、とっととGに合流するぞ」


 言い方はともかく、S08の言葉は、楸も同意できる。

 置き去りにはしてほしくないが、あの毒ガスが撒かれた場所へ行ってしまったG45を助けに行かなければいけない。


「ヤダよ。お前らと違って、僕らはか弱いの」


 だが、T19は否定すると、あろうことかS08だけを行かせようとし始めた。


「てか、お前らの毒耐性高すぎるんだよ。先に、ガス止めてからにしてよね」

「…………なら、早くやって、合流しろ」


 それだけ言い残すと、S08は部屋を出て行った。

 残されたT19は、閉じた扉を唖然と見つめていたが、


「…………ハァ!? 何言ってんの? 前とは状況違うんだから、できるわけないだろ!」


 扉の向こうで、聞こえてるであろうS08に向かって叫んだ。


「何アイツ!? 言えばできると思ってんの!? バカなの!?」

「できないならしょうがないって……」

「あの脳筋バカ共に、できないって思われんの腹立つんだけど!? やってくるわ!」


 S08に続き、苛立ったように部屋を出て行ったT19に、楸は視線だけO12へやった。


「Tって、案外チョロい?」

「…………後でチクっとく」

「ちょっ……!? Oちゃん。氷砂糖あげるから、見逃して」


 警報が鳴りやまない研究所内で、楸は、銃を入口に向けたまま、待機するO12を見つめていた。


「前もこんな感じだったの?」


 ヴェノム研究所の詳しい話は聞いていない。

 だが、先程の言動から、緊急処理の経験はありそうだ。


 あるとすれば、ヴェノム研究所が潰れたその瞬間だろう。


「…………知るか」

「そっかぁ」


 この部屋にガスは撒かれていないのか、少しずつ呂律も回復してきている。

 既に潜入も何もなくなっているが、おそらく牧野もこうなることは想像の上だろう。


 ならば諦めて、G45とS08が、P03を見つけ出してくれるのを待つのが一番だ。


「…………ヤッベェ。寝そう。置いてかないでね」


 O12の冷たい視線が、楸に突き刺さった。

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