04
痛みも、苦しみも、与え続けられれば、いつものことだと慣れてきた。
思考は既に止まり、体も既に動かなくなった時、隣にいたのはP03だった。
「どうして、こんなことを続けるんだ。どうせ、誰も救えやしないのに」
元から生かすつもりなどない。
彼らは、データさえ取れればいい。自分たちを生かすつもりなどない。
むしろ、生まれてから死ぬまでの完結したデータを欲しているのだから、長生きなどしてほしくはない。
研究者にとっても、実験動物にとっても。
「でも、みんながいなくなったら、私ひとりぼっちになっちゃう」
頬に触れた手は、頬強く上に掴み上げる。
「それに、苦しいのはイヤでしょ?」
「……まぁ、それは、イヤだな」
だからだよ。と微笑むP03の腕を掴み、頬から離せば、少しだけ不服そうに口をへの字に曲げる。
「なら、治してくれ」
貴方をひとりぼっちにはさせない。
そう思っていたのに、P03の悲鳴は響き渡った。
ただ、頭がどす黒い何かに飲み込まれたようで、怒りに身を任せて、自分を邪魔する奴らを全員叩き潰した。
それで、ようやく辿り着いたP03は、自分たちにはどうすることもできなくて、人を、人間を任せるしか方法が無かった。
「――――」
だからこそ、薄れていくP03の感覚は、覚悟していた。
わかっていた、はずだ。
「G。諦めがついたな」
「……」
最後まで、牧野を信じたいと言ったG45も、薄れた感覚に顔を伏せた。
S08は、ドアまで近づくと、鍵ごと力尽くで開けた。
「お前ら……! 大人しく部屋に――」
最初に目についた人間が銃を構える前に殴り倒せば、周りにいた人間が銃を構え、こちらを狙っていた。
身を屈め、足払いをすれば、近づいてきた足音が跳躍し、後ろにいたもう一人を倒す音がする。
「すごーい。やばーん」
遅れて部屋から出てきたT19とO12は、倒れた人間の体を弄ると、それぞれナイフと銃を持ち上げた。
「え、それ、使い方わかんの?」
「前に使ってるのを見た。それほど難しくはねェよ」
O12が銃を構え、撃てば、以前聞いた音よりずっと軽い音が響く。
音と弾の形の違和感に、S08とO12は不思議そうに銃に目をやるが、聞こえてきた銃声に一斉に駆け出す。
「お前たち! 止めろ!」
叫ぶ男にG45が近づけば、表情を歪めると同時に、銃を撃ってきた。
針の形をした弾は、G45の肩に命中するが、速度は落ちず、その勢いのまま飛び掛かられる。
「ぐっ……! 落ち着け! P03は生きてる!」
先程、久留米から入った情報を口にするが、G45は目を細め、熱い息を吐き出した。
「嘘、つくなよ」
血走った目で口を開く様は、正に肉食動物のようで、男は小さく息を飲んだ。
そして、男の喉元へ噛みつこうとしたその時だ。
『喧嘩は、ダメだよ』
ノイズ交じりに聞こえた言葉に、S08は、噛みつきかけていたG45の襟を掴み、引っ張った。
「Pの、声……?」
「えっ!? どこ!?」
「寝ぼけてんのか?」
「しっかりしてよね」
姿は無い。
だが、確かに聞こえた声に、S08は声がした方向をじっと見つめるが、G45に食われかけていた男しかいない。
男は無線機を取り出すと、地面に置いた。
『もうすぐ、会えるから』
今度は、確かに他のヴェノリュシオンたちにもP03の声が聞こえた。
あまりにか細い声で、内容までは聞き取れなかったが、確かにP03の声だ。
『みんなと、なかよく、ね?』
無線の言葉はそこで終わった。
S08は、他のヴェノリュシオンたちに、P03の言葉を伝えれば、全員の眉をぴくりと反応する。
「じゃあ、ここでPのこと待ってればいいの?」
ただひとり、嬉しそうなG45に、三人は明らかに眉を潜めた。
先程のP03の真意を探るならば、きっとG45の言葉が正解だ。だが、どうしてこちらに銃を構える人間と仲良くしなければいけないというのか。
「やっぱ、信じてよかったじゃん!」
麻酔弾を撃たれてなお、嬉しそうに笑っているG45に、三人はそれぞれ一発ずつ殴っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます