第15話 エルシアには秘密の買い物


ーー随分、騒がしいな。


 試着室から少し離れたソファで待つクロードは、言い争うマダムとエルシアの声に思わず席を立つ。


(エルシアの身に何かあったのか?)


 

 不安になった彼は、急ぎ足試着室に近づいた。



「エルシア、どうかしたのか?!」


「開けないで下さいっ」



(……もしや! 暗殺者でも入り込んで脅されているのかっ)



 叫ぶ様な悲痛の声に駆り立てられたクロードは、迷わず試着室のカーテンを引いた。


 エルシアの願いは聞き届けたいが、危険が迫っているなら話は別である。



ーーだが、クロードが目にしたのは。



(おとぎ話に出てくる、人魚姫のようだ……)




 白い肌をより一層際立たせるドレスに身を包み、胸元を両手で隠して真っ赤染まった顔をフイッと横に背けるエルシアであった。



「殿下のエルシア様は、お可愛らしいだけでなくスタイルまで完璧でございますね」



 マダムの言葉に、思わず何度も頷いたクロードである。



「開けないでって言ったのに……」


「す、すまなかった。何かあったのかと思って」



(睨んだ顔まで可愛いなんて反則だろ……)



 あまりジロジロ見てはいけない、だってエルシアがそう言っているのだから。


 そう自分に言い聞かせるのに、クロードは目の前のエルシアから目を離すことが出来なかった。



 普段のエルシアは、黒髪黒目と言う容姿と落ち着いたドレスからあまり目立つ方ではない。


 けれど、こんな格好で社交界に出れば今まで彼女の魅力に気が付かなかった者まで魅了してしまうだろう。




「そ、そのドレスが気に入らないなら別の物を何点かマダムに持って来て貰う。カーテンも閉めるから安心してくれ」


「……お願いします、殿下」



(それに俺以外の男に、こんな姿を見せたくないからな)



 マダムに露出の低いドレスを何点か見繕って貰った結果。


 淡い黄色のオフショルダーのドレスをエルシアが気に入り、パーティー用に購入することとなる。


 勿論、クロードのカフスは同じ黄色で揃えることにした。


 だが、それとは別に。



ーー想いが通じたら、いつか二人のときに着てもらおう。


 クロードが、マーメイドドレスをこっそり購入していたのはエルシアには秘密なのであった。

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