第27話

 僕たちはモンスターが一匹も現れない道を慎重に進んだ。


 どれだけ進んでもモンスターが現れないことでダンジョン暴走に巻き込まれたと確信したらしい有原先輩はどうするんだよ……これと小声で井上先輩と話し始めた。


 聞こえないように、不安にさせないように話しているつもりなんだろうけど、聞こえては意味がないのでは……?


 まぁ別にそれでも西野さんが僕に余計くっついてくるだけで害はないからいいが。



 そしてしばらく歩いていると突然キャアア!と悲鳴が聞こえてきた。


「まさか……誰か他にも巻き込まれてた人がいたのか?」


 そう言い終わるや否や助けに行ってくると有原先輩が一人で駆け出してしまった。


 それに僕たちも走って付いていく。


 開け放たれたボス部屋の扉の前で立ち尽くしていた有原先輩に追いつくと部屋の中を窺がい見る。


 その中に広がっていたのは一方的な暴力だった。


 黒竜ブラックドラゴンと二人の黒ずくめの男性と女性が戦っていて、おそらく攻撃をもらい気を失っているのだろう男が他に三人。そのなんとか戦っている二人も常に押されている状況。


「あいつを倒さないといけないのか……」


 ゴクリと息を吞み、呆然としている声が隣から聞こえてくる。


 ——黒竜ブラックドラゴン、それは数種類いる龍種の中では最弱の竜だ。大体、三匹で蒼竜ブルードラゴンと同じくらいといったところ。


 ただそれでも竜種というのはモンスターの中でトップクラスの強さを誇る。魔力が使えない状態で人が遭遇したら敗北は必至。


 見守っているうちになんとかギリギリ耐えていた二人がドラゴンのしっぽを振り回す攻撃をもらい、地に伏した。その瞬間、ドラゴンは飛び上がり、魔力をまとい始めた。


(まずい。このままだと間違いなくこの人たちが死ぬ。それにどちらにせよ、こいつをやらないとここから出られない。それなら僕の存在に気を使っていない今がやりやすいか)


 迷っている暇はないと僕は先輩たちを押しのけ勢いよく地面を蹴り、空を舞う黒竜の前に躍り出た。そして、間髪入れずに腰に差していた普段は使わない剣を一振り一閃。


 着地して空にいる黒竜を仰ぎ見る。


(やれたか?強化魔法無しでの攻撃だけど……。分からないし切り刻むか)


 切り刻もうとした瞬間、黒竜の頭と胴体が泣き別れして地面にズシーンと音を立てて落ちてくる。


「えっ、弱っ」


 ダンジョン暴走で強いモンスターが生まれるんじゃないのか?明らかにこのダンジョンすべての魔力を吸収してない強さなんだが。……まさかこういうことか?実際はボスが魔力を全部吸収していたわけではなくて僕たちが負わされる魔力使用禁止のせいで強くなって見えただけみたいな?


 そんなことを一人考えながらしばらくダンジョンの床へと吸い込まれていく黒竜を見つめていたが、辺りからううん……と声が聞こえてきたことで意識が現実に引き戻された。


 駆け寄り怪我をしているらしき女性の介抱をしていると身体に何かが戻ってきた気がした。……魔力か。それならばと僕は部屋中を対象に魔法を飛ばした。


「——完全回復パーフェクトヒール


 今まで魔力が使えなかったのが、しっかりと起動して全員の傷を癒していくのを見て少し満足する。


 そこで僕は初めて入り口で固まっている先輩たちに気付いた。


「先輩、何してるんですか?」

「上野くん、そんなに強かったの?」

「……ええ、まぁそこそこ」


 そこそこって……と半ば呆れたような顔をしている先輩たちをよそに起き上がってきた先ほどの黒ずくめの方々に声をかける。


「傷とかありません?」

「ええ。あなたのおかげでもう。……まずは助けてくれてありがとう」

「いえ」

「それとあなた……物凄く強いのね。あとで少しお礼の話も含めて話せない?」


 記憶書き換えるのでそんなことできないと思いますけどねと思いながら曖昧気に頷く。



 そしてじゃあダンジョン暴走に巻き込まれたけれど、ここにはボスモンスターがいなくて何事もなく脱出できたと記憶をいじることを決め、いざ書き換えて脱出しようとした時だった。


 僕は何となく光の反射を感じ、そちらを向いた。その先には……


「……カメラ?」


 カメラを肩に担ぎ、僕のことをばっちりと撮ってくれている男がいた。




———————————————


加奈さんについての話を少し弄って展開を変えるため、書き溜めがゼロになった件について。中間試験……。

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