第21話

 その試合開始の合図とともに九条は勢い良く僕の元に突っ込んでくる。


 僕はそれを躱して九条の攻撃を適当にあしらい続ける。


「クソ……、なんでだよ。いい加減当たりやがれ!ちょこまかちょこまかと避けてばかりでうぜぇなぁ!早くくらって死ねよ!」

「……周りに人がいるところでそれ言っても大丈夫か?」


 そもそもこの刃を潰された剣じゃ殺すとか不可能だろ……。これで斬り殺せないからと殴り殺そうとしても時間がかかるから間違いなく審判が止めに入るだろ……。まさか金でも渡して審判を買収したのか?


 闘技場内での魔法使用は魔力痕跡によってバレる恐れがあるので魔力痕跡を消しながら思考解析を九条にかける。


 ただ残念ながら奴の脳内には僕への殺意しか詰まっておらずそれが事実かどうかは確認が出来なかった。


 でも、まぁいいか。別に負けないし。


 その後、同じことをしばらく繰り返しても永遠に僕に攻撃を当てられずに痺れを切らした九条は突然火よ!と叫んで剣に火を付与して僕に斬りかかってくる。どこからか悲鳴と魔力を検知したことによる警報音が聞こえてくる。


 おいおい、殺すってルールを無視して魔法を使うのかよ……。確かにこれなら当てれば殺せるけどさ……。


 僕がそう呆れた瞬間、審判が口を開いて九条に失格を言い渡そうとした。


 駄目だ。こんな判定勝ちじゃ。奴にはしっかりと敗北を刻みこんでやらなくては。


 咄嗟に魔力痕跡を消しながら審判に黙れサイレントと魔法をかけてしゃべれなくする。


「そk……ん?ムゴムゴ……」


 危なかったな……。判定勝ちの危機?を乗り越えた僕は九条が振り下ろしてきた剣を躱した。その瞬間九条は懐に隠し持っていたダガーナイフを空いているもう片方の手で突き出してきた。


 ただ、それでも……


「遅いな」

「なぁっ!?」


 流石にこれは予想外だったのだろうか?僕にダガーナイフを突き出した腕を掴まれたことによりすっとんきょうな声を九条はあげた。


「ちょっ、離しやがれ!」


 そう叫び暴れてくるがそれも抑え込む。


 もういいだろう。奴のできる最大の攻撃、ルール違反による奇襲を防いで戦意を喪失させかけている今がチャンスだ。


「あのな九条。僕はお前のことを憎んでいる。お前が僕を逆恨みする以上にな」


 細胞レベルなんてものじゃない。分子レベルで。


「はぁ?だからなんだよ。無能は黙って俺の言うことを聞いていればいいんだよ!だからまず離しやが」

「もういい。黙れ——威圧インティミデイト


 僕は僕が出せる最大限の殺気を奴に向けた。


 奴はそれをもろに食らい、膝から崩れ落ちた。


「ああ、ああああああ……」


 瞬く間に口から涎を垂らして、ズボンを黄色に染めていた。……汚いな。そしてその数秒後、口を半開きにしたまま気絶した。


 何が起こったのか分からないという風に立ち尽くしてしまっている審判を軽く一瞥して魔法を解く。


「しょっ、勝負あり!勝者、上野天!」


 やっと話せるようになった審判による宣告で会場内が困惑に包まれているといえども湧き上がる。


 ふぅ……。これで九条に“探索者養成学園一の落ちこぼれ回復術士”つまり最弱キャラに負けた真の最弱という格付けができたな。


 気絶していて動けない九条を教師が保健室まで担いでいっているのを一瞬見てから、観客席で天くんサイコー!と叫んでいる加奈に目を向ける。


 これで九条に関してはほとんど終わりだし、じゃあ加奈にもケリをつけて終わりにするか……。




———————————————


九条くんまだ終わらないです。台所に出現するあの黒い魔物よりしぶといので。(苦笑)

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