第7話
翌日、僕は学園の授業を受けるため、教室に向かった。
そこには中々懐かしい顔ぶれが並んでいた。まぁ、残念ながら特にいい思い出などはないのだが。
僕の復讐対象の二人はっと。視線を巡らす。ああよかった。ちゃんと来てくれてる。ただ、まだ一日目だからか二人ともまだ精神を壊しているということもないらしく、二人でくっ付きあって何か慰めあっていた。その最中に二人とも僕が教室に入ってきたことに気付いたらしく少しおびえたような顔を見せた。
……というか誰もこの状況に何も言わないのな。
僕と加奈が付き合っていたのは周知のこと。それにも関わらず、あの事件について知っているのかいるのか知らないのかは置いといて、九条と加奈がくっ付いているのに疑問を感じないのだろうか?それともこの実力至上主義の世界では僕が無能だから奪われるのは当然みたいな感じ?
その疑問を晴らすために、適当に一人生徒を選んで思考解析の犠牲になってもらう。
……なるほど。あの二人は予め教室に早く来ておいて根回しみたいなことをしたのか。僕と加奈が別れたところでダンジョン内での事件があり、加奈と九条はくっ付いたと。先に話しておいて既成事実化を図ったのか。
一瞬、騙されている全員を洗脳してやろうかという発想が頭をよぎったが、すぐに早まるなと思いとどまる。二人の夢の中でクラス全員を裏切らせて糾弾させて裏切らせて、人間不信にでもするか。
復讐について考えていると、授業開始すれすれの時間になって西野さんが教室に入ってきた。そして、いつも加奈が座っていた僕の隣の席に座った。教室に少しざわめきが広がる。
「僕の隣に座っていいの?一応、無能なんだけど」
「……冗談を。あなたの隣りが一番安全じゃないですか。それに……その、私の思いは知ってるでしょう?私は少しでもあなたの心の傷を癒やしたいんです……」
あっちの世界での聖女様のような慈悲の籠った顔に僕は真顔で突っ込む。……僕の傷を癒やす方法は間違いなく復讐だけなんだけどな……。そんなこと口には出さないが。
そんな僕らがひそひそと話している様子を見て九条がチッと舌打ちを漏らす。
加奈に彗人?と言われて慌てて意識を戻したようだが……、大丈夫かあいつ?人から彼女を寝取った翌日に他の女の子が僕と話しているのを見て舌打ちするなんて。そういえばあの時も西野さんを自分のものにしようとして公然とハーレム的なのを作ろうとしてたしな……。うん、考えるまでもなかったただの頭おかしい奴だな。
授業が終わると僕と西野さんは再び学園長に呼ばれたので学園長室に向かった。
僕たちが入ると入ると学園長は早速話を進めてくる。
「これからの君たちのパーティーについての話なんだがね。君たちはどうしたい?これからも彗人と橋下さんと同じパーティーにいるかい?それともパーティーの変更を希望するかい?後者を選ぶとするなら私が責任を持ってパーティーを選ぼう」
正直、ダンジョンに潜れればどっちでもいいんだよな。まぁ、間違いなくパーティーを変えなかったら気まずいし、なんかとちくるって殺しにきそう、返り討ちにできるとはいえども後処理が面倒そうなので変えてもらおうかな……。でも、冷静に考えると西野さんはともかく僕みたいな無能を受け入れる物好きなパーティーがいるのか?九条はまぁ……。
「信頼関係とかもあるだろうから私は新しくパーティを組むことをお勧めするがね」
学園長が責任もってやってくれるというなら大丈夫か。一応保険として無断で
「それならお言葉に甘えさせて僕はそうさせていただきたいです」
「分かった。西野さんはどうだい?」
「……私も上野くんと同じで。……それともう一つお願いしてもいいですか?その……私と上野くんは同じパーティーに入れてほしいんです」
顔をわずかに赤らめさせながらそう言った西野さんから何かを感じたらしく学園長は愉快そうに笑い、分かったと言った。
話が終わったので僕たちは学園長室から出た。ダンジョンに潜ろうと思ったけど、あの様子じゃ、しばらくダンジョンには潜れないな……と思案しているうちに、ゴブリンの魔石のことを思い出して五年ぶりに妹に会いに行くことにした。……何故かそれに西野さんが付いてくる。
「どこに行くんですか?」
「ちょっと妹に会いに病院に」
「妹さん入院してるんですか?」
「ああ」
「じゃあ、私も付いて行っても……」
「……別にいいけど」
もうずっと僕以外お見舞いになど来ていないから少しは真新しくなる気がして僕はそれに許可を出した。
僕たちは無言で目的地まで歩いた。
そして、僕が立ち止まった場所を見て思わず彼女は息を呑んだ。
「ここは……」
階段で最上階まで上がる。病室のドアを開けて中に入る。恐ろしいほど静まり返った部屋に規則正しく心電図のモニターが心臓の拍動を伝えてピッピッと響いている。
僕は七年前から変わらぬ容姿の妹の額を優しく撫でる。西野さんは少し苦しそうな顔をしながら声を捻り出した……。
「妹さん、ダンジョン病なんですか……」
——ダンジョン病。
それはダンジョンが地球に現れると同時にこの世に出回った病気だ。
ダンジョンが現れるとあっちの世界と違い、地球は魔力が空気中に溢れているわけではないので、そのダンジョンはダンジョンの存在維持、すなわち魔力の安定化のために、誰か一人宿主を選んで魔力を吸い取り続ける。補足しておくと魔力を吸い取られている間、その対象者は時間という概念を忘れる。すなわち年をとらなくなる。
そしてそのダンジョンは安定化すなわち一度ダンジョンボスが倒されるまでは永遠に魔力を吸い取り続ける。ちなみにその対象の人から魔力を完全に吸い取るとその対象者は死に、ダンジョンは新しい宿主からまた吸収する。つまり、イタチごっこでありダンジョンを攻略しなくては根本的な解決にはならない。
だから僕は当初そのダンジョンの攻略のために、そして入ってからしばらくすると宿主に魔力を供給する魔石、保険があるとはいえ一般人ではとても手の届かない延命装置のために、ダンジョンに必死に潜り続けた。
「もう七年になるな……」
美玖は平和な日常を送っている中で突然魔力吸収による昏睡状態に陥った。当時、最強と謳われていた両親は妹をダンジョン病から救うためにその日登場した唯一のダンジョンに潜って死んだ。その時に配信されていた動画はまだネット上に残っている。
僕の両親を殺したのは黒い泥のような、それでいて触手とかも持っている文字通りバケモノだった。魔王よりも強い。というよりアレは自然の理に反する存在だと本能が言っていた。正直、今の僕でもおそらく勝てない、自然の理に反するつもりで行かなくては。つまり死ぬつもりで行かなくては。
ただ、僕が潜れることはないだろう。その日からそのダンジョンは“災厄”と呼ばれ、触らぬ神に祟りなしとばかりに政府によって立ち入り禁止のダンジョンになったから。
「気を引き締めなきゃな」
ちゃんと生きて帰ってきたぞ。お前のことを置いて先に逝くところだったけど。その借りもお兄ちゃんはしっかり返すから心配しないでくれ。
それからもう一回謝らせてくれ。ごめんな、美玖。お前のことを強くなっても救ってやれなさそうで。でもな、僕が死ぬまで面倒は見るから安心してくれ。少なくとも今回みたいにいきなり死ぬとかだけは回避する。
彼らへの憤怒から握りしめていた拳を開き、最後にもう一度美玖の額を撫でると僕と西野さんは病室を出た……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます