気まま恋愛ビリヤード小説 ”⑨ボールを入れれば…”

 イサムがマリコとつきあってもう7年になる。もう7年か、イサムはその言葉に含まれた今までの生活をもう一度かみしめてみる。場末のビリヤードで働きはじめたのがちょうど7年前。たしか仕事中に客のプレイを目を見はるほどの初心者だったっけ。深夜1人でのこって練習し、ボーラードが100をこえたころマリコとイサムは知り合ったのだ。


 数回しかビリヤードをしたことのないマリコがイサムのプレーを見て「プロみたい」ともらしたが、イサムは「まだまだプロなんか雲の上の存在だ」と返した。プロになるの、イサム、と何げなくきかれたとき、その声が将来に対してあやふやなイサムの頭にこだました。「プロになるのイサム、プロに」そうだ俺はプロになろう。イサムは決心した。プロまでのビリヤードの階段をかけあがってやろう。


 あれから7年、大学を出たあと就職したがビリヤードのプロしけんにうちこむため2年前やめた。バイトの少ない収入とマリコの助力がイサムを支えた。何どくじけそうになったことか、そして何度マリコにはげましてもらったことだろうか。


 着々と実力を伸ばしたイサムは1ヶ月前、ついにプロテストに合格した。イサムはついにプロになった。プロまでたどりついたんだ。


 結婚しようマリコ、もう俺はビリヤードで食っていける。俺についてきてくれ、その言葉をイサムはいいだしかねていた。本当にビリヤードだけで生活できるのか、自分はまだプロになって実績がない。新人じゃないか、


 ある夜、イサムが練習しているとき、マリコが顔を出した。何かいいたそうな顔だ。しかし何もいわない。おまえのいいたいことは、いや俺にいってもらいたいことはわかっているんだ。イサムもだまって突いた。


 ガツッという心地よい音とともに⑧ボールが落ちた。⑨ボールを入れればますわり、完全に白球と⑨は一直線だ。


 ちらりとイサムはマリコの顔をみる。練習とはいえ緊張している。この一直線がなかなかあなどれない。白球と⑨がまっすぐになるようにイサムはかまえながらイサムは考えた。マリコはいままでまってくれた。この⑨ボールが入ったら俺は新しい生活をまた歩みだせるんじゃないだろうか。この7年間ビリヤードにひた歩りに歩ってきた。これからも歩りつづけるだろう。一直線な7年間だ。もしこの7年間がまちがっていなければ白球をまっすぐにつけるはずだ。それでこれからもまっすぐに歩いていける。この⑨ボールを入れれば俺はマリコに自信をもって言えるはずだ、⑨ボールが入れば…


おわり

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