中村文庫

ぶるうす恩田

純粋恋愛ビリヤード小説

 目がさめて時計を見てみる。昼の11時か。朝4時にビリヤードから帰ってきたときはもう起き上がれないほどの疲れだったのに。7、8時間ねただけて疲れがとれた。久しぶりだ。こんな朝は。


 台所のテーブルに書きおきがあった。ああそうか、マリ子は今日も試合だったのか。”10時までに帰ります、夕食は食べときます”こんなこといちいち書かなくてもいいのに。どうせ俺の生活は昼起きて3時間働いて夜ビリヤード、朝帰宅だ。もう3年になるかな、こんな生活は。


 3年、もう3年か。マリ子と結婚したことが遠い昔のようだ。3年間の怠惰な生活が、3年前の思い出をくもらせているのかもしれない。


 ウーン、と背のびをしてみる。気持ちがいい。今日はいやに調子がいいぞ。朝起きたときわかった。テーブルの上に用意された朝めし兼昼めしをたべる。こんなに体が軽く感じられる朝はいつもマリ子と決婚する前の、あの全盛期を思いだしてしまう。そう、俺のビリヤード人生はあの時が一番輝いていた。


 高校のころからのめりこんだビリヤードで食べていこうと思ったのは大学4年の春だった。就職する気は毛唐ない。プロになれなければ新潟に帰って百姓さなるだ。そんなことを考えていた。とにかくビリヤードの日々だった。しかし、そのおかげでプロになれた。話題の新人としてけっこう有名にもなったっけ。そして同期のプロにマリ子もいたのだった…


 地方の、プロ、アマ、男女を問わないちょっとした大会で初めて知りあった。互いに会うのは初めてだったけど、そんな気がしなかった。その後5年ほどつきあって決婚した。そして3年たった。


 8年間の間にマリ子は女子日本のプロでメキメキと頭角を表した。世界大会にも出た。ビリヤード雑誌ではもうおなじみの顔だ。それにくらべて俺は。自分の才能に限界を感じ、マリ子と決婚して1年目には悩んだ末プロもやめた。あの選択は正しかったのかどうか。今でもわからない。こんな生活をつづけていていいのか。幸い収入はマリ子のとあわせて決構ある。しかし、大学の時の、あの情熱はどこにいったんだ。今日の俺なら全盛期の俺にも勝てる。しかし心の底からわいてくるあの熱意が感じられないんだ。


 結局俺は負け犬だった。と人はいうかも知れない。だけど俺はいつかあの情熱をとりもどしてみせる。今は雌伏の時なのだ。いつか、きっとあの情熱を…


おわる(?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る