最後の給食は裏切りの味

@chisachisa0906

最後の教室

 田んぼだらけの広い土地がある。その中に一本道があって、そこを進んでいくと、今は廃墟へと化した小学校がある。

 私は時々ここに来る。

あれから何年経ったかな。

私も大人になった。もうここを離れて新しい場所へ旅立つ。

光のない、校舎。草の生えた校舎。

今日で見るのも時々来ることもなくなるかもしれない。

あの日、私が大人に負けたから、こんなことになった。

いつもは諦めていた校門の前の立ち入り禁止の張り紙、今日ばかりは許してくださいと、中に入って行った。

 「うっわあ、やっぱりこうなるよね、」

学校の中は草だらけで、なんならちっちゃな木も生えてる。

足元を鼠が通って行った。その後ろからは、野良猫が。

あの日私たちで役目を終えた小学校は、今は自然たちの学校となっている。

長廊下は歩くとギシギシと音をたて、今にも床が抜けそう。

左手には窓、右手には部屋が連なっている。

職員室、音楽室、造形室、、、。

「うん、ここだね。」

『僕たちのくに』

そう書かれた部屋。かつて私たちが学んだ教室だ。

中に入るとあるのは真ん中に並べられた13の机と椅子、それに寄せ書きのようなものが書かれた黒板。

一つ一つ見ていく。

『先生がいなくなっても、みんなで、喧嘩せずに仲良くしてね。 ときりす先生より』

『大人になったら会おうね! はねよ』

『私と羽世は成長し続けます! 舞夜子』

『ぼくも新しい学校頑張るます。 トペロ』

『ぼくも兄さんと日本語の勉強する! アデンレ』 

『寂しいけど、頑張るよ。りふ』

『私と仲良くしてくれてありがとう。 まいと』

『ボクは国に変えることになったけど、また日本に来るから、バイバイ トーマス』

『忘れないでね。 まい』

『来週遊ぼうぜ! 矢子』

『僕おねえちゃんとお揃いのゲーム持ってくるよ! たいだ』

『僕も、みんなとまだいたいよ しもん』

、、、みんなこんなこと書いていたんだ。懐かしいな。

でも、私のはなかった。

後ろを振り向くと変わらずある13の机と椅子。

正面から見ると左側の窓から光が入って美しい。 

足元、何か踏んでる気がして下を見た。黄色の破れた布。 

よく見るとボタンが付いてあったであろう跡が。

、、、、、、よく私が来ていた黄色のコートの一部。

あの日、最後の最後に破れちゃったのかな。

「、、罪だね、私と言う私は。」 

嫌なことを、全て思い出してしまうじゃない。

もう一度黒板を見る。

『大人になったら会おうね!』

会えなかった。

私は黄色のチョークを一本手に取って、こう書いた。

『ごめんね。 ゆだね』 

私は教室を後にした。

 あの日から罪の意識は消えていない。

今の私は、当時の誰にも顔向けできないだろう。

学校の扉を開けて、校門までの短い距離にハナズオウの木が植えてある。

綺麗に花を咲かせて。今も。

よくこの木の下で、遊ぶ時は待ち合わせしたな、、、

私は木の根元に座った。

「ねね、ハナズオウさん。私今日で多分会えるの最後だからさ、少しお話ししてもいい?」

もちろん返事はない。

どっかで『沈黙は肯定』と聞いたことがある。

「にゃあ」

「あ、さっきのねこ。」

後ろから聞こえてきたのは、さっきネズミを追いかけてたねこ。

なんか、ネズミ咥えてる。捕まったんだな、、、

「ねこちゃんも奇遇だね。じゃあ、ハナズオウさんと一緒に話、聞く?」

「、、、」

沈黙は肯定。ペットネズミを放し、ねこは私の元へ歩いてきて、私の膝下にすわった。可愛い。

「じゃあ、聞いてもらおうか。

私の、裏切りの話を。」




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