第8話 心のさざ波

過去と言うには最近すぎる話

 会社のお茶をするスペースで、文芸好きの若い女の子と話をした

 原因がこれといって無いのに落ち込んだ話題で始まり、ダウナーぽい話となった。

ふられ話は面白い物語にすることができないと、私が前から思っている意見に同調してくれるかどうかが興味深かった

 暗い話で統一する気は無かったが、その時に話したのは、こんな話だ


 かなり前の出来事。社内誌の通信員という役割りを私と他部署の女性との2人でやっていた。たまに記事を書いて社内の本部みたいなところに原稿を送る役目だ。

 特別に仲がいいってわけではないが普通に接して仲良くやっていた。

 任期の終盤、その女性に私が言われた言葉がある。

それが「残念な人」という言葉

 その言い方が言葉の意味とは逆に明るく、わざと男っぽい言いっぷりがエモくて、よく覚えていると話した

 そしてその時、私の心にさざ波が立ったとも説明した。それがこの話の肝だからだ


 それを聞いた文芸好きの女の子は、お茶も飲まずに、私もひどいこと言われたことがあると、昔に言われた不遇な話を2つぐらい聞かせてくれた。

私は少し戸惑った。話の方向が私の意図とは微妙に違う

 実は私の通信員の話はこれで終わりではなかった。いやそうじゃないんだよと言いたかった続きの話はこうだ


 当時を再度思い返す

社内誌通信員の相棒とは言え、それほど親しくもない人に、付き合ってる人がいるだのなんだの個人情報を言ったりはしていなかった。

 任期の終盤、この通信員の女性は私の個人情報を誰かから聞きつけたようで、次の様に唐突に話しかけてきた

「なんだ・・・付き合ってる人がいたんだ・・・残念」

同じ "残念" だが違う

決してディスられてはいなかった

そしてエモかった

決して、私も思わせぶりな態度はしていない


 この話の "フリ" まで聞いて、私がひどいことを言われたと勘違いしたのが文芸好きの女の子。無理もない、私も話が下手だ


話のオチとしては、心にさざ波は立ったが動じなかった私は "偉い" というものだった


 私がひどいことを言われたことを慰めるかのように、自分もこんなひどいこと言われたと、自分の不遇な話を畳み掛けてきた女の子。

今更、どっちかって言うと、良く思われていたようだとは言い出せない

 

自分がひどいことを言われた話を2つも引きずり出して励ましてくれるなんて

なんて性格がいいんだろう


私の心にさざ波が立った

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