第9話 卒業1

 第二十四回AnDロボットサバイバルゲーム大会――第二十四回ARSG大会まで毎日のように演習が続いていた。

 朝練、授業、練習、バイトそしてアパートでは食事や睡眠など必要最低限の生活。

 十一月から続いた演習ももう六月を示している。コロニーでは殆ど四季がないので巡った季節など何の関係もなく進んだ。当初は日本の四季に合わせようという意見もあったが、その際に生じる損害を恐れた。渋滞や、病気、凍死など危険性をかんがみた結果、現在のような適温での運用が行われる事となった。

 冬から初夏に掛けて行われた演習。何度も演習相手や組み合わせを変えた。

 時にはすみれ達の女子チームとの男女混合チームでの演習も行われた。

 その間に熊達、先輩との別れ、新一年生の歓迎が行われた。

 熊は最後に僕に向かって「頼んだぞ!」と言った。そして肩に手をポンッと置いた。何を頼まれたのか分からないまま、頷いてみたもののどういった意味が含まれていたのだろう? それが別れの挨拶だった。しかし、同じ自衛隊に進むので不思議と不安や悲しみはない。どうせまた会えるだろう、としか考えてなかった。

 卒業したのは熊の他に、水越みずこし多佳子たかこ船越ふなこし麻耶まや、メカニックのはぎ尚人なおと、システムエンジニアの犬飼いぬかい平一へいいちだ。

 僕は熊以外の先輩とは殆ど、会話しなかったので詳しくは知らないのだ。

 新しく入学、入部した人はパイロットコース、メカニックコース、システムエンジニアコースの大まかに三つに区分された。

 まずは僕と同じパイロットコースに、川島かわしま芳江よしえ土井どい栄子えいこあさひ奈々ななが入部した。特にあさひ奈々ななは優れた操縦技術を持ち、反応速度も高い。

 メカニックは天野あまの瑠奈るなが入部した。同じメカニック整備士の一郎は瑠奈るなの正確さと順応力は凄いと褒めていた。

 システムエンジニアは安川やすかわ小陽こはるが入部した。小陽はどんくさいらしく少々、大変らしい。

 また、宝冠てぃあらへの追悼式が行われ、僕達は宝冠てぃあらの亡くなった宙域に花束を置いてきた。正確には浮かべてきたの方が正しいのかもしれないが……。あれから一年が経つとは思えなかった。

 花束を添える。その行為に何の意味もなくとも、僕の気持ちが少し和らいだ気がした。区切りをつける、そういう意味合いもあるのだろう。また、宝冠てぃあらの事を忘れずに済むのだ。一見、意味のない行為にも意味を見出す。そういった事が出来るのが人間なのかもしれない。

 とにもかくにも第二十四回ARSGAnDロボットサバイバルゲーム大会までは練習、新一年への教育の日々だった。男女混合の練習試合では部長の菫とぶつかる事も多々あった。こうと火月、それに僕の三人の連携は相変わらずだが随分とましになった。


 そして今日、ようやく第二十四回ARSGAnDロボットサバイバルゲーム大会が開催された。

 去年の教訓を生かし、警備隊が倍の数、配備された。また、コロニー内外に配備されただけでなく、コロニー外周に不審物がないかの確認。コンピュータウィルスに対応可能とされる特殊戦術AIXandra(クサンドラ)を搭載したMR-109SXミーナ改も動員しての開催だ。

 大会は以前とは違い始めに去年のテロ事件七・二三事件黙祷もくとうを行った後、開幕した。

 今年は全百二十五団体が参加、うまくいけば七試合で優勝だ。去年に比べ、少なからず参加団体数は減っている。およそ十二団体が不参加だ。しかし圧倒的に参加団体の方が多い。それだけ、この大会は有名であり、宣伝効果や経済効果が大きいという証拠だ。たった一度のテロで大きく参加数が減る訳でもなく、また大会中止にならない理由でもある。「テロに屈しない!」という日本とアメリカ政府の宣言も大きいが。


 開会式が終わり、輸送機内では慌ただしく試合の準備が始まる。

 燃料の匂い。油臭さ。鉄のような金属の匂い。錆びついた臭さ。嗅ぎ慣れた匂い。その匂いが鼻腔をくすぐり、反射的に身が引き締まる。

 システムの再点検を行う、朱里あかり小陽こはる。それにAnD-AR-022Sエッジに取り付く整備士、一郎いちろう優衣ゆいそれに瑠奈るな

 小陽が大型のパソコンをいじっていると、ピー、という機械音と共に赤いランプが点灯する。それに焦り色々とキーボードを叩く小陽に朱里が横から手伝う。一郎の言う通り、小陽は少々、どんくさいようだ。

 一郎の指示で、瑠奈が伝送部品のチェックを開始する。その姿をほうっと関心したように眺める優衣に一郎の指示が飛ぶ。優衣は慌てて指示通りに冷却剤及び噴射剤の充填を確認する。充填作業はほぼ、自動だが万が一の事を考え確認するようになっている。

 僕が自分の機体のコクピットに向かい、床を蹴る。無重力下では、床を蹴った反作用で体が流れていく。コクピットに取り付き、発進準備に取り掛かる。と、小陽が点検用のノートパソコンを抱え、コクピットに近づいてくる。

「内藤先輩! 点検用のパソコンです!」

 様々な機械が大きな音をたてる中、小陽も負けないくらいの大声をだす。

「了解」

 僕はモニターのチェックを行いながら、コックピットから片手を伸ばし、ノートパソコンを受け取ろうとする。が、柔らかい感触が手に触れる。よく見ると、小陽が僕の手を握っていた。そして小陽はコクピット内にノートパソコンを放り込む。

 僕はもう片方の手でノートパソコンを受け止める。

「内藤さんって、去年のテロを防いだ英雄ですよね!」

 小陽が今更ながら聞いてくる。若干、微笑みながら。恐らく今まで聞けずにいたのだろう。そもそも接点が薄かったのだから仕方ない。

「そんなんじゃない」

 僕は英雄などと大それた人間じゃないのだ。あの時は感情のままに行動しただけだ。それを英雄だの、やれスパイだの言う人がいるが関係ない。僕は僕の感情に従ったまでだ。

 確かに僕はテロリストの息子だし、テロ行為を防いだ。でもそれは結果論だ。そういったものを目指した訳ではない。

 そう思いながら握っていた手を放し、コクピット内の点検作業に移る。

 モニターのずれを修正する。

「じゃあ、スパイ?」

 その言葉を聞き僕は顔を見上げる。小陽はからかうように僕を見つめていた。

「なぜ、そう思う?」

 僕は前々から思っていた事を尋ねる。教室内でよく聞いた言葉だ。なぜ、そういった事を気にするのだろう?

「だって、テロリストの息子なんでしょ?」

 小陽は当たり前のように言う。からかうような表情は崩さない。その言葉がどれほど人を傷つけるのか考えた事があるのだろうか? 心外だ。

「間違ってはいない」

 僕は淡々と返すが、心に突き刺さった棘が抜けた訳ではない。テロリストの父。それがどれだけ僕達を苦しめたか。ある日、母親が首を吊っていた。恐らく世間の批判を浴び、借金まででき、将来に絶望したのだろう。周りが見えなくなるほどに……。

「でも、息子だから。……というのは理由になるのかな?」

 小陽は話すにつれ真剣な表情を浮かべる。僕はその表情を訝しげに見つめる。

 その質問は僕に対して、というよりもどこか遠くの人へ向けたものに聞こえた。

「……」

 僕は無言を返事にし、一瞬手を止めた作業を進める。

「なんかさ。他人ひとの噂って当てにならない、当てにできないですよね!」

 小陽は途中で僕が先輩なのを思い出したかのように敬語に変える。まあ僕は気にしない方なのだが。

「まあ、そんなもんだな」

 僕は表情一つ変えず、作業に取り掛かる。

「小陽っーー!」

 朱里が小陽を呼ぶ。どうやらシステム点検に戻れ、という事らしい。小陽は「はいっ!」と元気良く答えるとシステム点検用の備え付けの大型パソコンに向かう。

 入れ替わるように一郎が顔を覗かせてくる。

「整備、完了しました!」

 一郎は大きな声を上げる。ちなみに学校でよく話すのは一郎が一番だ。

「了解」

 そう言いながら、横目で燃料及び冷却タンクの残量を確認するが、ほぼ満タンを示している。

「どうですか?」

 一郎の横から瑠奈るなが顔を覗かせ、言う。不安げな顔だ。

 コクピット周りの整備を行ったのは瑠奈か。そう思いながら手元のパソコンに目を落とす。

「順調だ」

 そう言いながら今度はフットペダルや操縦桿の遊びを確認する。

「遊びも問題ない」

 僕は続けて話す。そしてノートパソコンのモニターを見やる。およそのデータは許容範囲内だ。

「良かったです」

 瑠奈は表情を緩め、少し笑う。僕はコクピット内の収納ケースからドリンクボトルを引っ張りだし、水分補給をする。中身はスポーツドリンクだ。

「システムも問題ないみたいですね」

 一郎が言うと笑顔を見せる。

 前から疑問に思っていた事がある。

「なぜ、一郎は敬語なんだ?」

 瑠奈は分かる。学年が下だからだ。しかし、一郎は同級生だ。敬語の必要はない。

 そう考えながらドリンクボトルを収納ケースに戻す。

「そうですね。……なぜか内藤さんは年上に感じるんです」

 一郎は少し考えながら答える。少し難しい顔をしている。

 年上に感じる、初めて言われた。

「そうか……」

 僕はそう呟き、データを見て、補正を加える。カタカタとキーボードを叩きながら。

「確かに。年上に感じます!」

「いや、天野あまのからしたら当然だろ!」

 瑠奈の言葉に一郎が突っ込む。瑠奈が「そうでした」と少しはにかみながら答える。

 そのやりとりが僕の口元を緩ませる。

 点検が終了したのでノートパソコンをシャットダウンする。

「内藤先輩は戦うの怖くないんですか?」

 唐突に瑠奈が尋ねてくる。いや、恐らくずっと疑問に思っていたのかもしれない。

 AnDに乗っていれば危険は付き物だ。実際に事件や事故に巻き込まれる可能性が高い。

「怖くない。……といったら嘘になるな」

 そう言いながらノートパソコンを閉じる。そして瑠奈の方を見やる。瑠奈は共感したような顔の後、不思議そうな表情を浮かべる。「だったらなぜ乗る」とでも言いたいのだろう。しかし、DNA政策――DNAによる職業選択の最適化ではその疑問も意味をなさない。だって、そういう決まりだから。

「ただ、それで世の中の役に立つなら……」

 僕は小さな声で呟く。

 瑠奈は複雑な表情を、一郎は真剣な眼差しを向けてくる。

 僕はノートパソコンのケーブルを取り外し、一郎に向かって軽く投げる。

「頼む」

「……分かりました」

 一郎は僕の意図をくみ取り、ノートパソコンと接続用ケーブルを受け取る。そして退避エリアに向かう。

「役に立つのでしょうか?」

 瑠奈は不安そうに尋ねる。それは僕達の行いが世の中に役立つのだろうか? という疑問だろう。

「自衛隊がいなければ、自治・独立は成り立たない。市民を守るのは誰だ?」

 僕は語尾を強めに言った。しかし、半分は自分に対する戒めだ。僕は何の疑問も持たずにAnDに乗っている訳ではない。

 父の言葉が耳から離れない。「失われた自由を再び、市民に!」、その言葉が脳内に響く。

 全ての自由が認められる訳がない。極論、全てが自由なら、人を虐めるのも、傷つけるのもその人の自由だ。しかしそんな事は認められない。人が生きていく上で、ルールは必要だ。人々の暮らしを良くするには犠牲も必要だ。その犠牲は僕達、いや僕だけで十分だろう……。

「……そうですね」

 瑠奈は考え込むように言う。そして退避エリアに向かっていく。

「なぜ、戦う必要があるの?」

 そんな独り言を残して瑠奈はコクピットから離れていく。

 戦う必要。敵が攻めてくるのだ。仕方がない。仕方がないんだ。戦わないと守れないものもある。

 凶悪犯罪に対しどう対処するか? その答えはある意味、簡単だ。こちらも武力を行使するしかない。だから戦う。でなけばもっと、より多くの犠牲が生れるのだ。それは容認できるものではない。


 ピピ、という電子音が鳴る。通信を繋ぐと菫の声が響く。

「内藤君。聞こえる?」

「聞こえます」

 僕は声色を変えずに応じる。

 本当はなぜ、連絡したのか聞きたいが。

「ならよかった。火月かげつ君はキミに負けたくないから、前に出ようとするだと思うの」

 菫は穏やかな声で言う。そして、火月の事が少し分かった気がする。

「どうして今更?」

 僕は抑揚のない声を上げる。

「きっと、いつ言っても同じだから。自分の方が強いんだ、と思わせたいでしょうね」

「そうですか」

 僕はそう言い終えると、菫は「それだけだから」と言い通信を切った。



 試合会場である座標に到達すると輸送機からAnDが飛び立つ。

 僕と火月、考はフォーメーションを組み、敵チームと対峙する。

 合図を待っていると隕石が敵チームとの間に壁を作る。どうやら隕石群がこの宙域にはあるようだ。ジャンク屋のアルバイトでは、うまみのないエリアで有名だ。つまり、人があまり来ないエリアなのだ。

「試合開始ーー!」

 大会の実況アナウンサーが声を大にして叫ぶ。その声は電磁波となり、無線から、スピーカーから流れ込んでくる。と同時に光通信で試合開始の電文が届く。

「おっしゃ!」

 火月がそう歓喜しながら、先行する。その行動に合わせるように僕もAnDを先行させる。

「待って! 火月は後方支援。内藤は俺と一緒に先行しよう!」

 考が叫びに近い指示をだす。そして考のAnDは僕のAnDの二十メートル程後ろにつく。

「了解」

 僕への指示はそのまま先行する事だ。しかし火月からの返事はない。

「火月! 後方支援だ!」

 考はなおも指示を飛ばす。

「この隕石群で後ろから撃てねーよ!」

 火月が苛立ちを見せる。火月の言葉は一理ある。この隕石では後方支援と言われても隕石にしか当たらないだろう。しかし、スナイパーが先行していい理由にはならない。

「来るぞ!」

 火月の注意が飛んでくる。と同時にデータを同期した僕の機体、考の機体にNo1という表示がモニターにつく。そしてNo1の後ろに座標が追記される。

 この位置からすると火月との接近戦だ。

「火月! 下がれ! 今行く!」

 考が指示をだしつつ、援護に向かう事を告げる。

 僕も火月の援護に向かう。が隕石に阻まれ交戦ポイントに向かうまでに余計な時間を食う。内心、舌打ちをしながら隕石を回り込む。ランダムな動きをする隕石に翻弄されつつも着実に火月の元へ向かう。

「くそぅ!」

 火月が毒づく声が聞こえる。

 ようやく火月の機体が見えてきた。

「援護する」

 僕は端的に言う。そして競技用のハンドガンを構え、狙いを定める。が、火月とNo1との距離が近く中々撃てない。恐らく僕の腕では火月に当ててしまう可能性がある。

 額に汗を垂らしながら、固唾を飲む。

 当てるなよ。威嚇でいいんだ。自分に言い聞かせるように小さく呟く。そしてハンドガンを撃つ。その弾道はNo1と火月の機体から離れた位置を流れていく。その弾に驚いたのかNo1の動きが少し止まる。その瞬間に火月は距離をとる。

「じゃますんな! こいつは俺の獲物だ!」

 火月の激昂が僕のAnD内に響く。せっかく援護しにきたのに何で怒られてんだ……。てか、どうしろと?

 競技用ハンドガンをおろし、戸惑う。

 火月が再びNo1を相手にしだす。と後方の考が追いつく。

 ピピ、という電子音が敵機の接近を告げる。

 どこに隠れていたのかNo2とNo3と表示されたAnDが僕の機体と考の機体、それぞれを目がけ接近する。どうやら敵チームは全て競技用ハンドガンを所持している。要は接近仕様のカスタマイズだ。

 ロボットサバゲではペイント弾の直撃でしか勝てない。故に、遠距離で方をつけるのが定石だ。そのため接近向きのハンドガンは敬遠されがちなのだ。

 その定石を破り、トリッキーな戦法でくる。

 僕はNo2のペイント弾をシールドで防ぎつつ、こちらもハンドガンで応戦する。

 横目で考の機体状況を見やると、考は距離を取ろうとしながらNo3と対峙している。

 よくみると敵機はAnD-AR-025Sゲッシュだ。僕達のAnD-AR-022Sエッジとは違い最新機だ。もちろんそれに伴い、出力の向上や初期加速の改善などが施されている。

 このまま防戦一方ではいずれ押し切られる。まずいな。

 No2がハンドガンを撃ちながら接近してくる。そのペイント弾を必要最小限の動きでかわし、こちらもハンドガンで応戦する。

 クッ、このままじゃジリ貧だ。去年の大会以降、シールドを投げるのは危険、と判断され今大会から禁止になったのだ。今までのようなトリッキーな戦いはできない。

 どうする?

 モニター端に映る火月の機体を見る。相も変わらず、競技用スナイパーライフルを鈍器のように振り回し、No1と距離をとっている。火月の長所は命中精度なのに……。

 考はバランスのとれた競技用アサルトライフルを装備しており、考自身もバランスがとれている事が長所だ。考も距離をとろう、と苦戦しているようだ。

 僕はモニターに映る機体の位置を確認しながら後退を始める。後ろに考の機体を捉えながら。そして思いっきりバーニアを噴かす! 青白い光が脚部から放射され、機体が後方に向けて――考の機体に向けて加速し始める。

 なおもNo2がハンドガンを撃って追いかけてくる。そのペイント弾をシールドで受け止めつつ、後方を確認する。

 No2が僕の行動を不審に思ったのか、或いはNo3に誤射しないようにするためか、ハンドガンを連射するのを止め、追いかけるだけになる。

 急接近する僕に気づいたのかNo3もハンドガンの連射を止める。と同時に考も応戦する手を緩める。

「ちょっ! な、内藤!」

 考が戸惑う声を上げるが構うものか!

 そして思いっきり考の機体にぶつける。ガンッという音と共に凄まじい衝撃がコクピットを揺さぶる。本来、コクピット内は衝撃を吸収する構造やそういった素材でできているので大した衝撃や音は起きないのだ。

 その衝撃の中、No3に照準を合わせハンドガンを撃つ!

 戸惑い、混乱するNo2とNo3。そのうちのNo3が被弾する。

 No3は退場、No2は血が上ったように僕の機体にハンドガンを撃ち放つ。

 僕はその弾をシールドで防ぎつつ、今度は接近する。No2に目がけて。

 その行動に驚いたのか、No2が連射を一瞬止める。しかしすぐに連射を開始する。だが僕の狙いはそこじゃない。

「考!」

 僕は普段、発しないほど大声で言う。

 遠くに飛ばされた考がアサルトライフルでNo2に撃つ。

 No2にとっては思いがけない方向からの攻撃。シールドに被弾し、その方向にNo2のセンサー、人間にあたる頭部が動く。その隙を狙い僕はトリガーを引く。ペイント弾はシールドを抜けAnD本体に色を染め上げる。これでNo2も退場だ。

 残すはNo1のみ。が、火月がスナイパーライフルでNo1を殴り、怯んだところにスナイパーライフルを撃ち込む。どうやら、一人でもNo1を倒したらしい。

「試合、終了ー!」

 大会の実況アナウンサーが試合が終わった事を告げる。

「ふぅ」

 僕は張り詰めた息を吐きだす。

「どうにか勝ったね」

 考が少し柔らかな声を上げる。

「どうだっ! 俺だって接近戦できるんだぞっ!」

 火月がなんだか凄い勢いで叫ぶ。菫の言う通り僕への対抗心から接近にこだわっていたのかもしれない。そう思いながら輸送機へと機体を動かす。



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