第7話 黒幕系ヒロイン

『お前は今、何を見ているのかしら?』

「見ての通り、ここの生徒を観察してる。後お前と呼ぶのやめろ」

『うーん……ではお前様?』


 独り言のように闇神と会話する。対して変わらないと思うがまあいい。

 闇神の器になってから一ヵ月。あの後、俺達には特に何もなく、日常を再開した。


 宮廷魔導士達は何事もなく王宮へ帰り、儀式は無事成功。ブラッディギアス家は闇神の加護を与えられたと正式に認められた。


 ただ一つ日常に変化があったとすれば、それは俺が闇神の加護を色濃く受け継いだため、ブラッディギアス家次男として相応の活動を始めたというところだろう。


 無論ここは俺がそうさせた。そして俺とヴラド、俺の目を通して覗き見をしている闇神は今、初等魔法学園というところに来ている。

 ここはカルファン本編の舞台である高等魔法学園と同じ系列の学園だ。ブルーノもここに通っている。


「どうだ。ラインハルト。同年代の実力というのは。お前の視点からの感想が欲しい」


 俺を随分と高く評価しているような口ぶりでヴラドはそう言った。まあそういうように改造したんだけど。


 俺たちは今授業を見学している。俺が同年代のレベルを知るために、ヴラドに頼み込んだのだ。ヴラドは快く引き受けてくれた。さらには息子がようやく外の世界に興味を持ってくれたと喜んでくれる始末……。自分でそうさせたけど、なんか気持ち悪いなこれ。


「そうですね。自分が思っていた以上にレベルが高いのだと思いました。王国一の魔法教育機関と名乗っているのは伊達ではありませんね」


「……! そうだろう! お前を外に連れてきて良かった! 力を手に入れて天狗になっているかと思いきや、冷静な思考。流石は俺の息子だ! ブルーノにも少しは見習って欲しいものだな!」


 ヴラドが言う通り冷静な思考があるかは別として、レベルが高いと思ったのは事実。

 俺が4年間かけて闇属性魔法の一系統をマスターしたのに対して、彼らは複数の属性、複数の系統を満遍なく取得している。


 手札の多さでいえば彼らの方が上。俺は闇神の器となるべく特化した魔法の取得だったから、どうしても手札は少ない。


「ありがとうございます。少しの間、一人で集中して見てみたいので、一人になってもいいですか?」

「おお、構わないぞ! 私はブルーノの方に行ってくるとする! 思う存分見るといい!」


 よし、これで一人なれる。実技教室を一望できるように作られた見学用の廊下で僕は一人、授業の様子を眺める。


『しかし思ったのだが、破滅を回避するという名目なら秘密裏に動いた方がいいのではないか? お前様の記憶にもそう言った記憶が混在していたのだが……』


「人の記憶を勝手に……! というかそれ、前世の! まあいい。今更気にすることでもないか」


 前世読んでいたライトノベルとかだと、破滅回避のために目立たないように行動する、秘密裏に動くみたいなシュチュエーションは多々あった。

 俺がそうせず、わざわざ家族の思考や記憶を改造して堂々と行動を始めたには理由がある。


「色々理由はあるんだがな。表向きの立場を作った方が動きやすいことも多々あるのが主な理由だ」


 その中でも上等なのが貴族という立場だ。下手に平民上がりや所属不明という立場よりも、貴族の方が注目を浴びにくい。


 それに俺が知っている破滅を全て回避したところで、俺が知らない破滅が待ち受けていないとも限らない。曲がりなりにも悪の道をいくと決めている以上、敵がいないとも限らないわけだしな。


「悪の道を極めるために隠れ蓑を作る……ククク。こうしてみると中々楽しいものじゃないか」


『お前様が楽しそうで何よりよ。……と、この中にもいるのね、神の加護持ち』


 闇神の言葉を聞いて、僕らは視線を教室へ落とす。今行われている魔法の実技。確かに、何人かずば抜けている奴がいる。


『お前様、あいつらが何者か知らない? 私の眼では、何の神の加護が与えられているかしか分からないのだけれど』


「あいにく俺はこの手の事情には疎い。けど知っている顔がないわけではない」


 といってもカルファンの本編に出てくる人物だけだけど。

 例えば炎神の加護を持つヴァルカン家の長男。フェリクス・ヴァルカン。彼は主人公のかませにされた後、なんだかんだ主人公の仲間になっているタイプの人物だ。


 ヒロイン候補の一人である水神の加護を持つフィオナ・アクエリアス、光神の加護を持ち後々聖女と呼ばれるラウラ・ヴィーナスなど、本編時点とは幼い姿で授業を受けていた。


 彼らに近づくことはきっとないだろう。主人公に近づくということは、ラインハルトが本編の結末に近づいてしまうリスクを孕んでいるからだ。

 というのは表向きの話。本音は……。


「本音を言うと少し話はしてみたい……な」


 なにせやり込んだゲームの登場人物が目の前にいる。推しキャラであろうとなかろうと話してみたいと思うのは当然のことだろう。

 けどまあ、今はこちら側から絡みにいく理由もないので、遠目でみて満足することにしよう。


「あら、こんなところで人と出会うなんて不思議なこともあった物です」


 そんなことを考えている時だ。


 鈴を鳴らしたような綺麗で可愛らしい声が聞こえてきた。俺はその方向を見る。そこにいたのは……。


「クラウディア・ミア・アイテール様で間違いないですか……?」

「あら、名乗ろうと思いましたのに知っていたのですね。初対面かと思っていたのですがどこかで会いましたか?」


 俺が彼女を見間違えるはずがなかった。肩まで伸びた白の髪、青の瞳、小さな背丈。


 彼女は俺の推しキャラの一人。というか女性キャラでは一番の推しだった。

 彼女の名前をクラウディア・ミア・アイテール。ファンの間で黒幕系ヒロインと呼ばれた隠しヒロインだ。

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