06

「おっと…すまない。リサ、大丈夫かい?」


「せ、セナンー…どこ行ってたの!? もう、急に消えるから吃驚びっくりするじゃないの…っ」


ギュッと横腹に縋り付くリサにセナンは紅くなるけれど、必死なリサはそれ処ではなかった。


「ほら」


一気に気が抜けて身を預けているリサに、セナンは屈託のない笑顔で応えた。


「え?」


きょとんと首を傾げるリサを気にした風もなく、セナンは誇らしげににこにこしている。

よく見れば、セナンは鮮やかな緑の羽根にまみれていた。

その片手には、尾の長い鮮やかな緑の野鳥がげられている。


「鶏肉なら滋養もあるし、食べやすいと思ってね」


彼が、まるで『とって来い』が成功して“誉めて誉めて”と千切れんばかりに尻尾を振る大型犬に見えたリサは、自然笑顔になっていた。


(急にいなくなったのは、自分のために栄養のある食べ物を獲ってきてくれたからなんだわ…セナン、優しい子…)


「ありがとう…それにしても立派な鳥ねえ…大変だったでしょ? ずいぶん服が羽根だらけ。払うから、じっとして」


立派な『お土産』には主だった外傷はないようだが、しっかりと仕留められているようだ。


ルージャだよ。美味い物を食べて、早く元気になってもらいたいからね。骨身は惜しまないさ」


鳥…この雉はどうやらルージャと呼ぶらしい。

屈託なく破顔するセナンにキュンとなって、リサは地面に座り込んだ。

……ひどい目眩に額を押さえながら、そういえば朝から何も口にしていなかったのを今やっと思い出した。


「だ大丈夫かい?!」


「あはは……お腹が空いてたの、忘れてたわ」


そうだった、と一人呟いて青くなったセナンの行動は早かった。

むんず、と雉と一緒にリサを抱き上げたのだ。


「ちょ、ちょっと…?」


「本当にすまない…俺としたことが、普通に接していたものだから、君が万全ではなかったのを忘れていた」


「気にしないで…私も、楽しくてつい忘れていたから…」


「なら、急いで帰ろうね。とばすから、しっかり掴まっておいで。舌を噛まないように…口は閉じてるんだよ」


横抱きにしたリサが確りうなずいたのを認めたセナンは、疾風はやてのごとく駆け出していた。

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