テセウスの人形②

この世界にはNPCがいる。そのNPCを塗りつぶすかの如く俺は人物を配置していく。

俺のキャラメイクは正確だ。

全国各地に散りばめられた様々なキャラ達。

それを、俺が作ったと他の参加者が気づくはずもない。


基本はNPCにまぎれさせて増やしていく。

時には戸籍のない謎のNPCとして振る舞い、時にはNPCを殺して成り代わる。

いつかは俺の人形達の方が多くなるだろう。


『自我を自分が創造した人間に移したりすることも可能である』

こんなルールがある。

だが、いくら俺が並行的に人物を動かす天才だとして、操れる人間には限りがあるというものだ。


だから、大多数をキャラメイクして配置しながら、軽い命令だけ残して自動化していく。

その命令は『不審な人物を見つけたらこの俺に信号を送れ』だ。

これによって俺は、全国各地に配置した人形達で、他の参加者を探していくことが出来るようになった。


さて、最低限の配置が終わったところで、今度はテレビのニュースを見てみるとするか。

俺は今地下にいる。

常人ならアンテナはどうするのかと考えるだろう、だが俺はそのことと同時に罠を作ることを考えた。


俺の居る場所の真上に家とアンテナを作る。

更にブラフとして同じように、複数箇所に家とどこにも繋がっていないアンテナも作る。

これらが壊されたとき、俺の部屋に信号が送られるようになっているから、簡易的なブービートラップってやつだ。


さて、各地に人形を配置しながら、テレビを確かめようか。

ニュースでは、巨大生物の出現……か。

他の参加者も派手にやっているようだな。

では他のニュースも見ていこうではないか。


『臨時ニュースです。皇居にテロリストが侵入しました』


ほう、これは参加者が関わっている可能性が高そうだ。

皇居に役割ロール『警備隊』を配置して状況を把握しに行こうか。

俺は千里眼を皇居に固定する。


『自我を自分が創造した人間に移したりすることも可能である』

そんなルールだが、千里眼で状況を把握しながら戦った方が明らかに強い。

特に作った人数が多くなっている場合だと尚更なおさらだ。


俺は作った警備隊とともに、テロリストを探す。

無理に探さなくとも、派手に爆発音が聞こえてくるから、場所の特定は余裕だった。

俺は、暴れているテロリストをいとも容易く見つけた。

なにもないところかマシンガンを生成しており、参加者だというのは目星スキルを使わずとも明白だ。


「警備隊ごときが、俺様を止められるとでもおもってんのかー?」


「ごときではない。我々は数で制圧する」


「へぇ、やってみやがれ」


警備隊の下に爆弾が転がってくる。

この衝撃で俺の人形の何人かは死んじまったか。

だが俺の作れる人形は無尽蔵だ。顔も性格も全員違う。

これで全部俺が作ったと認識するのは難しいだろう。

大人しく数の暴力に屈しろ。


「ちっ、いつまでも湧いてきやがる。もしかして『参加者』とやらが噛んでやがったりするのか?」


こいつ、勘がいい。

だがバレたらバレたでやりようはいくらでもある。

俺は大量の警備隊に、リアルタイムで武器を補充していく。

これで攻撃の手数は増えた。


「やっぱり参加者だったんじゃねぇか。ならさっさと消すべきだな」


テロリストの攻撃も苛烈になってきやがった。

爆風で状況がつかみにくいが、足元がお留守だ。


「何もないところに地雷が増えてやがった」


俺は、ルールに抵触しない範囲で、テロリストに気づかないように地雷を設置しておいた。

テロリストはその爆発に巻き込まれ、そのまま爆発した。


「ファンブルだ。もっと目星スキルを磨いておくべきだったな」


俺は地下の居場所でそう独り言をつぶやく。

地雷をもろに食らったテロリストはいなくなった。

だが、アナウンスは流れない。


「相手も人形か、下手に情報を与えちまっただけだったか。こうなるともっと慎重にいかなければならない。相手を見極めて、プロファイリングしたあとで暗殺する。待てよ?それって、俺の得意分野じゃないか」


地下のアジトで人形増殖を再開した俺は、次に参加者を見つけたときの計画を立てていく。

その時だった。俺の設置しておいた人形から信号が入ったのは。


「こんなダメ元な罠に引っかかるとは、面白い。喜劇は作るものだ。俺がこの参加者の性格を確かめながら、喜劇で殺してやるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る