第6話 国家転覆を目論んだ?

 なんで私が。


「ほら、来るんだ!」


 グイッと腕を引っ張られる。


「痛いです! やめて下さい! 行きますから!」


 渋々ついて行く。


「お姉ちゃん、行っちゃうの?」


「ごめんね。あなたが無事でよかった」


 頭をポンポンっとして出入口に向かう。

 私は何もしてないのよ。

 きっと無実を証明出来る何かがあるはず。


 役人について行く。

 街の人達がこちらを見てコショコショ何かを言っている。

 私はこの仕事を辞めないと行けないかもしれないわね。


 司書官は利用者の信用がないとやっていけないわ。こんなことがあった後では利用してくれなくなるかもしれない。


 でも、たぶんゲーハさんが何か知ってる。

 どうにかしてそれを証明出来れば良いのだけれど。


 ついて行くと大きい不気味な建物に入った。

 薄暗くて嫌な感じ。


「とりあえず、ここで待ってろ。処遇がどうなるかは少し時間がかかる。飯は出るから安心しろ。国家転覆を目論んだ奴には出るのは残飯だがな。はっ」


 牢屋に入れられてしまった。

 ここは特殊な場所みたい。

 私以外に人はいない。


 要するに、何をされても分からないということ。

 魔力の少なかった私は憧れた魔法士にはなれず。

 けど、陣正士という職業を知った時、「これだ!」と思ったのよね。私は頑張って魔法書を読み漁ってとにかく知識を得たの。


 そして、私は魔法陣の研究をし始めた。

 そのお陰で陣正士の試験はトップだったのよねぇ。

 懐かしいな。


 私の人生はこのまま寂しく終わって行くのかしら。だって、国家転覆も目的に動いたなんて死刑じゃない。


 人体破壊の刑ね。

 古代陣の人体を内部から破壊する魔法陣があるのよね。それを役人が管理していて死刑の執行にそれを使っているのよ。


 兵士が入ってきた。


「貴様を監視するように命じられた。下手なことはするなよ?」


「しません」


 スンッとしてベッドに座って待つ。

 その人は目をつぶっている。


「ねぇ、ちょっと聞いていいかしら?」


「なんだ?」


 片目を開けて聞いてきた。


「得意なことってなに?」


「俺のか? んー。剣術……だろうか」


「へぇ。剣術ってどうやって戦うの?」


「そんなこと聞いてどうする?」


「別に。暇だから聞いてみたくて」


「そうか。剣術は剣を振るって戦う。中距離のリーチだから一番バランスがいいんだ。格闘術だと超接近戦になる。槍だと遠距離になるんだ。それはわかるか?」


「えぇ。なんとなく」


「それでな、剣を振るときは手だけで振るとブレるんだ。だから、腰から下も使って一連の動作をしないと太刀筋が鈍る」


「へぇ。知らなかったわ」


「手の握りも少し強く持つくらいで当たる時にギュッと握るのがいいのだ。そうすることで振るスピードが早くなるんだ」


「凄い。そんなこと知ってるなんて、剣術でトップクラスなんじゃない?」


 なるほど。

 この人は理論派。

 頭で考えるタイプね。


「いや、上には上がいるもんさ」


「そう。そういえば、なんで私が国家転覆を計ったって疑われているの?」


 兵士の眉がピクッと動いた。

 話してくれないかな?


「それなんだがな。前防衛大臣からのリークがあったんだ」


「そうなのねぇ。私、知らないわよ? 前防衛大臣なんて」


「それは、あんたが、シラバックれてるだけかもしれないだろ?」


 そう言われればそうね。

 でも……。


「防衛用の魔法陣のある所って、私みたいなのが誰の許可もなく入れる物なの?」


「それなんだよな。セキュリティ魔法陣があって、入口を開けられるのは権限を持った人しか開けられないはずなんだ」


 やっぱり、そういうのがあったのね。

 あのおじ様はやっぱりそれなりに権力がある人。なら、やりようはあるわね。


 少し考えてみる。

 いきなり賊が入ってきたって事は、入口からではない。

 そして、結界に穴が空いているということ。


 私が数日前に見た時には穴なんて空けるような魔法陣の作りにはなっていなかった。

 私の仕込んだものを使える時が来たかもしれないわね。


「ねぇ、そのセキュリティ魔法陣を通った人って履歴を見られないのかしら?」


「そうだよな。見てると思うんだがな。それで君を待たせているんだと思う」


 ふふふっ。

 素直な人ね。

 話ができる頭の人だと分かれば人は対話を素直にしてくれるのよね。


「あなたは、納得できないのに私の事を監視しているの?」


「んー。そうだな。仕事だから」


「それって、なんか可哀想ね」


「可哀想?」


「そうよ。納得できないことをやらされるなんて、苦痛でしかないじゃない? なんか可哀想よ」


「いや、これは……仕事……だからな」


「ふぅーん。大変ね?」


 兵士は少し考えている風である。

 さぁ、どう出るかしら?


「ちょっと話をもう一度話を聞いてくる」


 兵士は部屋を出ていった。

 これで少し外の様子がわかるといいわね。

 おの兵士さんの私への疑いが晴れてくれれば私の為に動いてくれそうね。


 少しして戻ってきた。


「どうだった?」


「あぁ。まだ調査中らしいが、前防衛大臣が指揮を執ると躍起になっているみたいだ。現防衛大臣との口論中だ」


 あらあら。

 おじ様ってもしかして────


「ギュララララララァァァァ」


ズズゥゥゥンッッ


 建物が揺れた。


 これは建物の揺れじゃない!

 結界が攻撃されている振動!


「なんだと!? ワイバーン!? Aランクの魔物がなんでこんな所に!?」


 おじ様が懸念していた魔物が来てしまったのね。

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