第20話・真の強者

魔竜の詳細を聞いたエヴァルスとタンクは、村の北にある坑道に入っていた。

武器の折れたエヴァルスは鍛冶屋から剣をあつらえてもらい、2人には防炎のマント、うぱにはカンテラを持たせた。

「坑道には空気が通っているが、ところどころガスが出ている」と鍛冶屋が言っていた。

カンテラが消えそうになったらその場を離れるようにと。

なぜそんなに大切なカンテラをうぱが持っているのかというと、2人は村人からなにか貰った。自分だけなにも持っていないのは不公平だと身振り手振りし、カンテラを離さなかったからだ。

「こいつ、変なところでこだわるよな」

「良いじゃない、可愛いし。戦いになったとき持ち替える手間も……」

5分ほど坑道内を歩いていると、何かを擦る音が聞こえてくる。

大きな何かが這いずるような音。

2人はその音の方向に慎重に歩を進める。

音は坑道内を反響して聞こえてきているのか、意外と遠い。

徐々に大きくなる音。

近付いている証拠だ。

「魔竜、かな?」

「しかし信じられるか?四つ脚の竜がこんな食うものなさそうな所に住み着いているなんて」

声を潜めながら進んでいく。

カンテラを照らすうぱは2人の後ろに控えている。

少しずつ道が開けてくる。

本来人の手で採掘しているのなら逆に狭くなっていく。

つまり、なにか居るのは間違いない。

その時カンテラの火が揺らいだ。

2人は息を飲む。

暗がりに布のようなものが見えた。

「誰かいる」

「……こんな奥に?」

駆け寄ろうとするエヴァルスを止めて、タンクは近くの石を投げてみた。

布の脇を狙った石は奥に転がり音を立てる。

刹那、その音に反応した何かが視界を通る。

通路の先は開けているようだ。

足を進め、のぞき込む。

斜面で降りられるようになったがらんどうの空洞。

うぱがカンテラを照らすと、石を追いかける大蛇が尻尾に布を括り付けて目の前に広がっている。

「……ヘビ?」

「これが、魔竜……」

2人は見下ろしながら唾を飲む。

大きさはおよそ大人5人分に至ろうそのヘビは転がる石を追うことを辞めて2人を見上げている。

「こりゃ晩飯はステーキか?」

「逆にボクらが踊り食いにならなきゃ良いけどね」

意を決して空洞内へ飛び降りた。

うぱは上でカンテラを照らしている。

「そこに居て!」

エヴァルスは振り返ることなく、声をかける。

丸太ほどもある大蛇がゆっくりと躰を起こす。

舌を出して震わせながら、意思の見えない目で2人を見下ろした。

半分にも満たない躰を起こすだけで2人より高い位置に頭が来るのだから、その巨大さは他のヘビと比べることも無い。

「こんなの住み着いてたらそりゃ採掘できないわな」

「来る!」

ヘビは倒れ込むように頭を2人目掛けて打ちおろす。

左右に分かれ、その体躯に向かって武器を振るう。

しかしタンクの盾はもちろん、エヴァルスの剣も弾性のある皮膚が跳ね返す。

「なんだ、コレ!」

「躰は無理か……」

胴体への攻撃では埒が明かない事を察した2人は、弱点を探るために周囲を回る。

幸いヘビの攻撃は頭部と尻尾からの打ち下ろし、薙ぎ払いのみで両端に注意を払っていれば攻撃を受けることはなかった。

先の攻撃の通り、胴体へ剣を振るってもダメージはない。

皮膚に弾性があるだけでなく、ウロコに覆われているためだろうか、刃筋が通らない。

「タンク、魔法は!」

「練ってる暇ない!」

ヘビの動きは躱せないほどの素早さは無いが、かといって遅くもない。

エヴァルスもタンクも魔力を練ろうとした時にそちらを向いて攻撃を仕掛けてくるため中断させられてしまう。

「練ると必ずそっちを……それなら!」

エヴァルスは再び魔力を練る。

反応してまっすぐ見据えるヘビ。

そのままエヴァルスに向かって突進してくるヘビ。

響く地響き。

天井のある坑道内で音が回ってしまうため出所が判断できなくなる。

しかし、音ではなく目の前に走ってくるヘビにエヴァルスは剣を差し向ける。

猛スピードで突進してきたヘビの目に向けて、剣を突き立てそのまま横に避ける。

自らの勢いで剣が刺さり、そのまま壁に激突したヘビ。

「やったか!」

しかしヘビは怯んだものの怒号を上げながら躰を翻し目に剣が刺さったまま2人を睨み下ろす。

「やってないね」

「エヴァ、もう一回同じことして両目を」

「剣がないかなぁ」

2人は笑えない冗談を言い合いながら突進してくるヘビを躱す。

「アレで倒せないなら無理だろ!」

タンクが盾で殴りつけながら回り込む。

尻尾の一撃をギリギリで躱す。

地響きが響く。

「あと少し深くすれば多分。タンク、同じことを」

エヴァルスはヘビの目から生えている剣を指さす。

「へいへい、今度はオレがエサ……ちょっと待て」

タンクは耳に手をやった。

先ほどから響く地響き。

その音が徐々に大きくなっている。

2人が入ってきた方向とは逆から鳴っている。

その音にヘビも気付いたのか、奥に向かって威嚇をする。

エヴァルスたちにはしていなかった、威嚇。

近付く地響きの主が顔を出す。

ヘビよりも巨大な、四つ脚の獣。

「……エヴァ、魔竜って確か」

「四つ脚、だよね」

ヘビはその獣を見るや、そのまま巻き付いた。

絞め殺すつもりだろう。

しかし巻き付かれた獣はうねり声を上げて大きく口を開けた。

そのままヘビの頭に噛み付き、そして胴体から食いちぎってしまう。

太い丸太のようになったヘビは力なく緩み、地面に落ちる。

「えっと」

「今まで戦ってたヘビは雑魚ってことだろ」

口に血を滴らせながら2人を見下ろす魔竜。

ヘビより二回りほども大きな躰。

さらに狼を思わせる4本の脚のせいで胴体も頭も高い位置にある。

表皮は遠目からでも分かる、固そうなウロコで覆われていた。

「終わった」

「タンク、諦めないの」

しかし武器もなく、先ほどのヘビにすら苦戦していた2人が魔竜と対することができるとは到底思えない。

魔竜は2人を睨み、ドラを思わせる鳴き声を上げた。

完全に臨戦態勢に入った魔竜。

うぱもカンテラを置いて2人のそばに寄ってくる。

対魔竜戦。

本当の開始である。

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