繰り返す歴史と君の夕暮れ

衣草薫創KunsouKoromogusa

プロローグ(1)

〈西条湊〉


 生まれたときから気づいていた。


 高校二年生の夏の学校。クーラーでガンガン教室内を冷やすものだから、涼しいを超えて寒く半袖ワイシャツの上にセーターを着る。それでもまだ体が冷えるので、廊下の窓に顔を出して暖かい風を受け止めていた。教室は寒いが、廊下は暑い。丁度良い環境が夏場は中々見当たらない。外を見ていると、あるのは現在木々、花壇、うざったい虫ら。いつも見慣れている光景に、君らは気づけるだろうか。昔は、こんな綺麗では無いということ。俺が見える視界の中に、現在の植物と重なって昔の植物が見える。四方八方に伸びきった整えられていない木々、伸びすぎてムカデが出てきそうな雑草、今ではあまり見かけない木に引っ付いたカブトムシ。今の当たり前は、当たり前ではなくなるには、どのような条件を満たせば良いのだろうか。崩れた時は一瞬だ。あっという間だ。現在3010年。もう少し...もう少しで変わる。当たり前が変わる。


 俺はこれから死にに行く。


 小学生の時に、可愛らしい巫女に出会った。自分よりずっと年上で、逢いに行くといつも優しく微笑んだ。そんな彼女に恋をした。紛れもなく初恋だった。1度彼女ができても巫女のお姉さんが忘れられずすぐに別れた。今では彼女の顔も名前も朧気でよく覚えていない。それでもずっと一途に想い続けていた。


〈東屋奏〉


「君は誰 ここはどこ

 随分暗いとこに住んでるんだね

 

 君、君、リリイのこと、知らないかな」


 「リリイ?知らないな。」と、暗い街の住人の一人は答えた。地球が回る時代は終わった。だから朝はもうやってこない。ここにたどり着いたときに教えてくれた。町の案内役人。ここにはもう光が届かない。冷たい空気が流れて、いつか暑い夏も体が忘れてしまうよ。


 浜辺を歩いていると、海に攫われて離してくれなくて、リリイとは連絡がつかなくて、気付いたらこんな場所にたどり着いた。君を愛して長く経ち、結婚もした。一緒に年を取っていけると思っていた。今年で30歳。そろそろ子どもも考えていたのに、もう会えないのだろうか。あれから十年、百年、五百年経っても、君には会えていない。それでもここで待ち続ける。だって、「明けない夜はない。」のだと、彼女は言ったから。


「リリイ、リリイ、どうか許しておくれ

 僕はとっくに夜にのまれてしまったよ。」


藍色よりももっと深い空に呟いた。君に会いたい。君の綺麗な声を聴きたい。そして、千年近く時が経った頃にまた波に攫われる。次はどこの都なんだろうか。

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