第7話 モフモフ初配信!

 「2万人……?」


 告知をしたのはほんの10分前。

 さらには配信開始直後だっていうのに、こんな人数が見てくれるなんて。


 しかも、同時接続数は今もなお増え続けていく。

 ……あ、2.5万人いった。


「ワフゥ?」


 俺が呆然ぼうぜんとしていると、フクマロも首を傾げた。

 その様子にコメント欄がさらに湧く。


《おかわわわわ!》

《かわいい!》

《きゃわ!》

《なにこのモフ!》

《癒される〜》

《かわええええ》

《首かしげてる!》


 めっちゃウケてる。

 フクマロの人気すげえ。


 って、感心してる場合じゃないな。

 配信を始めたのなら何かしないと!


 まずは挨拶からだな。


「あ、えっと、ひ、ひく、低目野ひくめのやすひろです! は、配信に来てくださり、ありがとうございます!」


 しまったー!

 完全に慌ててしまったー!!


《なんだそれw》

《緊張してるのかな》

《ひくひくしてて草》

《こっちもかわいい》

《やっぱり朝見た人だ!》

《がんばれ~w》

《緊張しなくていいよー笑》


「うぐっ」


 ありえない人数を前に、緊張してるのがバレバレだ。

 ま、まあ、配信者的にはありなのかもしれない。

 ポジティブに捉えてさっさと進行しよう。


 でも……あれ?

 配信って何をすればいいんだ? 


 これはまずい!

 勢いで始めてしまったばかりに、何をするか決めていなかった!

 

 すると、良いコメントが流れる。


《フクマロ君って何を食べるんですか?》

 

「お! フ、フクマロはですね──」


 ナイスコメント! と思いながら俺はがさごそと冷蔵庫を漁りに行く。

 そして出してきたのは、


「これが好きなんです!」


 冷凍食品のからあげだ。


《え、からあげ?w》

《???》

《うそでしょ!》

《冷食じゃん》

《どういうこと?》

《本当に大丈夫?》


 これには困惑するコメント、心配するコメントがちらほら。

 でもこれは本当なんだ。


「なーフクマロ?」

「キャンッ!」


 袋を見せただけで嬉しい時に出す声を上げる。

 そうだ、もうすぐご飯の時間だし、せっかくならこのまま見せるか!

 

「少しお待ちいただいて」


 そうして、からあげをレンチン。

 やがて出来上がったからあげをフクマロの前に持っていく。


「ワフッ! キャンキャンッ!」


 フクマロはめちゃくちゃ嬉しそうに駆け回る。

 だけど、すぐに舌を出しながら俺の前に戻って来た。

 もう待ちきれないらしい。


《帰ってきたw》

《本当なんだ!》

《ガチで草》

《からあげ好きなフクマロ君w》

《かわいすぎ!》

《魔物だもんなあ》

《魔物は雑食って言うし》

《普通の動物とは違うだろ》


 そりゃあ俺も知った時は戸惑ったよ。


 フクマロがお腹を空いた時、色んな物を見せたりがせたりした。

 そして一番気に入ったのが、このからあげだったのだ。


 それでも心配だったし、一応えりとの知り合いの研究者にも電話で聞いた。

 すると、


高歴こうれきさんからデータを頂きましたが、問題は無さそうです。高級魔物の肉には、からあげの味にも似た物がありますからね。それで興味を示したのかもしれません』


 とのことだった。

 ダンジョン産・魔物産の物は高すぎるから食したことないけど、俺もいつか食べてみたいものだ。


「ほーら、フクマロ。ゆっくり口にするんだぞ」

「ワフッ!」

「って、言ったそばから!」

「クゥ~ン!」


 俺がはしでそーっと与えようとしたのに、フクマロは箸ごとパクッと勢いよくいった。


 毎回これなんだよなあ。

 これでもって最強種族なので、火傷やけどへの耐性はあるみたいだけど。


「ハッ、ハッ!」

「もっと、ってか。大丈夫、そう焦るな──」

「ハフッ!」

「だからゆっくりー!」


 何度言ってもフクマロは勢いよく食べる。


《かわいい!》

《かわいいなw》

《癒される~》

《この小犬どこで飼えますか》

《私も欲しい!》

《↑無理無理、フェンリルだぞw》

《いいなあ~》

《私にもからあげあーんさせて!》


 フクマロの食い意地の張り様に、配信は大いに盛り上がった。

 それに比例して、視聴者数もどんどんと増える。


 ついには、


「3万人!?」


《おめでとうございます!》

《おめでとう!》

《3万やっば》

《初配信だろ?w》

《どうなってんだ》

《時間帯も良い》

《だって可愛いもん!》


 もう信じがたい域に突入。

 その後も、フクマロの生態に触れる度に配信は大いに盛り上がる。




「実はフクマロ、うんちしないんですよ」


《え?》

《うそ!》

《!?》

《どういうこと!?》

《まじで?》


「栄養は全て・・“魔力”とかなんかに変換して、無駄な排出を一切しないんだそうです。上位の魔物に見られる特徴だとか」


《すごー!》

《そりゃあ良い》

《楽だなあ》

《羨ましいです!》

《だから強いのか》

《探索者視点からも納得》

《からあげで成長するのかわよ》




「やっぱり、このモフモフですね~。はあ、癒される……」

「ウォフウォフ?」


《きゃー!》

《かわいい!》

《しゃべった?w》

《モフモフって言ってるw》

《ずるいです!笑》

《私もモフりたい!》

《見かけたら触らせてください!》

《もっふもふ~》



 

 あとは視聴者さんの質問に答えたり。


《ダンジョン配信はされないんですか?》


「ダンジョン配信……それも良いですね! あまり危険なところは行けませんが」


《それでもいいです!》

《やったああああ》

《めっちゃ楽しみ》

《いつかないつかな!》

《フクマロ君の強いところも見たい!》

《気をつけてね》




《フクマロなのでしょうか、フクマロちゃん・・・なのでしょうか》


「フェンリルはまだまだ謎なのですが、オスメスの概念は無さそう、とのことです。ですので、ぜひお好きに呼んでもらえると!」


《へー》

《そうなの!?》

《すごい魔物らしいしな》

《じゃあフクマロ君!》

《フクマロちゃんでしょ!》

《マロ君?》

《↑なんか平安時代みたいだな》


 そうして、雑談をしている内に、


「あれ、もうこんな時間……」


 時刻は20時を回っていた。

 配信を開始したのが18時前とかだったはずなのに、いつの間にこんな時間が経っていたんだ。


「クゥン」

「お、どうしたフクマロ」

「クン……」


 これはおねむだな。

 良い頃合いだし、初配信はこれで終わろう。


「すみません! 今日はこの辺で終わろうと思います!」


《わかりました!》

《お疲れ様》

《おつ》

《楽しかったぞ》

《もっと見てたいよ~》

《フクマロ君またね;;》

《次も見に来ます!》


 もっと、という声に応えられないのは申し訳ないけど、そういった声がもらえるのが嬉しいな。


「次も告知いたしますので、よろしくお願いします!」


 そうして、配信を閉じた……はずだった。

 少なくとも、俺はその操作をしたつもりだった。


「ふぅ……やり切った。お前もよく頑張ったな、モフモフモフー!」

「ク、クゥ〜ン」


 息をき、俺はフクマロに抱きついた。

 やりきった後のモフモフは最高の癒しだ!


 そうして、ふと最後に視聴者数が目に入る。

 そういえば最後の方は見てなかったな。


 現在の視聴者数は……


「って、4万人!?」


 それを見て開いた口がふさがらない。


「って、あれ?」


《まだ聞こえてて草》

《4万人はおめでとうw》

《それはおめw》

《配信続いてるよwww》

《モフモフ独り占めずるいぞー》

《フクマロ吸ってて草》


「なにぃ!?」


 油断をしていて気づかなかったが、配信をうまく切れていなかった。


「しまったー!」


 俺は急いでPCを操作する。

 よし、今度こそちゃんと切れたな。


 後日、この最後の部分も多く切り抜かれ、思わぬところでまたバズることになる。

 俺としては恥ずかしい部分だったけど……。


 こうして、多少トラブルはあったものの、俺とフクマロの初配信は大成功となったのであった。

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