第2話 少しデレてきた妹

 夕食を理沙より前に終わらせた俺は、ひとまず自分の部屋に戻った。


彼女の部屋の前で待機しても良いが、それだと鉢合わせた時に気まずくなる…。

幸い隣の部屋だし、理沙が部屋に入ってから俺も入ろう。



 ……理沙が部屋の扉を開ける音がしたぞ。突撃の時間だ!

俺は自分の部屋を出て、ノックせずに彼女の部屋に入る。


「…兄さん。何でノックしてくれないの?」

彼女は呆れた顔をする。


「こうでもしないと、俺を入れてくれないだろ?」

そもそも、何で避けられているかがわからない。


という繊細な理由なら、解決にはという大胆な方法しかないよな…?


「そんな事しないから。これからはノックして、お願い」


「本当だな? もし嘘付いたらグレちゃうぞ!」


「はいはい…」


俺、バカにされた…? 悔しいけど、反論したところで論破されるんだろうな。



 「それで、さっきの話だが…」

夕食が始まるあたりの事だ。


「毎日ウザいぐらい部屋に来てたのに、急に来なくなったじゃん。何でなの?」


正直に『押してダメなら引いてみろ』作戦のことを言うか?

…いや、ダメだ。恋愛テクニックはネタバレ禁止だろ。


『受験勉強してたから』と言うか? …それも厳しい。


そう言ったら『これからは来なくて良いから、勉強に専念して』などと言われるだろう…。そこまで言われると、反論はまず無理だな。


違和感がない理由…。何があるかな?


「ちょっと風邪気味でさ。距離を置いたほうが良いかな~? って思ったんだよ」

これならどうだ?


「風邪気味? さっきの夕飯もだけど、いつもの量食べてたよね?」


「食欲に影響がない風邪気味なんだよ!」


「…何それ?」

ジト目で観られる俺。


もうダメだ、正直に言おう。そう思った時…。


「よくわからないけど、元気そうなら良いよ。急に来なくなると心配するじゃん」


…聴き間違いじゃないよな? 理沙がデレた?


で良いから、ノックした後に私の部屋に来てよ。兄さんのアホ面と声がないと寂しいんだよね…」


兄に向かって、アホ面はひどくねーか?


…そんな事より、理沙が俺の突撃を好意的に思っている? その事実に驚きだ。

俺の行動は、無駄じゃなかったんだ!



 それにしても、『たまに』ってどれぐらいの頻度になるんだ?


多すぎるとウザいと思われるし、少なすぎると理沙がグレるかも…?

ちょうど良いバランスが難しいぞ…。


「話は終わったから…」

そう言った後、理沙は携帯をいじり始める。


言葉には出さないが『出てけ』って事ね…。俺は退散して自分の部屋に戻る。



 いつもの突撃以上に会話ができ、俺は最高に機嫌が良い。

それに、関係回復の希望が少しだが見えた。


焦らずゆっくり、理沙との距離を縮めれば良い。


…機嫌が良くて頭がスッキリしている今勉強すれば、すんなり暗記できるかもな。

そう思った俺は、学習机の椅子につく…。

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