第10話 お引越し


 冷や汗をかきながら美優の方を向くと、なぜか少し嬉しそうにしていた。すると、歯ブラシについて木下さんが詰めてくる。


「これって、誰の?」

「えっと......」


(どうのりきる? どうする?)


 沈黙していると、上野が手助けをしてくれる。


「二宮のことだから、彼女ができたら報告してくれるだろ。だから、親のとかじゃないか?」

「そ、そうなんだ!!」


 上野の言葉に同調すると、石川さんは納得した表情をしていたが、木下さんは疑いの目を向けてきた。


(美優も助けてくれ)


 俺はそう思いながら美優のことを見ると、不服そうな表情をしていた。


(なんで!?)


「まあそういうことにしておいてあげる」

「......」


 その後、全員で雑談をしてみんなが帰って行った。その際、俺も駅まで送っていくと、美優が言う。


「私、ちょっと用事があるから」

「そ、そっか。じゃあ秋山さんに二宮くん、バイバイ」


 石川さんがそう言い、全員と別れた。俺と美優の二人になったところで言われる。


「私も明後日には用事があるから明日まで家にはいかないね」

「わ、わかった」


 美優とも別れた後、俺は一人で家に帰って行った。


 翌日、家でボーっとする。


(なんやかんや、美優がいないと暇だな)


 毎日、家に美優がいたためつまらないと思ったことがなかった。そのため、昼食や夕食も一人で軽く済ませる。


 そこで、やっと美優がいた偉大さに気づく。


(まあ、明日になればまた来るしいいや)


 俺はそう思いながら就寝した。


 翌朝になると、隣の部屋から騒音が聞こえる。


(誰か引っ越してきたのかな?)


 そう思いながらも、本を読んでいるとインターホンが鳴った。


(美優かな?)


 俺はすぐさま家を開けると、お菓子を持った美優が立っていた。


「久しぶり」

「うん」

「それで、お菓子なんて持ってどうしたの?」

「どうしたのって、挨拶に来たんだよ?」

「挨拶?」


 俺が首をかしげながら美優を見ていると、隣の部屋を指でさす。


「私、今日からここで住むことになったから」

「え!?」


 その言葉に驚きを隠し切れなかった。


(隣に引っ越してきた?)


「信じられないなら、部屋に入る?」

「い、いやいいよ」

「そっか。それで、家に入れてくれる?」

「あ、あぁ」


 いわれるがまま部屋に通すと、美優が言った。


「あ、これお菓子だから後で食べよ」

「う、うん」


 その後、美優が私物を少しづつ置き始めた。


「何をしているの?」

「私もここに来ることが多いから、生活しやすいようにしてる」

「あ、そうなんだ。そ、それよりもなんで引っ越してきたの?」


 すると、怖い笑みを浮かべながら俺には聞こえない声で言った。


「そんなの決まっているよ。木下さんみたいな悪い虫がつかないようにだよ」

「??」

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