3.「どう足掻いても絶望です」

 ここは呪いの館。

 理由や理屈は定かでは無いけれど、あらゆる「ヤバい怪異」がこの館の中には闊歩かっぽしている。


 例えば「死を数える貴婦人」。

 基本何を言っているのか分からない音量でブツブツ喋っている女性だけど、数を数える時だけやけにはっきりとした声になる。

 そして、彼女が数を数え終わった途端、大抵「何かが起こる」。


「13……12……11……」


 なんて言っていたら……

 あー、もう! また何か数え出した! 今度は何!?


「10……9……8……」


 彼女が数字を数えるのは、大抵の場合「13」からカウントダウン方式。分かりやすく不吉。


「7……6……5……4……」


 カウントダウンに合わせ、半透明の音楽家が何とも不穏な音楽を流し始める。

 こういう時、彼はいつもノリノリだ。ホラーには「音」が大事だとよく分かっている。


「3……2……1……0……」


 0のカウントと共に、ピアノが「ジャーン!」と不協和音を奏でる。

 同時に、わたしの隣で頬杖ほおづえをついていた男の首が、ゴトッと落ちた。


「うぉおおっ! 俺の首ぃ!」


 男は慌てて自らの首を拾い上げ、つけ直す。つけ直しはできたものの、オレンジ色の短髪は乱れ、首は若干角度がズレている。

 その様子を、例の「死を数える貴婦人」は血走った眼でじっと見つめていた。顔の大部分が黒いベールで隠されているのに、目力のせいか迫力が凄い。


「ンだよコラッ! ガン付けやがって……!」


 間抜けな姿を見せたばかりではあるけれど、このチンピラ風の男……「首盗りゴードン」も相当ヤバい。生前、盗賊だった彼が盗った首の数は数知れず。色々あって最期は彼自身が首を取られる羽目になったのだけれど、ちゃんと強い……はずだ。

 とはいえこいつはあくまで「従者」。本当にヤバいのはその主人だ。


 ……まあ、それがわたしなんだけど。


「調子こいてっと潰すぞオラァ!!」


 わたしの従者は「あんたその小物感大丈夫? 何なら首取れるのが一番怖いよ?」ってぐらいのテンプレートなチンピラノリでスゴむ。とはいえ、生前はこの脅しと腕っ節で切り抜けてきたんだろう。……わたしこと、「レディ・ナイトメア」の前以外では。


「ねぇ、ちょっと静かにして」


 私がそう言うと、場の空気がピシッと凍る。

 首がズレた従者も、ベールをまとった貴婦人も、ぎこちない動きで私の方を見た。

 ピアノを弾いていた半透明のおじさんも、窓の外を見ていた全身が焼け爛れた青年も、揃って私の方へと振り返る。

 壁際の騎士だけは、変わらず血の涙を流して虚空こくうを見つめていた。廊下の笑い声はちょっと遠い。ブリッジ走りの彼女は二階を走ってるのかな。たぶん。


「黙っててって、言ったの」


 気まずいけど、このままじゃ考えるどころじゃない。

 前世の記憶を取り戻し、気付いてしまった。


 この世界は乙女ゲーム……に見せかけた「ホーンテッド・ナイトメア」の世界。

 そのゲームに、わたしこと「レディ・ナイトメア」が酷い目に遭わないルートは一切存在しない。

 ……というか、「ホーンテッド・ナイトメア」はハッピーエンドすら存在しないハードさで有名ないわゆる「鬱ゲー」である。つまり、ここから先はどう足掻あがいても絶望。終わった。詰んだ。どうしてこうなった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る