初仕事、言い渡さる

「総統はクラカウアー氏の戯曲『純潔の勝利』をご観覧になり、たいそうご満足されたそうです。いやあ、あたしも見ましたけどね? 帝国に生まれた1人の少年が、両親を、レジスタンスなどと名乗っているテロリストに殺されるという不幸に見舞われるんです。彼は剣の腕を磨き、4年後、共に成長した仲間のミサリア民族たちと、あ、彼もそうなんですけど、その、親の仇である、社会を騒乱に陥れるテロリストたちを討つという。バトルあり、恋愛あり、同胞愛あり、で、これが面白い! 上演後、クラカウアー氏は、総統に握手を求められ、これに応え、『この物語は総統への最大の信頼から生まれたものです』と創作の秘密を明かしたよ。感動したね! かくも芸術家に詩想を与える総統に、ハイル万歳! この、『純潔の勝利』は、今日から1週間、4番街の劇場で公演されるよ。4番街は、大学都市。学生さん、よかったね、チャンスだよ! はーい、今日の朝のグナーラジオはここまで。みんな学校やお仕事、頑張ってね。お相手はみんなのアイドル、ヴァルキュリア騎士団団員エイルでした。またねー!」


プツンっとスイッチは切られた。そして、ミンダーナは、そのラジオが乗った部屋の脇の小さなテーブルの横に、立ったままにいた。


あたしたち、罪人騎士団の面々は、それぞれにイスに座っていた。机がないから学校に慣れた身では違和感がある。前のホワイトボードがあるところに、団長のシャルンホスト。彼は座っていたイスから、力強く立ち上がると、一同を見渡した。


あたしは緊張していた。初の任務が言い渡される。どんな仕事なのかな。


「とりあえずこの『愛国者』クラカウアーを護衛するというのがオレたちの仕事だ。ご大層にも、殺害予告があったらしい」


愛国者、という言葉にどこか軽蔑の色が見えたのは、勘違いかな。


「シャルンホスト、どこがその声明を?」


男の人が座ったまま質問した。


「レーギャルンだ。公演を中止しないならクラカウアーを殺すとよ」


「そいつの家は4番街ではないんだろ? 引きこもってりゃいい」


「今日の公演で、国家保安本部のお偉いさんの横に触る光栄に浴するんだと。命を狙われても、そんなチャンスを逃すやつではないんだろうよ」


「で、具体的なことは?」


ギゼラが、手を挙げて聞いた。


「劇場に入る客の荷物検査。剣や短剣、武器になるものは全部取り上げろ。それから……」


シャルンホストは5名ほどの名前を呼んだ。あたしとトラウテの名も入っていた。


「お前らは、クラカウアーとお偉方の近くに常にいろ。まあ、守ってやれよ」


トラウテが、すっと立ち上がった。


「あたしたちは新人……。そんな重要な仕事を?」


口角の端を曲げてニヤリとするシャルンホスト。20も中盤の年なのに、邪気のない悪い顔をする。


「手は抜かなくていい。しかし、新人がいて、守りきれなかったなら、言い訳もたつ」


あたしは、怪訝な顔をする。トラウテを見ると、彼女も眉間に皺を寄せていた。


教授プロファソーア


シャルンホストの呼びかけに立ち上がる女性。口を開いた。


「誰もが、帝国に忠誠を誓っている。多くのメディアが総統を帝国を、翼賛するから、。そして国家保安本部の取り締まりで、民衆は自由に思いを発言できない。本当は多くの民衆は、この体制に息苦しさを感じている。だけど、それに気づいていない。あたしたちは、造られたより大多数の立つ場所、と思える光源に集まる蛾みたいなもの」


「つまり、オレたちが総統さまに媚を売って、民衆に恨みを買う必要はないってことだ。クラカウアーは死なないまでも、血を流すくらいはなってもいいかもな」


そして、わっはっはっ、と笑った。


何だ? この罪人騎士団というところは? 誰かに聞かれたら、あたしたちには本当にギロチンの刃が落ちてくるのではないか。


それから、シャルンホストは、ホワイトボードに劇場の大雑把な絵を描き、誰がどこを警備するのかを、説明した。


「クラカウアーや劇団の奴らがこの街に来るのは、正午だ。それまでは、だらりとしていていい。以上、ミーティング、終わりだ」

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