第14話:疑問

「とあぁっ!」

「待ったまったっ。降参だセシリア」

「えぇーっ。まだやろうよぉ」

「断るっ。君とやるとなんか体の調子がおかしくなるんだよ」


 え、なにそれ。私なんかヤバい病原菌持ってるの?


 グレムリン事件の後から、もっと本格的に格闘技を学ぶことにした。

 ウィリアンさんに頼んで、勉強の時間をすこーし減らして貰って。


「セシリア殿。本当に何もなさっていないのですか?」

「戦士長さん。何もって、何も?」

「「うぅーん」」


 組手をしていた人も、神官戦士団の団長さんも唸りだす。

 ほんとに何もしてないって!

 え、もしかして私が眠り粉とか毒粉をばら撒いているとか勘違いされてるの?


「どうも魔力の流れを感じるのですが」

「そうそう。組んだ瞬間に、何か魔法を掛けられている感じがしているんですよ」

「え、魔法? あの、私魔法はまだなんにも使えないんだけど」

「存じております」


 めちゃくちゃ真顔で言われると、ちょっと寂しい。

 魔法が使えないのって、聖女にはなれないってことでもあるから。


「あのぉー……実はさっきからボクらの方にも魔法が……」

「なんだと?」


 今度は私と組手をしていない、神官戦士たちも手を上げて集まって来た。


「たぶん祝福と、活力の祈りが」

「自分にも」

「あと聖属性付与も入っていますね」


 えぇっと、それって身体能力上昇系の魔法だったよね。

 組手してた人は体調が悪くなるって言ってるし、まったく逆の効果?


「あの……」

「今度はなんだ」

「はい、その……先ほど転んだ際に擦り傷が出来たのですが……治癒していないのに、傷が消えてしまったんです」

「誰かが治癒をしたのではないのか?」


 団長さんがそう言っても、誰も名乗り出てこない。

 隠すようなことじゃないのに。


「セシリア様ですよ。さっきからちょいちょい、魔力を垂れ流していらっしゃいますし」

「え? わ、私何もしてないよっ」

「えぇ、そうですね。完全に無意識ですよ。しかも面白いのが、クレフを殴るときに魔法が発動しているんです」


 な、殴ってるとき!?

 ど、どういうこと??






「うーん。物を殴っても何も起きないねぇ」

「やはり誰かを殴らねばダメでしょうかね?」

「どうだろうねぇ。無意識のうちにやっているなら、今ここでセシリアに君を殴らせても、祈りの魔法は発動しない気がするねぇ」

「あ、私が殴られる前提なんですね」

「わたしはもう六十五だよ? 痛いのは嫌に決まっているだろう」


 団長さんとウィリアンさんが、へんてこな会話をしている。

 いったいどうなってるの?


「あのぉー……私、なんかやってるってことなの?」


 恐る恐る尋ねてみると、二人は顔を見合わせてうぅーんっと唸った。


「えぇっとだね、君は無意識のうちに神聖魔法を使っているようなんだ」

「無意識?」

「つまり祈りの言葉もなし、詠唱もなしで魔法を使っているんだよ。しかも君自身が意識しないて、魔法をね」


 団長さんとウィリアンさんが交互に答える。

 しかも魔法が発動する条件が、どうも殴っている時――らしい。

 それで今、クッションを殴らされてたのかぁ。


 でもクッションを殴っても、魔力の上がれは何もないらしく。

 物、ではダメってこと?


「実戦か、それに近い状況でないとダメかもしれませんね」

「そうだねぇ。神聖魔法は想いの力と言われるほど、本人の気持ちが重要になるからねぇ」

「なかなか検証も難しいですね、大神官殿」

「困ったねぇ……」


 困らせてしまった。

 でも待って。私、魔法使えてるってことだよね?

 じゃあ聖女になれるの!?


「ん? なんだか外が騒がしいね」

「見てまいりましょう」


 ウィリアンさんの執務室から、団長さんが出ていく。

 すぐに戻ってきて、


「ダウリンの鉱山で崩落事故があったらしく、あちらの教会から神官の派遣要請が来たようです」

「それは大変だね。すぐに人を――そうだっ、わたしが行こう」

「は? ウィリアン大神官が!?」

「そう。それでセシリアも連れて行くとしよう」


 え、私!?


「セシリア、すぐに支度をしなさい」

「し、支度って何をすればいいの?」

「何日か分の着替えがあればいい」


 何日か分ってことは、日帰りではないってことか。

 でも今からその鉱山に行って、間に合うの?


 着替えを入れた鞄を抱えてウィリアンさんの執務室へ戻ると、さっきまでいなかった人が何人かいた。


「セシリア、こちらへ。今から転移の魔法陣を開いて貰うからね」

「転移の? でもそれって魔術師の魔法で――あ、この人魔術師なんだ?」


 とんがり帽子を被った女の人が、会釈をするように頷いた。

 ウィリアンさんがその人に向かって何か言っている。


「すぐ後から若い男が――」

「はい。分かりました」


 なんの話だろう?


「ではみなさん、魔法陣を開きます」


 女の人が少し長めの呪文を詠唱し、それが終わると足元に魔法陣が浮かんだ。


「セシリア。魔法陣に乗るとすぐに転移が始まるからね」

「う、うん。分かった」


 ウィリアンさんは一番に転移して、他の神官がそれに続く。

 私も彼らの後に続いて、魔法陣に飛び乗った。


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