第22話 爆弾の投げ合い

「よっ、アラタ。それと風実歌ふみかちゃん」

「うす」

「やっほ。久しぶりドラゴン」

「ねぇ、風実歌ちゃん。そのドラゴンってのいい加減やめない?」

「えぇ〜いいじゃん。かっこいいよ」

「やれやれ……」


 俺らは、音葉おとは達のライブを見るためにライブハウス、『アークエンジェル』に来ている。

 ライブの開始までまだ時間はあるけど、出演者の知り合いってことで、早めに中に入れてもらっている。


「それにしても、がっつりイメチェンしたんだな。一瞬分かんなかったよ」

「酷いなぁ。でも可愛いでしょ?」

「あぁ似合ってるよ。でも、髪とか大丈夫なの? 確か校則で髪染めるの禁止だったよね?」

「冬休み中の期間限定」

「なるほど」


 まぁ、龍が最後に見た風実歌と今の風実歌じゃ見た目が全然違うからね。

 この見た目になる風実歌は、陰キャオーラを出しまくっている地味系女子だったもんな。


「そんなことよりもさ、ドラゴンが松田璃亜まつだ りあさんの彼氏ってマジなの?」

「残念ながらマジなんだなぁ、これが」

「この顔がいいことしか、取り柄のないドラゴンが出世したねぇ」

「だろ?」

「おいこら、相変わらず失礼過ぎる兄妹だな」


 そんなこと言ってもなぁ。龍って基本的にバカだし、エロいし、いいところを探す方が難しいんだよな。なのにあんないい子が、龍の彼女とか未だに信じられない。


「で? ドラゴンはいったいどんな酷い手を使って脅してるの? それとも弱みを握ってるのかな?」

「人聞きの悪いこと言うな。俺と璃亜ちゃんはちゃんと愛し合ってるんだよ」

「うわぁ〜、聞きました? あにぃ。今の超くっさいセリフ」

「しかもドヤ顔ですよ、風実歌さん。イタいですねぇイタ過ぎますねぇ」

「ほんとですよ〜。これだから、元厨二病は困りますのよねぇ」

「こんのクソ兄妹め……」

「あらあら、口が悪いですよ。ド〜ラゴン」

「そうだぞ。ド〜ラゴン」

「魔法美少女プリティフミフミ」

「うぇ……」

「ちょ、ど、ドラゴン……?」


 龍の一言で、さっきまで笑っていた風実歌の顔が、血の気が引いたみたいに真っ青になる。

 ま、マジかよ……そのカードを切るのは反則じゃないか?


「り、龍……? す、少し落ち着けよ……」

「あ? 何だよ? 漆黒の隻眼サムライさん」

「やめろー!」

「なぁ、魔法美少女プリティフミフミ。ちょっと魔法使ってくれよ。何だっけ? マジカルマジカルフミフミ……」

「いやぁー! やめてー!」


 俺と風実歌は、悲鳴をあげながら悶えてしまう。

 やめろ、やめてくれ! 俺史上最大のスーパー黒歴史を蒸し返さないでくれ!

 あーちくしょう! 過去の俺はなんて恥ずかしいことしてしまったんだ! 忘れたい思い出したくない消し去りたいー!


「にひひ〜楽しそうだね。何騒いでいるの?」


 あれ? 何でAGEのみんながここに居るんだろう。今の時間は控え室でライブの準備をしているはずなんだけどな。


「どうしたんだ?」

「いやいや、どうしたんだじゃないよ。さっき店長が控え室に来て、私達の連れが騒いでいるから、大人しくさせてこいって言われたの」


 俺の質問を若干キレ気味で松田さんが答える。

 あー……確かにちょっと騒ぎ過ぎたかもな……


「それについては、すまん」

「そんなに気にしなくてもいいですよ。本当にちょっと様子見てこい的な感じでしたし」

「ねぇ栞菜かんなって、少し桜木君に甘くない?」

「そんなことないと思うけど……」

「はぁ、まぁいいや。とにかく、あんまり騒がないこと。いい?」

「分かった。気をつけるよ」


 一応、音葉達の友達ってことで早めに入れてもらってるから、迷惑かけるのはよくないよな。反省反省。


「話変わるけど、その子が音葉が言っていた、桜木君の妹さん?」

「あぁそうだよ。ほれ、風実歌。挨拶しろ〜」

「あ、うん。どうも、あにぃ……じゃなかった。桜木アラタの妹、桜木風実歌です。気軽に風実歌って呼んで下さい。よろしくお願いします」

「風実歌ちゃんね。よろしく。私は松田璃亜。私のことも気軽に璃亜って呼んで」

「私は佐々木栞菜です。私も栞菜でいいよ」

「分かりました。璃亜さん、栞菜さん。よろしくお願いします!」

「こんな妹だけど、仲良くしてやってくれ」

「桜木君って妹思いなんですね」

「シスコンってやつ?」

「違うわ」


 ったく……何でそうなるんだか。ちょっと妹が仲良くなれるようにお願いしているだけだってのに。


「それで? アラタ君達は何をそんなに盛り上がっていたの?」

「うぇ〜ん音葉さ〜ん。聞いて下さいよ。ドラゴンがぁ〜」

「ドラゴン?」

「龍のことだ」

「あぁ、なるほどね。それでどうしたの?」

「ドラゴンが私のことを辱めるんですよ。私は嫌だ、やめてって言っているのに、全然やめてくれないんです〜」

「ちょっと風実歌ちゃん!? 言い方に悪意があるよ!?」

「うわぁ……吉田君それはないよ。キモい」

「本当にキモいです。軽蔑します」

「龍君マジ最低。キモい」

「うぐっ……」


 うわ、きっつ〜。女子のキモいは、マジで刃物だな。まるで、ゼ○ラのボイスカッター。


「私の知られたくない秘密を言いふらすんです。私……辛くて……」

「吉田君。死んだら?」

「はい。今すぐ死んで下さい」

「早く死んで。そして地獄に落ちろ」

「……」


 その辺でやめたげて! いくら何でもオーバーキルだって! 龍のHPはゼロだよ!

 てか、風実歌のやつ……わざとやってるだろ。ここぞとばかりにやり返そうとしてるだろ。我が妹ながら悪いやつだなぁ。


「風実歌ちゃん。何か龍君の秘密とか知ってたらここで暴露してもいいよ。私が許可するから」

「え……ちょ、璃亜ちゃん……?」

「そりゃもちろん、知ってますよぉ。あれだよね、あにぃ」

「そうだな。やっぱあれだよな」

「ちょっと待て。何でアラタまで乗り気なんだよ……」


 何で? そんなの決まってるだろ。さっきお前は俺の黒歴史を出してくれたからな。その仕返しをしなくてはならんのだ。


「おっしゃ! いくぜ風実歌!」

「おうさ! あにぃ!」

「やめろー! 本当にマジで!」

「我は紅き龍に選ばれし、紅蓮の勇者」

「我が血は地獄の業火より熱く、視線は月を砕き、世界に漆黒の帳を下ろす」

「右手には荒れ狂う狂龍」

「左手には灼熱の炎」

「合わされば、我の前には何も残らん!」

「受けてみよ!」

「「スカーレットフレイム・ドラゴン波ー!」」

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ー!」


 ふぅ……久しぶりにやったぜ。龍の黒歴史。これで仕返しは完了だな。

 しかし、俺と風実歌も人のことはあんまり言えないけど、間違いなくあの時は龍が1番イタかったはずだ。


「そ、そっか……ふ、ふふ……り、龍君にも……ふっふふ、楽しい時代が……あったんだね……」

「わ、笑っちゃ……ダメですよ。くっふふ……璃亜……」

「栞菜だって……笑ってるじゃん……にひ、にひひ……」


 どうやら、AGEの面々はお気に召したようだな。逆に龍は、今にも死にそうな感じで悶え苦しんでいる。ふん。ざまぁみやがれ。


「よし……死のう……」

「まぁまぁドラゴン。そんなこと言っちゃダメだよ」

「そうだぞ。強く生きろよ」

「はんっ。誰が1人で死ぬって言った?」

「「え……?」」

「お前らも道連れじゃ! このクソ兄妹!」


 こ、こいつ……ヤケ起こしやがった! まずいぞ。早いとこ止めないと、俺らに被害が出てしまう!

 風実歌も俺と同じ考えに至ったようで、すぐに龍を止めに入る。


「やめろ龍!」

「うるせぇ! だったら無理矢理にでも止めてみろよ、漆黒の隻眼サムライ! ほら、お得意の暗黒次元斬りはどうした!?」

「テメェこの! やめろって言ってんだろ! 風実歌! 構うことねぇぶっ飛ばせ!」

「あいよ、あにぃ! そこまでだよドラゴン!」

「おぉ? 何だよ、魔法美少女プリティフミフミさんよぉ! え? それで今いくつになったんだよ? 最後に会った時は152才だっけ? 随分と年取った魔法美少女ですねぇ! てか、設定ガバガバなんだよ! バーカ!」

「うわぁー! ドラゴン、マジ最低! 人の黒歴史出しただけじゃなくて、罵倒までして来た!」

「テメェ、龍! 俺の妹をいじめるんじゃねぇぞ!」

「もう怒った! あにぃ、こうなったらドラゴンの黒歴史を全部言っちゃおうよ!」

「そうだな。目には目を歯には歯を黒歴史には黒歴史だ!」

「やってみろ、こんちくしょう!」


 そこから先は酷いものだった。

 俺らはお互いに、黒歴史という名の爆弾を投げ合う、醜い争いを繰り広げることになった。

 結果として、3人揃って心に深い傷を負うことになったのは言うまでもない。

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