第13話 ゲームを買いに行こう!

「あの〜東城さん?」

「ん? 桜木君どうしたの?」

「邪魔なんすけど……」

「まぁ、邪魔してるからねぇ」

「はぁ……」


 日曜の昼。昼飯を食い終わった俺は、大学に提出するレポートを書いていた。期限は明日までだから、急いでやらないといけないんだが、微妙に不機嫌な東城が、さっきからずっと邪魔をしてくる。

 今は、俺の足の間に座って、パソコンの画面が見えないようにブロックしている状態だ。


「頼むから、避けて下さい」

「考えとくよ」

「その言葉、15分前にも聞いたんだけどなぁ」


 何だかんだで、東城がこの体制に入って、30分ほどが経過している。その間、何回も何回も何回も避けてくれって言っているんだけど、一向に聞き入れてくれない。困ったものだ。

 それに、もう1つ非常に困った問題がある。それは、この体制になってから、めっちゃムラムラするってことだ。

 だってさ! 東城の体がずっと密着しているし、何かいい匂いするんだもん! そして何よりも、何かいけないことをしているみたいで、エロいんだよ!

 正直に言おう、レポートの提出が遅れる心配よりも、俺の理性が持つかの方が今は心配だ! てか、そろそろ限界であります!


「桜木君」

「はいはい?」

「私、暇なんだけど」

「俺はレポート書きで、忙しいんですけどね……」


 それと、内なる狼ちゃんを押さえつけるのでね。むしろ、こっちの方が大変なまである。


「私、ゲームしたい」

「やればいいんじゃん」

「やりたいけど、この家ゲームないじゃん」

「スマホでいいやん」

「スマホゲームは飽きたの」

「じゃあ、諦めてくれ」

「それは嫌!」

「なら、どうしろと?」

「そんなの決まってるじゃん。買いに行くんだよ」


 決まってるのかぁ。そうかぁ。

 ん? てか、この子、ゲームしたいから、俺の邪魔してたの? うわ何それ、クソ迷惑じゃん。


「だからね。早く行こうよ〜」

「その前にレポートだけ終わらせてくれ。その後だったら、いくらでも付き合うからさ」

「それ、どのくらいで終わるの?」

「30分ってところかな」

「えぇー、じゃあ私が邪魔しなければ終わってたってこと?」

「その通りだね」

「ありゃりゃ〜」


 うん。ありゃりゃ〜じゃないんだなぁ。俺の30分返して。


「仕方ない。じゃあ、邪魔しないであげるから、早く終わらせてね」

「ありがたいんだけど、何でそんな上から目線なのかね?」

「はいはーい。無駄口叩かないの。ほらほら、レポートに集中集中」


 理不尽だな、おい……

 でもまぁ、足の間から出てくれたから、これでようやくレポートに取り掛れるな。とりあえず、また邪魔される前にさっさと終わらせてしまおう。


 ――――

 ――


「ん〜……っ、終わったぁ〜」

「お疲れ〜。はい、コーラ」

「ん。サンキュ」

「でさぁ、スイ〇チとプレ〇テだったら、どっちがいい?」

「その話、マジだったの?」

「うん」


 うん。まぁ、いいんだけどね。あって困るものじゃないし。どうせ、お金出すのは俺じゃないからさ。


「東城の好きな方でいいんじゃない?」

「私は桜木君の意見を聞いてるんだから、ちゃんと答えてよ」

「それならまぁ……個人的にはプレ〇テかな」


 やっぱ画質がいいし、何より好きなタイトルが多いのはプレ〇テだしな。


「ほほう。なるほどね」

「因みに東城はどっちなの?」

「私もプレ〇テかなぁ。あれやりたい。ハリ〇タ」

「あー、確かにあれはやってみたいな」

「じゃあ決まりだね。よしっ、早速買いに行こう!」

「はいよー」


 ――――

 ――


 近所のゲームショップにやってきた俺達は、とりあえずお目当てのプレ〇テを確保して、今はソフトを見ている。因みに最新の5を買うことにした。


「やっぱり、格ゲーは外せないよね」

「まぁ、定番だもんな」

「あ、シカロボあるよ」

「え? シカロボって、ナンバリング6まで出てんの」

「確か、来年7発売らしいよ」

「マジか」


 シカロボとは、シカをモチーフにしたロボット同士が戦うバトルゲームだ。実は結構人気のコンテンツだったりする。

 俺は、アーケード版の2までしか遊んだことないからなぁ。一体、どんだけ機体の数がふえてんのかな?


「どうする? シカロボ買っちゃう?」

「そうだな。俺も久しぶりにやりたい」

「オッケー。後は〜、これとこれかな」

「そんなに買って大丈夫なの? それなりに金がかかるよ」

「大丈夫大丈夫」


 本当に大丈夫なのか? 本体とソフトが数本。プラスでコントローラー。下手したら、10万超えちまうんじゃないか?

 いくら、バンドでそれなりに稼いでるって言っても、限度があると思うんだけどな。

 もしかして、別の収入源があったりするのかな? でも、確実に働いてはいないんだよな。

 うーん。謎だな。


「よし。とりあえず、こんなものでいいかな」

「決まったの?」

「うん。後、会計してくるから、桜木君は外で待ってていいよ」

「ん。了解」


 しかし、ゲームか。やるのは随分と久しぶりだな。最後にやったのは、高校の時かな? 少なくても、大学生になってからは、スマホゲーどころかゲーセンにも行ってないもんな。

 ふむ。ちょっと楽しみになってきたぞ。今日は徹夜かな。


「あれ? 桜木君?」

「ん? あ、佐々木さん」


 ゲームショップの入口の前で、東城を待っていると、佐々木さんに声をかけられた。


「奇遇ですね。買い物ですか?」

「東城が急にゲームやりたいって言い出して。それでゲームを買いにね」

「あぁなるほど。また音葉おとはの急な思いつきですね」

「まぁ、そんなところ」


 流石、佐々木さんだな。東城のことをよく分かっている。あいつは、結構ノリと勢いだけで生きているところがあるからなぁ。


「あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「私に答えられることだったら、構いませんよ」

「佐々木さん達のバンドって、そんなに稼いでるの?」

「いきなりどうしたんですか?」

「いやさ、その東城の羽振りが随分といいと感じたからさ」

「あぁなるほど」

「あ、もちろん、無理に聞くつもりはないから。答えたくなかったら、全然答えなくていいよ」


 流石に稼ぎのことになると、デリケートな問題だしな。


「いや、別に構いませんよ」

「え? いいの?」

「桜木君から聞いてきたんじゃないですか」

「いやまぁ……そうなんだけどさ」

「あ、でも、あんまり他の人にペラペラと、話さないのが条件ですよ」

「そりゃもちろん。その辺の常識はあるよ」

「なら、オッケーです」


 佐々木さんはそう言って、指でオッケーポーズをして、ニコッと笑う。

 うっ……なにそれ、ちょっと可愛いじゃないかよ。


「まぁ、結論から言うと、そこそこ稼いでますね」

「そうなの?」

「はい。てか、そもそも桜木君は、バンドマンがどうやって収入を得ているか、知ってますか?」

「確か、チケット代なんだっけ? 後、グッズの売上?」

「そうですね。間違ってないです」


 そんなことを前にチラッと聞いた気がする。と言っても、それでどのくらいの稼ぎになっているかまでは、聞いていないんだよな。


「桜木君も知ってる通り、私達が普段演奏しているライブハウスのチケット代は、3000円です。私達はそれを最低30枚売らないといけないんです」

「ノルマってやつだっけ?」

「その通りです」


 確かあれだよな。ノルマ分が売れなかったら、その分は自腹になるんだっけな。それで、新人バンドや売れないバンドは、常に金欠だって聞いた事がある。


「そのノルマ分より多く売った分が、主に私達の利益になるわけです」

「なるほどな。つまり、売れれば売れるだけ、稼げるってわけか」

「そうですね。で、私達のライブの時は、だいたい150人くらいは来てくれるので、120人分のチケット代が私達の利益ですね」

「ん? ちょっと待てよ。てことは……」


 120×3000円だから……36万!? AGEは3人組バンドだから1人辺り12万。しかも、これは1回でのやつだよな。

 東城達は、週に2回ライブをやってるから、月に8回だろ。ってことは……


「おぉう……」

「まぁそんな感じですね」


 東城お前……とんでもないやつだったんだな……

 しかも、これにプラスでグッズの売上代だろ? マジでハンパねぇな。こりゃ確かに、俺1人をヒモにするくらい楽勝なわけだ。


「あ……うん。教えてくれてありがとう……」

「いえいえ。あ、しつこいかも知れませんが、他の人は内緒ですよ」

「大丈夫。分かってるよ」


 元から言うつもりはなかったけど、流石にこれは気軽に言えないな。


「お待たせ〜」


 お? 東城が戻ってきたな。

 両手には、買ったばかりのゲーム機とソフトの袋を持っている。


「あれ〜? 栞菜かんなもいるじゃん」

「やっほ、音葉」

「やっほやっほ。こんなところでどうしたの?」

「たまたま通りかかっただけだよ。そしたら、桜木君を見つけて声をかけたんだ」

「なるほどね」

「東城。片方持つよ」

「うん、ありがとう。じゃあ、本体の方お願い」

「ん。了解」


 俺はゲーム機が入った大きい袋に入った方を、東城から受け取る。


「桜木君から聞いたよ。あんた、急にゲームやりたいって言い出したんだって?」

「そうそう。急にやりたくなっちゃったんだよねぇ」

「因みに何買ったの?」

「プレ〇テ5とソフト数本だよ。あ、やっぱり興味ある? 栞菜、ゲーム好きだもんね」

「まぁね。ソフト何買ったか見せてよ」

「もちろんいいよ〜」


 へぇ、佐々木さんってゲーム好きなんだ。何か意外だな。


「あ、シカロボ買ったの!」

「まぁねぇ」

「しかも、6のプレミアムエディション版じゃん!」

「えっと、それって何か違うの?」


 俺には違いが全く分からんからな。


「全然違いますよ! 通常版と違って、追加の機体が使えるだけじゃなくて、専用サウンドも導入されているんです!」

「へ、へぇ……」


 す、すげぇ……今までにないくらい、佐々木さんのテンションが上がってる。目をキラッキラにさせて、めっちゃいきいきしているぞ。


「栞菜は、シカロボ大好きなんだよね」

「だろうね。この反応を見てよく分かったよ」

「いいなぁ……」

「てか、佐々木さんは持ってないんだ」


 こんだけ好きそうなら、買っていてもおかしくないと思うんだが。この感じだと、持ってないよな?


「あ、あー……」

「ん?」

「そのね。栞菜は、璃亜りあからゲーム禁止令が出ているんだよ」

「え? 何で?」

「栞菜は、結構のめり込んじゃうタイプなんだよねぇ。だから、ほっとくと時間も忘れて永遠とやっちゃうんだよ」

「えぇー、うっそだぁ」

「いや、これが本当なんだよ。前にそれで、ライブ遅刻して、怒った璃亜にゲーム没収と禁止令が出されたんだ」


 いやいや。真面目な佐々木さんに限ってそんなことある訳ないって。東城のやつ、俺をからかっているな。


「その節は本当にすいませんでした……」

「え? マジなの……?」

「はい……」


 お、おぉ……マジかぁ。

 まさか、佐々木さんにそんな一面があったなんてな。


「因みに、その禁止令ってまだ続いているの?」

「はい……。もう、3ヶ月経ちますね……」


 うわぁ……そりゃキツいなぁ。時間を忘れてやるくらいなんだから、相当のゲーム好きだ。そんな人が3ヶ月ゲーム出来ないなんて、もはや拷問に近いはずだ。

 それに佐々木さん、さっきからシカロボのパッケージをやりたそうに、すっげぇガン見してるしな。


「なぁ、東城?」

「うん?」

「今日だけ、佐々木さんにゲームやらせてあげるのはなし?」

「やっぱりね。言うと思ったよ」

「お見通しか。じゃあ頼むよ。最悪、俺が無理矢理誘ったってことにしていいからさ」

「分かったよ。桜木君がそこまで言うんだったら、仕方ないね。璃亜には秘密にしとくよ」

「サンキュ。東城」

「まぁ、私もちょっと栞菜が可哀想だなって、思ってたからさ」

「そっか」

「うん。それにゲームは、みんなで遊んだ方が楽しいしね」

「そりゃそうだな」


 それに佐々木さんには、この間の件で助けてもらったしな。借りを返すにはちょうどいい機会だ。


「佐々木さん」

「はい?」

「この後、俺らと一緒にゲームしよう」

「え? いいんですか?」

「もちろん。な? 東城?」

「うん。一緒にやろうよ。大丈夫、私も桜木君も璃亜には黙っておくから」

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて」

「よーし決定! それじゃ早く帰ってゲームだ!」

「おう」

「はい!」

「今夜は徹夜だぜぇー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る