4 鏡写し

「どこに行くんですか?」


 作戦の概要を伝えながらのレイアの治療がある程度終わり、レイアの手を引いて事務所を出ようとした所で篠原に呼び止められる。

 とてもこちらを心配してくれている表情だ。どんな表情を向ければ良いのか分からない。

 それは分からないけれど流石に無視して通る事は難しそうで、適当な話を組み立てる。

 組み立てている間に、篠原は言った。


「……大丈夫ですか? 志条君」


 レイアではなく、八尋にそんな言葉を。


「大丈夫ですよ。俺の受けた攻撃は峰打ちみたいなもんで、レイアの傷もほぼ完治です」


「そういう事じゃないんです」


 一拍空けてから、篠原は言う。


「今のあなたからは……二年前の私と同じ空気を感じます」


「なんですかそれ。それじゃあ俺が今からヤバい事をしに行くみたいじゃないですか」


「……違うんですか?」


「違いますよ」


 違わない。

 これから行うのは悪人と戦って結果命を奪うような、こういう仕事だからと肯定できるような事でも無い。

 まともな事を言っていてまともな事をやっているであろう善人を、これから理不尽に殺しに行くのだ。


 確かに篠原と同じだ。

 だけど未遂で終わらせるつもりはない。

 だから本当に何も違わない。


「……そうですか」


 そう言って篠原は道を空けて言う。


「……もし私にできる事があれば、連絡ください。飛んでいきます」


「ええ、何かあれば」


 頼る訳にはいかない。

 この人も烏丸と同じようにどういう結論を出すかが分からない。


 それに……こんな事に関わる人間は、少ない方が良い。

 少なくとも、かつてあれだけ憔悴しきっていたような人間は巻き込まれるべきではない。


「……お気をつけて」


 関わらせる訳にはいかない。

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