第19話

「語りべ様。皆集まりました」



「そうか。そうか。では皆にこの里に、エルフに伝わる終わりと始まりの話を聞かせよう」



「今から5千年以上昔の話じゃ。今よりも、もっと魔法が発展していた時代、人々は魔法の力を使い、空すらも支配していた。そしてこの世界を作った神の魔法までも扱えるようになった。それが原初魔法じゃ。その魔法は、寿命を伸ばし、物作りに特化させたり、魔法の扱いに特化させたり、魔法によって様々な人間を生み出した。そんな時代の話じゃ」














「また懐かしい夢を見たもんじゃ」



「ガストン様の懐かしい話とは?」



「エストか。うたた寝してしまったようじゃの。ふむ。わしがまだエルフの里におった頃の話じゃな。里に伝わる話を聞いて、わしは魔道具を作ろうと思ったのじゃ。そして里を離れる事にした。それからは色々な国を廻って放浪の旅をしておった」



「その話はとても気になりますね。エルフに伝わる話とは、一体どんな話だったのですか?」



「これはエルフの血を引く者のみに伝えられる話じゃ。それに普通はとても信じられぬ話じゃからのう」



「そうなのですか?それはとても残念ですね」



「そう言えば、ダクターは今どうしておる?」



「今は宰相様と魔鉱石をどの位輸出するかの話をしてますね」



「ふむ。確か3大国の騎士国からの魔鉱石の輸出の打診があったとかじゃったかの。あの国は船での貿易で他の大陸とも取引があるからの」



「そうですね。もしかしたら魔鉱石を輸出するのかもしれないですね」



「それは恐らくは違うじゃろう。もしかしたらあの国は鉄の船でも作る気かもしれぬぞ。そう言う噂が少し前にあったからの」



「鉄ですか?あんな重いものが浮くとは思えませんが。それに海では直ぐに錆びて使えなくなるのでは?」



「その為の魔鉱石なのじゃろ。魔鉄は鉄よりも強固じゃから軽く出来るし、海の水でも錆びないじゃろう」



「成る程。しかし、珍しくガストン様はあまり興味が無さそうですね?」



「今となってはのお。空を飛べるようになれば、危険な海の魔物に襲われなくて済むからの。わざわざ船で運ばなくても良くなるかもしれぬぞ?」



「そうですね。仮に別の大陸まで大量の商品を安全に運べたら、船なんて要らなくなるかもしれません」



「まあそれは魔力の消費量次第じゃろうう。流石に金がかかりすぎると安い物は船が良かろう」



「そうですね。後は陸地の空を支配しているモンスターですね」



「そうじゃ。昔気球なる物を開発したらしいが、ある程度の高さになると、モンスターが襲ってくるから使い物にならなかったそうじゃ」



「私もその話、聞いたことあります」



「それに比べてダクターが開発したジェットエンジンとやらは素晴らしい。あれほどのスピードが出せるなら、モンスター等一瞬で振り切れるじゃろう」



「私など、あの実験を見てるだけで恐ろしくなりますよ。あんな速度で人が移動するなんて、とても無事で居られるとは思えません」



「そこはアブソープションで保護しておるから大丈夫であろう」



「それにしてもダクター様は本当に凄いですね。我々の全く想像出来ないような物を簡単に創造してしまう。これが知恵の神の加護のお力なのでしょうか」



「勿論それもあるじゃろう。しかし、わしは今までの加護持ち達とは少し違っている気がするの」



「それはどのような違いが?」



「昔、あやつの両親から相談された事があっての。教えてもないのに色んな事を知っていて、理解力も高いが、全く知らない未知の知識を話し出したりしたそうだ。加護を授かったと言っても、ゼロから生み出す程便利な物ではない。必ず前提となる知識や技術を習得する必要がある。それでわしは村の皆に、ダクターは知恵の神の加護を授かってるかもしれぬと言っておったのだ」



「成る程。だから村の人達は全く動揺していないのですね。私なんて話を聞いた時は相当驚きましたよ」



「村の皆にも話したんじゃが、ダクターには普通に接してやってくれ。昔は人と話すのを嫌がる位動揺しておったからの。子供のそんな姿、見ておれんかったわい。アビオンの奴にも頼まれておったしの」



「アビオン殿とはどなたの事ですか?」



「ダクターの祖父だな。あ奴には相当世話になったしの」



「そうなのですか?私は存じ上げてないですが、有名な方なのですか?」



「あ奴の事は何も知らん方が良い。それより、ダクターが錬成した金属は卸さない方が良かろう」



「そうですね。あれ程の純度で錬成出来るのはダクター様しか居ませんからね。何しろ限りなく100%の純度ですから」



「お主は魔道具の管理はしっかりの。エスト・カーネルよ」



「もう私は伯爵家の人間ではないですよ」



「お主は昔からそうじゃったの。お、そうじゃ、今日は新しい武器の構想を試そうと思っておったのじゃ」



「ガストン様は本当にお元気になられましたね。見た目も少し若返ったのではないですか?」



「わしもそんな気がしておっての。それに最近魔力量も若干上がった気がするしの。不思議じゃのー」



「そう言えば、ダクターに内緒で着けたあの魔道具は役にたっておるかのぉ」





ーーーーーーーーーーーーー



「君は今日はじめての輸送隊への参加だったか」



「はい。無事5年間の見習いを終えて、輸送隊を希望しました」



「そうか。後ろの座席に居るのが護衛隊だ。ま、護衛隊の出番は荷物の積み降ろしの時位だな」



「え?この魔道車は襲われたりしないのですか?」



「無くは無いが、お前が強盗なら、こんな動く鉄の塊を襲おうと思うか?」



「いいえ。踏み潰されそうです」



「ま、そう言うこったな」



「確かにそうですね。私もいつか魔道車を運転してみたいです」



「まだ若いんだ。これから沢山機会もあるだろう。この魔道車は凄いぞ」



「あ、何か前の方で荷車が横転してるみたいですね」



「お前達、全員降りるなよ」



「え?助けないのですか?」



「あれはわざとだろう。損傷が無さすぎる。恐らく強盗共だな」



すると荷車の前まで行くと魔道車の回りを囲まれた。



「おい、お前ら、この魔道車事全て頂くぜ」



「「おぉー」」



「乗ってる奴全員蒸し焼きになれ、フレイムバースト」



「魔法使いまで居るのか。仕方ない。防衛装置発動」



運転席に着いているボタンを押すと、物凄い光の閃光が何度も起きた。



「あ、あの、これは一体」



「あぁ。これはこの魔道車に着いてる魔道具でな、ボタンを押すとライトニングバーストを放つ。これで魔道車の近くにいる奴等は一網打尽だぜ」



「お、恐ろしい魔道具ですね。私達は大丈夫なのですか?」



「安心しろ。この魔道車の一部には電気を吸収する素材が使われてるらしい。だから中に居れば安全だ。因みに登録してる人しか使えないからな」



「す、凄い技術ですね」



「そうだろ。この魔道車は俺の相棒だからな。それにこのライトニングバーストの魔道具はガストン様自ら着けてくださったんだぞ。よし、町まで急いで後片付けしてもらおう」


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