第13話

「え?俺達クビですか?」



「ああ。店舗の数も減ったし、今取引してるのは大口ばかりでな。小さな取引はなくなった。今までご苦労だった」



「団長、これからどうします?俺達無職になっちまった」



「ああ。噂で聞いたんだが、商会でクビになった女達がいるだろ?そいつらを新しい商会が雇ってるって話でな。もしかしたらそこで雇って貰えるかもしれねぇ」







「ここがノーラン商会か。話だけでも聞いてくれたら良いが」



「あれ?バックスさんじゃないですか?」



「お、リズじゃないか。ちゃんと就職出来たんだな」



「そうですよ。前の商会長の娘さんが新しくこの商会を作って、私達を雇ってくれたんですよ。待遇もよくて満足してますよ。所で今日はどうされたんですか?」



「実は俺達もクビになってな。それで俺達もここで雇って貰えないかと思ってな」



「成る程。じゃあ会長に聞いてきますね」



「話は聞いてもらえそうですね。団長」



「そうだな」











「あなた達が護衛希望の人達ね」



「はい。バックスと言います。オズワルト商会でも護衛を担当してました」



「成る程。比較的新しい護衛隊だったからクビになったのね。丁度良かったわ。私が取引している工房で警備員を募集しているのよ。それで良ければ紹介するわよ」



「本当ですか?宜しくお願いします。それで具体的な内容は?」



「工房の外と中での警備と、資材の運搬、採掘作業や戦闘訓練をローテーションでしてもらうわ。給料は月に金貨3枚からスタートらしいわ。住む場所もあちらで用意するし、食事もあちら持ちね。税金は自分で払うか給料からの天引きで工房が払うか選べるわ。かなり良い職場よ」



「本当に金貨3枚なんですか?オズワルト商会の時の倍ありますよ?」



「それだけ高価な物を扱ってるのよ。言っておくけど、責任重大よ?私は貴方達を前の商会の時から知ってたからこの話をしたのよ?期待を裏切らないでね」



「分かりました。ありがとうございます」











「準備は出来てるわね。それじゃあこの中に荷物を入れたら全員そのままこの中に乗りなさい」



「団長?本当に大丈夫なんですかね?こんな怪しい箱に入って」



「もう団長じゃない。バックスと呼べ。信用するしかないだろ」









「いつまでこの箱に乗ってれば良いんですかね?進むのは大分早いみたいですが」



「俺も魔道車なんて乗った事ないしな。しかもこんな頑丈そうな鉄の箱に荷物を入れるなんて。一体普段何を運んでいるのか」



「着いたぞ。降りろ」



箱から降りると驚いた。なんて広い空間だ。しかもそこには見たことのない魔道車が沢山並んでいる。



あれは?天井が光ってるのか?周りを見てみると仲間達もあまりの光景に言葉を失っているようだ。



「全員荷物を持ったら着いてくるように」



そう言われて後ろを着いていく。



前の男が箱に手を触れると、扉が勝手に開いた。一体なんなんだ?俺は夢でも見ているのか?



何か凄く綺麗な空間にでて、扉の前で待機させられた。



「僕がここの工房の責任者のダクターだ。君たちは今日からここで働く仲間だ。宜しくね。それじゃあ今から君たちの登録を行う。この登録をしないと箱に手を触れても扉は開かないからね。先ずはバックスから」



「はい」


俺は訳も分からず箱に手を触れた。それだけで登録は終わりらしい。



因みにこの登録はダクターさんしか出来ないらしい。



あ、最初は子供が出てきたから何かのイタズラかと思ったけど、皆この子供に頭を下げて敬ってるから本当に責任者なんだって分かった。



割り振られた部屋に入ると、中も恐ろしい位綺麗だった。後、靴を脱いで入らないとダメらしい。



でもここの施設の床は、格納庫以外は靴で踏むのを躊躇う位には綺麗だから、当然と言えば当然か。



部屋にはある程度の家具は準備されていた。そしてトイレもお風呂もあった。こんな贅沢が許されて良いのか?



もし仮にこんな宿屋があったら、1日金貨何枚払わないと行けないのだろうか?



俺も皆も、これからの生活に期待と不安でいっぱいだった。






ーーーーーーーーーーー




「副会長、今月の売り上げはどうなってる?」



「先月に続き20%落ちてます。恐らくまだ下がるかと」



「何であんな訳の分からん使用済み魔石の買い取りとかやってる商会に客を奪われなきゃならんのだ。しかも何であんな大型の魔道車を持ってるんだ。一体どこから」



「部下達に調べさせましたが、あの魔道車も、安い魔鉱石も出所は分かりませんでした。ただあの魔道車には心当たりがあります」



「何処だ?何処の誰だか分かれば俺のオズワルト商会の名前を出せば直ぐに作らせられるだろう」



「それは恐らく無理かと。作ったのは恐らくあのガストン様でしょう。王都で話題になっている魔道車の製作者がガストン様ですから」



「くそっっっ」



「何でよりにもよって妹の商会にっっっ」



「それと、各地から従業員を増やしたいとの要望が出ています。かなりの数が辞めたらしく、仕事が回らないとか」



「何でそんなに辞める事になったんだよ。折角商会に残してやってるのに」



「どうやら妻や恋人が新たに雇われた商会に移るとか。辞めた殆どの人員が、妻や恋人がこの商会をクビになっております」



「は?何でそうなる?商売は男の仕事だろ?妻や恋人に何の関係があるんだ?」



「どうやら自宅等で会計等の仕事を手伝っていたようで。交渉が上手くても、計算が苦手な人もいるようですし」



「そんなやつは商人では無い。辞めて清生するわ」



「ですが大口の取引先の窓口はその方達が担っていたので、取引取り消しの話も出ていますよ?」



「何でそうなる?代わりの担当を付ければそれで終わる話だろ?」



「儲けることも大事ですが、同じ位信用も大切なのですよ?店舗の売却と従業員を大量にクビにした時にも申しましたが」



「そんなのは俺には関係ないだろ。こっちは天下のオズワルト商会だぞ?それだけで信用になるだろ」



「どうやらご自身がオズワルト商会の顔と言う認識が無いようで。貴方の信用が無くなれば、オズワルト商会の信用も無くなるのですよ?従業員や店舗を簡単に切り捨てる人は取引先も簡単に切り捨てると思われてるのですよ?」



「ではこれからどうすれば良いのだ」



「それはこれから従業員全員で考えなくてはならないですね。先代はそうされてましたよ」


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