『TS娘』思考実験

中島しのぶ

第1話 『シュレディンガーのTS娘』

 TS学園大学 生物学部本館地下3階『生体検査室』(通称『ラボ』)にて。


「『シュレーディンガーの猫』というあまりにも有名な量子力学に関する思考実験は知っておるじゃろ?」と一条教授。

「まぁ一応一般常識としては知っていますよ?」とわたし、中島しのぶは答える。


 釈迦に説法になってしまい失礼かもしれないですけど皆さんはご存知ですわよね?

『シュレーディンガーの猫』はオーストリアの物理学者シュレーディンガーが考案した量子力学に関する思考実験でラジウムがα粒子を放出すると毒ガスが発生する装置を猫とともに箱に収め、α崩壊の半減期を経過した後に猫の生死を問うもの……言い換えれば、箱の中の猫は、生死を観測されるまで、生きている状態と死んでいる状態が重なった状態で存在する……。


「で、その実験が何か?」とわたしは教授に聞く。

「まぁお遊び程度にわしも考えたんじゃが、ずばり『シュレディンガーのTS娘』!」

「はぁ?!」

「じゃから『シュレディンガーのTS娘』じゃ」

「いやいやいや、それは聞こえましたがそれが何か?」

「え〜い、分からんTS娘じゃな!」

「……で?」


「この『箱』の中に、この子を入れる……」

「ちょいちょいちょいちょい!そのTS娘、どっから連れて来た!それにその『箱』!安全なのか?」

「大丈夫大丈夫。この子は可逆性として、30分したらどうな〜るか? わっかるかな〜?」

 はぁ? なんだこのぢぢいは?


「ほら、答えてみぃ!」

「可逆性なら『男』に戻ってる。ただし30分でそのトリガーが解けなければ『女の子』のまま……」


「じゃ、実験するのじゃ」

「ね、だからこれ何の実験なの?」

「じゃから、『シュレディンガーのTS娘』とさっきから言っとろうが」

「あ〜はいはい」


* * *


「で、教授、30分経ちましたよ〜」

「おお、そうじゃ。忘れとった」

 なんだかなぁ。


「で、この『箱』を開けると……」

「開けると……?」


「は〜い、女の子のままじゃ。しのぶよ、これをどう解く?」

「え、だから観測されるまで『TS娘』か『男』かわからない状態。30分後に観測すると『TS娘』のまま……って解ですね?」


「ブブ〜」

「へ?」

「わしゃ、一言もこの子が『TS娘』とは言っとらんぞ、『この子』とは言ったがの」

「あっ!」

「この子が『TS娘』と勝手に思ったのはしのぶのほうじゃよ、ほっほっほ〜! 引っ掛かりおったの〜 あ〜愉快愉快!」


「う〜なんか知らないけど頭にきたから、帰る!」

「おいおい、今日の『検査』はどうするのじゃ」

「そんなの、受・け・ま・せ・ん! では!」


以上 『シュレディンガーのTS娘』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る