第36話 15時25分 強襲
「ってか、一緒に行動するなら武器頂戴よ。そうじゃないならもう私は勝手にさせてもらうわ」
こちらを襲わないなら僕も好き好んで殺しはしたくない。
この人の素性も分かったし拘る理由もない、そしてこの人の性格は苦手だ……
それはガレットも同じ気持ちなのだろう。
「わざわざ殺す理由がなかったから見逃しただけ……私の共犯者はねずみさんだけでいい……そして武器は渡せない。あなたは信用できないから……」
僕たちは2階の非常階段に移動していた。
声の
「ならもう話し合うこともないわ。私は隠れて終了時間を待たせてもらうから」
だが、たしかに懲役をチャラにした後はクリアだけが目的なら、隠れているほうが賢いと言えるような状況になりつつある。
投げ銭のためのアピールもすでに必要はなく、無駄に危険を冒すことも極力避けるのが普通だろう。
でも、僕はそれを選択することはない。
僕のクリアはあくまでも復讐を果たした後に望むものだからだ。
そういう意味であればガレットはどうなのだろうか。
侍を殺してる以上、懲役は減っているはずだし、梨藤フランも結果的に見逃している。
ガレットももう隠れていたいんじゃないだろうか……
そんな思いが渦巻いているうちに、梨藤フランは非常階段から2階を覗くと、身を屈めながら中へ入っていく。
1階の状況が不明である以上、ある程度把握できている2階で時間をやり過ごすほうが生き残る確率が高いと踏んだのだろう。
「ガレット。きみももう逃げ切りたいんじゃないか? 正直な意見を――」
その時、非常扉の隙間から銃声が漏れた。
この音はショットガンだ――
扉が閉まりきる前に内部へ視線を送る。
そこで僕の目が捉えたものは、顔面が陥没した梨藤フランとそこに悠然と歩み寄る特殊部隊アバターの姿だった。
武器を複数背負っていて、機動力は低そうだけど……
「よーしよしよし! 調子いいぞー! 視聴者ちゃんと見てるかー? これが有言実行の男! そして~……これで3人目! あとは~……」
特殊部隊の視線が非常扉の隙間から覗く僕たちに向けられた。
扉のノブを掴み、一気に閉める。
なんだあいつ……やばい――
「あの人は話し合いできなさそう……」
「同感だね……」
僕がガレットに渡したハンドガンは打ち切って、僕がガレットから受け取ったサブマシンガンは狼に傷を負わせたため、捨てた。
ガレットは2個サブマシンガンを隠していたけど、もう1個は狼が使おうとして、結果、梨藤フランに全弾撃ち尽くされてしまっている。
こっちの武器は僕のハンドガンが2個。
そしてガレットが隠しておいたサブマシンガンが1個とガレット自身のハンドガン1個だ。ガレットは軍手もしているがこれは非常用だ。
そもそもガレットが1000万以上投げ銭をもらってたという事実は聞いた時、あまりの格差が心に重く圧し掛かったけど。
「ここの扉は頑丈だけど、今の状況で1階から他のやつに挟まれたら詰みだ。下の階に出よう」
「うん……さんせい……」
僕とガレットは一足飛びで階段を駆け下りる。
そこで僕たちは自分たちの判断の早さを心から誇ることになった。
けたたましい爆発音と共に非常扉が吹っ飛んでいく。
煙が立ち込める非常扉の奥から現れた特殊部隊が肩に担いでいたものは――
ロケットランチャーって……――ッ!! そんなもん選ぶなよ!!
ガレットが非常扉に向かって薙ぎ払うようにサブマシンガンを放射すると、背後へ飛び退いていく。
「ガレット先に行って!」
僕はハンドガンを構えながら、手振りでガレットを急かす。
ガレットが1階まで駆け下りたことを横目で確認した時。
非常扉から姿を見せた特殊部隊の手には手榴弾が握られていた。
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