第33話 14時22分 追撃

「とりあえずやつらを追いかけるとして……ガレットはサブマシンガンを狼以外に撃たないように注意だな」


「うん……一応、ハンドガンも1個持ってるから……ねずみさんの武器は?」


「僕のほうは手持ちのハンドガン19発分でまだ誰も傷付けてはいない。フライパンも無事だ。ポーチにも予備がある」


「分かった……2階を索敵していないようなら……一度武器を取り替えたい」


 スタジオの壁に2人で張り付きつつ、認識を合わせる。

 サブマシンガンは強力だけど、いくつも持ち歩くことができないというのはたしかに不便でもある。持てても手持ちと背負って合わせて3つという所だろう。


「部屋は戻れないよね? どこかに隠してあるの? 言わなくてもいいけど」


「うん……」


 ガレットは僕の耳に唇を寄せ、


「……マッサージルームの荷物置きに紛れ込ませてる」


 微かに耳を撫でる吐息がこそばゆい。

 

「分かった。できれば交戦するなら狼たちだけど、他と交戦になったら深追いはやめよう」


「うん……でもトレーニングルームはここと近すぎるから……2階にいるなら……もっと奥のヘアサロンだと思う……そこも見ていないようなら……中央のラウンジを確認しよう」


 僕は顎を引きながら横目でガレットを見つめる。

 ガレットも頷くと僕を先頭にスタジオから乗り出した。


 ああは言ったものの、トレーニングジムを素通りすることはできない。

 ガレットに入口付近に待機してもらいつつ、僕が器具間を探すが、人影は見当たらなかった。


 ジムの入口に戻ろうとした時、ガレットがこちらを向いて唇に人差し指を当ててしゃがみこむ。

 僕も咄嗟に器具の下に滑り込み耳を澄ませると、聞こえてくるのはショットガンの音だ。


 1丁ではない。これは撃ち合いをしているのだろうか、音が一度なるとさらに応戦するようにもう一発、音が響いている。

 時折ハンドガンの軽く乾いた音も挟まれていた。


 僕はほふく前進でガレットの元まで這いずっていく。


「たぶんエントランスの吹き抜けからだから1階だね。これなら多少の音も誤魔化せるし、ヘアサロン側に行ってみよう」


「うん……たまにハンドガンも使われてるけど……ショットガンは狼さんたち持ってなかったからあの人たちじゃなさそう……隠してた可能性もあるけど」


 吹き抜け側に近寄らないよう、壁際を移動する。

 ヘアサロンは一部曇りガラスがあるものの、ほぼガラス張りで内部が見える作りだ。

 よって、ここから見る限りではいないように思えた。


 見落としがないよう、中にも入るがやはりいない。

 そんな思いを抱いた時だった。


「ガレット伏せろ!!」


 僕の声に反応したガレットはしゃがみ込んだ後、1人掛けソファーの影に飛び込む。

 それとほぼ同じタイミングでヘアサロンの外からガラス越しに銃弾が撃ち込まれた。


「ひひゃひゃっ!! 死ねやァーー!! カスどもがよーー!!」


 しかもハンドガンではない。

 この連射はサブマシンガンだ。

 ヘアサロンの奥の休憩室に隠していたのか、狼は口角を吊り上げながらの乱れうちだ。


 あいつ僕とガレット2人同時に傷付けたら死ぬって分かってるのか!?


 僕はヘアサロン内にある受付カウンターを盾に状況を確認する。

 外枠のガラスも、店内の鏡も余すことなく銃弾が撃ち込まれ、鋭くも煌めく欠片が宙を舞う。


 さらに獣耳少女が手榴弾を投げ入れてくる。


 ふざけるな――ッ!!


 サブマシンガンの乱射は最初から僕とガレットの分担を狙っていたのか、手榴弾は受付カウンターに跳ね返り、転がると爆風でガラス片をかき乱していく。


 こちらも受けてばかりでは死を待つばかりだ。

 その気持ちはガレットも一緒だったのか。


 ガレットが床すれすれでサブマシンガンを放ち始めると同時に、僕も狼と獣耳少女の間を狙ってハンドガンを撃つ。


 こちらが反撃を試みた途端、狼と獣耳少女はトレーニングジム方面へと走り去っていった。

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