第10話 聖女救出 後半

 私は覚悟を決めて現場へと突入していく。


「ヤッホー!A級冒険者のアクゼちゃんだよ。あれれ〜おかしいな〜どうしてこんなところ冒険者パーティーがいるのかな?」

「なっなんだお前は!?」


 そこには明らかに傷が少ない冒険者パーティーが休息をとっていた。

 最初に私に気づいた重戦士の体がゴツい冒険者が立ち上がって詰め寄ってくる。


「私?私はアクゼちゃんだって名乗ったじゃんちゃんと聞いとけよ。難聴か?あっ、それならごめん」

「難聴じゃねぇ!そういう意味じゃなくて、なんの用だ?」

「何の用?何の用って、もちろん聖女様の救出に来たんじゃん」

「なっ!こんなにも早く来れるはずが」

「はぁ?来てますけど?これないって他の冒険者を舐めてるの?」


 私が煽るような物言いで詰め寄れば「ぐっ」と言葉を詰まらせる。


「とっ、とにかく助けに来てくれたのはありがたいが、見ての通り無事に逃げ延びて今から脱出をするところなんだ」

「へぇー、ホー、うんうん。無事に逃げ延びたんだ。その割に誰も傷ついていないように見えるけど? 本当にモンスターパニックなんて起きたのかな? ここに来るまでそんな痕跡はどこにもなかったけど」

「もっ、もちろんだろ。この先で起きて、俺たちが倒したからもう安全なんだ」


 吃りながらも、誇らしげに語る重戦士に私は視線を他の冒険者に向ける。

 彼らは私と関わりを持たないように顔を背けて、一人だけ視線を背けるのが遅れた女性がいた。


「へぇーあなたが聖女様だよね?生聖女様。サインもらってもいいのかな?」

「えっ、あっいえ」

「おいおい、聖女に会えて嬉しいのはわかるけど。やめろ」

「えぇ〜ケチだな」

「わっ、私は別に」


 清楚で男たちが守ってあげたくなるような聖女様は、女性から見ても綺麗で可愛い。


「マジで?嬉しい。やっぱり芸能人の人みたいに綺麗だし優しいね。さすが聖女様。さす聖だね」


 私が差し出した。紙にサインしてくれる聖女様。

 満足した私はメガネ君を呼ぶ。


「皆さ〜ん。ご覧の通り聖女様は無事ですよ〜。良かったですね。私も聖女のファンとして大急ぎで救出に来て良かったです!ウルウル」


 嘘泣きを視聴者に向けてアピールした私はカメラを持って彼ら一人一人の装備を撮影していく。


「さすがは高ランク冒険者パーティーですね。装備が凄く立派ですよ〜」


 コメント欄に、聖女の無事を喜ぶ声。

 高ランク冒険者の装備を見て興奮する声が書き込まれる。


「おい!お前ライブ配信しているのか?」

「そだよ?何?何か問題ある?いや〜それにしても聖女様一行が無事で本当に良かったよ。私は気が気じゃなくて、心配で夜しか眠れないって思ってたんだ」

「配信を止めろ!」

「はっ?なんで?今から、モンスターパニックの現場も撮影して、視聴者を集めいなといけないんだけど。邪魔しないでくれる? 聖女様が無事でわかっただけでもほら見て」


 そう言って私が見せた視聴者欄は、100万人を超えていた。

 私の配信史上一番の視聴者数。

 聖女様の名前と、攻略スピードにSNSでバズりにバズった。


「なっ!100万」

「邪魔しないでくれるかな?これだけの人たちが真実を知りたくて待ってるんだから。聖女様がいかに大変な戦いを繰り広げて、生還されたのか皆知りたいんだよ」

「やっ、やめろ」

「はっ?」

「だから、やめろと言っている」

「なんで? むしろ聖女様たちだって、自分たちが大変だったことがわかったほうがいいじゃん。100万人が見てくれるんだよ。すっごい聖女様が人気になるよ」


 私からカメラを奪おうと重戦士。

 だけど、ノロマな彼では私を捕まえることなどできない。


「え〜なんでカメラを取ろうとするの?何か不味かった?」

「うっ、うるさい。いいから配信を止めろ!」

「うるさいのは、あんたでしょ。もういいや。聖女様の無事は見たから、モンスターパニックを見てくるね。それじゃ」


 その場から離れようとすると、冒険者たちが一斉に立ち上がった。


「さすがにそれは見過ごせない」

「今すぐ配信を止めろ」


 屈強な冒険者たちが私の前を塞ごうと動き出す。


 それよりも早く私は駆け出した。


 全員を相手にするほど馬鹿じゃない。

 目的の物が見れたなら、別に配信などすぐに止めてやる。


「待て!」

「とまれ!」


 背後から声が聞こえてくるけど、誰が止まるもんですか。


 私はダンジョンの広い空間に出る。


「あれれ〜モンスターパニックが起きたなら、この辺だと思ったんだけど。痕跡が何もないねぇ〜この先にあるのは、下の階に降りる階段しかないんだけど。おかしいなぁ〜」


 私は追いかけてきた冒険者にカメラを向ける。


「どういうこと?まさか」

「ちっ、違うぞ。別に聖女の名前を高めるために嘘をついていると思っているんだろうが、本当にモンスターパニックが起きて俺たちが撃退したんだ。映像だって残っている」


 モンスターが現れて、音声だけが残った壊れたカメラを持ち上げる。

 重戦士に私はうんうんと頷いてあげる。


「そうか、もう吸収されてしまったんだね。それなら仕方ない。ご無事で何よりでした」

「あっ、ああ。わかってくれたならいい」


 重戦士は私がすんなりと認めたことに肩透かしを食らったように、冷や汗を流している。


「それじゃ。撮りたいものも撮れたし帰ります。聖女様も無事で良かったです」

「えっ、ええ。ありがとうございます」

「それじゃ!」


 私はメガネ君を連れて一目散に走り去った。

 別に彼らを問い詰めてもいいことなどない。

 目的は達したのだから。

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