第3話 ダンジョンライブ配信 

「アクゼ信者こと、アゼ見のみんな〜、元気〜? 今日はダンジョンライブ配信だよ。私が冒険者のAランクだって信じないクソどもがいるらしいからさ。アンチどもを黙らせるために、これから証拠動画を撮っていきます」


 俺は冒険者をしている。

 これでもCランク冒険者としてそこそこの稼ぎのある冒険者だ。

 そんな俺が誇りに思う冒険者という仕事を批判している配信者がいると聞いて、動画を見にきた。


 丁度、ダンジョン攻略動画をライブ配信で行うと聞いて、どんな攻略動画をするのか見てやろうと興味が湧いた。

 動画に映る女性は口こそ悪いが、冒険者衣装は様になっていて、美しいと思ってしまう。


 最近、冒険者をしているやつの中で動画配信をしているやつが増えた。

 そいうやつは大抵マナーが悪い。色々と面倒ごとを起こしやがる。

 映えるからと、人の獲物を横取りしたり、剥ぎ取り動画を撮ると言って、雑魚の魔物を乱獲したりするのだ。

 いくら魔物は魔石を取るとダンジョンに吸収されるからと言っても、横取りや乱獲はマナーが悪い。


「ああ、そうだ。これは私の決まり文句だから先に言っておくね。私は遠慮とかしないから、聞きたくないならどっか言ってね。それでもいいなら残って聞けば。あっ、あとキモい奴は即ブロックするから。ここでは私が神。わかった?」


 なっ、なんて傲慢な女だ! 

 ちょっと顔が可愛いからって、なんでも許されると思うなよ。

 アクゼだか、なんだか知らないが、冒険者をコケにしたことを思い知らせ

てやる。マナー違反があればコメントに書き込んでやるからな。


「ええっと、なになに。冒険者ということですが、武器は何を使っていますか?私って汚れるの嫌いじゃん?」


 しらねぇよ! 誰だって汚れるのは嫌だったツウの! それにしてもここはどこのダンジョンだ? 森の綺麗な場所で、撮影も一人でしているのか?


「剣とかって血が出るし。槍とか斧は重いしさ。かといって弓は当たるか分からないじゃん。そういうのかったるいんだよね。だから、拳。もちろん手とかに、傷をつけたくないから、グローブはしてるよ? しないと爪とかボロボロになるのも嫌だからね。冒険者ギルドで見つけてこれだって思ったの」


 なっ! 超合金メタルクローだと! 絶対防御と最大攻撃力を誇る高級ナックル武器じゃねぇか! あれだけで中古の家が買えたような。


「可愛いっしょ。猫の爪みたい。これでも引っ掻くのは絶対しないけどね。血が飛ぶとか嫌だし。これで殴ると手も痛くなくて最高なんだよ。みんな買った方がいいよ。爪はね、クルッと回して腕の方にしておけば、防具に早変わり! 凄くない?」


 いやいや、そんな使い方するやつ普通いねぇよ! 

 その爪の素材。何でできていると思ってんだよ。

 ドラゴンの爪だぞ! S級の冒険者が倒した特注品だっつうの。


「えっと、ここのダンジョンはオークが出るから、それから倒していくね」


 ちょっと待て! 


 オークってB級の魔物じゃねぇか! 

 それも群れで行動するから、いくらA級でもソロで戦う相手じゃねぇよ。


「こいつってさ、弱いのに結構いい値段で売れるんだよね。知ってた? オーク肉って、最近高級肉として市場にも出回ってるんだって。えっ? 食べたことない? 高いから? いや、食べんくていいって、だってあれだよ?」


 映像にオークが三頭現れる。ありえない! B級の魔物が三匹も。

 C級冒険者である俺は見たこともない景色だ。

 一頭でも出会ったらパーティーが全滅を覚悟する相手だぞ。

 そんなの狩れるはずがない!


「それじゃ、オークの倒し方を説明するね。オークは脂肪が厚いから、お腹とか腕を殴っても全然効かないんだよね。剣とか持ってれば簡単に倒せるんだろうけど。拳で倒す時は、近づいて喉にドン!って。ほら、喉が潰れて一撃で倒せるっしょ。血も出ないから楽勝でした」


 はっ? オークを一撃? いやいやいや! どんだけの攻撃力高いんだよ! 喉だって脂肪に包まれて分厚いだろ! B級のオークを一撃で倒せるなんて聞いたことないぞ!

 しかも、他のオークたちの攻撃を避けながら近づくのがまず無理だ。

 この女、ビビらないのかよ。

 見た目は女子高生ぐらいにしか見えないのに、どうしてこんなに勇敢なんだ。


「う〜ん。今のだけだと脳筋ぽい? マジで? う〜ん、じゃあね。オークって顔はブタなんだけど。体は人間とあまり変わらないの。延髄とか、小脳はわかるかな?」


 うん? 何をする気だ? 残ったオーク二体の背後に回って首元に手刀を落としただと? おいおい、漫画じゃないんだぞ。そんなことで倒せるはずが!!!


「首の根本から後頭部にかけて、体の運動機能を司る器官があるから、そこに爪を一本突き刺すと血も出ないで体の自由が奪えるよ」


 手刀かと思えば、一本だけ爪を戻していたのか、それで首筋に倒してって。そんなことできるわけねぇだろうが! オークの後ろをとれるだけで十分に凄いぞ!


「本当は喉パンが一番手っ取り早いんだよ。だから、好きな方で倒してね。オークの簡単倒し方でした。でもね、豚ってストレスかかると肉の味が変わるっていうじゃん? 楽に殺してあげると美味しいオーク肉が手に入るからね。一撃で確実に倒してあげてね」


 ウィンクは可愛いのに、やっていることとのギャップがエグいっ!


「それじゃ次は、オークの解体ショーをして行きます」


 当たり前のようにして始まったオーク解体ショー。

 マグロの解体ショーは、心躍るのに、そこからの映像は、18禁のモザイクが多様されるほど残酷な描写が繰り広げられた。

 汚れるのが嫌だと言いながら、カッパを取り出して、真っ赤に染まっていく。

 俺は何度吐き気を感じたのかわからない。それでも後学のために動画を見続けた。


 解体の技術は完璧だった。マナー違反など微塵も感じられない。

 まるで料理をするように、オークを綺麗に解体して並べていく。


「はい。以上がオークの解体方法でした。正しい手順だから覚えておいた方がいいよ」


 綺麗に肉と骨に分けられたオークが並べられる。

 俺は自分が冒険者であることが恥ずかしい。

 レベルが違いすぎる。


「えっ? もう冒険者と信じたから勘弁して? プクク、この程度でキモがってて冒険者の私をバカにしたの? マジでウケる。人を馬鹿にするならさ、経験してからにしてよ。それもやっただけじゃダメだよ。ある程度極めて理解してからじゃないと馬鹿にすんなよって話。誰でも極められない? なら、馬鹿にすんなよ。自分ができないくせいに人のことをバカにするってどういうこと? 顔も見せないくせに、言葉だけでも情けないことすんなよ。自分の存在をキモいって言っているようなもんなんだよ」


 俺は自分が恥ずかしい。

 自分では一端の冒険者としてやってきたつもりだった。

 だけど、冒険者しても中途半端な実力しかなくて、彼女を批判してやろうと面白半分で配信を見た。

 せめてもの罪滅ぼしで、フォローボタンといいねボタンを押していた。

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