第41話 ユーザリア帝国との戦い①

(王都バラン南側 セイン平原 )


 セイン平原は、王都バランの南に位置する広大な平野であり、草花が靡く豊かな土地である。日頃は、フーキなどの山菜が生息しており、その収穫に熱心な人々も訪れる。この地は、人々にとって豊穣な恵みを与え、生命の息吹が強く感じられる神秘的な場所である。さらに、セイン平原には、自然が織り成す幾多の美しい景観が広がっており、心を癒す様相を呈している。


 数え切れないほどの草花が咲き誇り、気高き山並みが見下ろす中、戦の準備が整うセイン平原には、既に2万人を超える王国の兵士たちが集結していた。彼らは、敵の主力をこの大地で迎え撃つ覚悟を決めていた。王都バランや王城は、ここから目と鼻の先にある。この平原が突破されれば、極めて敗色が濃厚となるだろう。しかし、勝利を確信する彼らの中にも、死という冷たい現実が常に立ちはだかり、戦場に挑む者たちの胸を焦がしていた…。


(セイン平原 アルスガルド王国側 本陣)


 私とジュリアは、リッテルバウム侯爵の招待に応じて、アルスガルド王国の本陣に足を運んだ。そこでは、軍の幹部や貴族達が集まり、作戦会議を熱心に行っていた。私達が現れると、リッテルバウム侯爵はにこやかに微笑み、私達を紹介し始めた。

 

「ご紹介いたします。私が独立軍として参加を依頼したのが、このヒビキ君です。また、従者のジュリア君も同行しております。」


「初めまして。この度は侯爵様より戦のお手伝いするため、参上したヒビキと従者のジュリアです。どうぞよろしくお願いいたします。」


「こんな青二才が独立軍だと?」「冗談じゃない。あんな小僧に軍を任せられるか。」「一体何者なんだ?」「ただですら、こちらの軍は数で劣勢と言うのに…。」「平民風情が。」


 当然ながら、軍の幹部や貴族達は、俺の独立軍について不信感を抱いているようである。


「諸君、お静かに願う。言いたいことは承知しているが、この世には常識では理解できない不思議な現象が多数存在することを思い出すべきだ。そして、このヒビキ君の才能もまた同様である。彼は、この前の悪魔の騒ぎで我が娘と国民を救ってくれた英雄だ。悪魔すら滅ぼせる彼の能力ならば、必ずや侵略者を打ち倒してくれると確信している。」


「おぉ、あの悪魔を倒したのは彼か!」「それは、心強い。」「あんな青二才が悪魔だと!?」「侯爵様が言うのであれば…。」「しかし、我々の兵を彼が率いるのか?」「所詮は平民だろうが。」


「ヒビキ君は、彼独自の戦力を保有している。陛下の兵は、一兵たりとも使用しないつもりである。」


「軍の兵を使わないだって?」「それで戦える筈がない。」「そうだ。相手は3万もの精強な兵士だ。兵なしでは勝負にもならない。」


「やはり、言葉でいくら言ってもなかなか理解は得られないようだね。どうかね?ヒビキ君。君の能力の一端を彼らに披露して貰えるかね?」


「わ、わかりました。」


「では、この中で一番の力自慢はいるかな?」


「それなら儂しかおらんわ!」


「ほう!ダスティン伯爵か。確かに彼を上回る逸材はいなそうだ。よし、ダスティン伯爵に力比べをお願いしよう。」


 スマホアプリの鑑定でこっそりダスティン伯爵を調べる。


名前 ダスティン

年齢 39歳

性別 男性

種族 狼人族

役職 軍副司令

ジョブ 戦士 ( R )

レベル 38

HP 231

MP 65

AT 184

MAT 121

DEF 141

MDEF 124

DEX 121

INT 113

AGI 141

スキル 能力向上

説明 アルスガルド王国の軍副司令で伯爵の爵位を持つ貴族。武術を愛し、武術で決する性格。


(確かになかなか強そうだ。では、こちらは…。)


「北条 響が命ずる!戦姫カレラ。前へ!」


「おう!」


 俺の掛け声に反応して、カレラがスマホ画面に表れる。俺はカレラの存在を確認して指示を与える。

 

「顕現せよ!!」


 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からカレラの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、カレラの形が浮かび上がっていった。


「団長来たぜ!あん時のオッサンもいるな。」


「君は…カレラ君か。やあ。あの時は世話になったね。」


「いいってことよ!」


「おい、見ろよ!」「強そうな女が現れたぞ!」「どうやって?召喚なのでは?」「あの小僧…只者じゃないな。」「平民のくせに…。」


 カレラの出現により、驚きが生じた。俺の奇妙な能力や、カレラの存在は、周囲の人々に動揺を引き起こした様であった。


「では、ダスティン伯爵とカレラ君。2人で力比べをして貰う。これによってヒビキ君の能力の証明とさせて貰うよ。皆さんもいいね?」


 今度は、誰一人反論する者は現れ無かった。


 この世界で言う力比べと言うのは、前世で言うアームレスリングを指す。両者が腕を組み、相手の手の甲をテーブルに付けた方が勝者となるルールである。

 

「娘!名は何と言う?」


「俺は、カレラだ。」


「そうか。そなたなら楽しめそうだ。儂はダスティンだ。」


 対戦者二人が対面してテーブルに向かい、準備を整える。一方で、周囲には興味津々の人たちが群がり、彼らを囲むように見物していた。


 両者は不敵に微笑み、互いに絶対的な自信をにじませている。彼らの態度を見るだけで、会場の気温はまるで数度上昇したかのように感じられる。


「開始!」


―――― to be continued ――

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