第25話 イセ村の悲劇 (前編)

 遠征4日目。バハールを出発し、ようやく我々はナバラム聖王国に入国した。国境の関所では、アルマさんのお陰で特に問題なく通過することができた。


関所から進んだ場所には、街道が3つに分かれる地点が現れた。進行方向右側のルートが北街道、中央が中央道、そして左側が南街道である。


アルマさんからの情報によると、北街道は盗賊団の襲撃の危険が高いとのことで、我々は敢えて安全を重視して南街道を進むことを決断した。


「やっぱり、こっちを通って正解だったろ?」


 アインさんは、最も安全なルートを取ることで、機嫌よく余裕を見せていた。この周辺は広大な平野が広がり、見晴らしも良好だ。仮に盗賊団に出くわすようなことがあったとしても、早急に気づくことができるであろう。


 シーフのリセさんは、俊敏な身軽さと鋭い目を活かして、時折馬車の天蓋によじ登り、周囲の状況を確認していた。


「あ!あれ?何かおかしいかも!」


「リセ!どうした?」


「遠くの集落から火の手が上がっているかも?」


「どうする?アルマさん。」


「我々の利益を優先するなら、知らん顔して先を急ぐべきだけど、流石にそんな非情な人間にはなりたくないわ。行ってみましょう。」


 アルマさんは、馬に軽くムチを打ち、ペースを上げた。


――――


(ナバラム聖王国 南東部 イセ村)


「おい。やばくないか?」


「村のあちこちに火の手が…。」


「ねぇ、見て!あれは?」


「不味いわ!ベンジャルよ!」


「何故ここに!?」


 我々は、ようやく辿り着いた村を目の当たりにした。焼け跡と化した家々、命を落とした村人たちの亡骸が散らばる街路や畑。その一方で、あの巨大な家の周囲には盗賊たちが群がっている。我々の存在に気づいていることは確実だろう。おそらく、彼らは村長の邸宅を占拠しているのだろう。


「北条 響が命ずる!発動せよ!探索!」


 俺は、直ぐさま探索アプリを使用する。号令とともにスマホアプリが立ち上がり、検索画面が表れた。俺は、"村の生存者"と入力して検索を実行した。


 マップが展開されて、情報が表示された。生存者は、一名のみだ。残念ならが一人以外は全員殺害されたようである。


「生存者は、一名のみです。恐らくは盗賊に捕らわれているかと…。」


「酷い…。」「アルマさん、どうする?もう、皆殺しされているなら撤退をおすすめするぜ!俺達の敵う相手じゃねぇ。」


「そう…ね。では、撤…」


「俺がやります!皆さんは、退避していて下さい。」


「ヒビキ君!?大丈夫なの?」


「まあ、俺は弱々ですけど、うちの子達は、みんな強いですから。」


「わかったわ。私達は、邪魔にならない場所まで引くわね?必ず戻ってきてね。ヒビキ君!」


「任せて下さい!」


 俺は、大して逞しくもない腕を披露して笑ってみせた。


「ヒビキよ!死ぬなよ!」「待ってるからね!」「やっちまえ!」「ご飯楽しみにしてる~。」「おい!リセこんな時に。」「こんな時だからよ。ヒビキ、待ってるよ。」


 (俺にも自分を気遣ってくれる人がいたんだな。)


 そんな風に思える人がいることが幸運だ。俺は正直なところ恐怖を感じているが、何故か自分自身がそれをやらねばならないという気がしてきた。今は、ただその直感を信じ、行動に移すことだ。


アルマさんと蒼天の翼は、馬車で一定の距離を置いて退避した。


「さて…と。ナビィ。いるか?」


「団長、いるよ。」


「現状は、30対1で人質がいる。オマケに手練の魔法使いもいるそうだ。この局面ならどの戦姫を使うのがいい?」


「対魔法使いならエクサーシャ一択だけどね。今回は、生存者を救いたいんでしょ?それならこの子かな?サキ。彼女なら1対複数でも大立ち回りできるし、素早さも高いから、生存者確保するのにも向いているかな?」


「サキか…。わかった。それで行こう。」


「北条 響が命ずる!戦姫サキ。前へ!」


「はい!」


 俺の掛け声に反応して、サキがスマホ画面に表れる。俺はサキの存在を確認して指示を与える。

 

「顕現せよ!!」


 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からサキの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、サキの形が浮かび上がっていった。


「参上したでござる!」

 

名前 サキ

年齢 19歳

種族 人間族

ランク R ( レア )

ジョブ サムライ

レベル 125 ( MAX )

HP 750

MP 510

AT 735

MAT 525

DEF 620

MDEF 640

DEX 705

INT 650

AGI 710

スキル 分身斬り

説明 生粋のサムライ。強く優しい性格。人情味に溢れている。団長の為に刀を振り、団長の為に死ぬと決めている。


 サキは黒髪をポニーテールにまとめ、侍を思わせる着物に身を包んでいた。ゲームとは違い、どのキャラクターも人間としての容姿を備えていることに改めて気づかされた。その美しさは際立ち、和風な魅力に溢れていた。


「良くきたな。サキ。状況は、情報共有の通りだ。敵を無力化し、生存者を救出せよ!」


「承知したででごさる。」


「では、参る!」

 

―――― to be continued ――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る