褒められるということ

数分前…

帝国総本部のロビーで黒髪に深い青色の瞳を持つ青年、ガルと、黒髪で眼鏡をかけたお下げの女性、シルビアが話していた時、帝国中心街の国営図書館にテロが入った事を知らせる高いブザーが本部内に鳴り響いた。

「あわわ!た、大変ですぅ!と、図書館にテロがぁ!大変ですぅ!!大変ですぅ!!」

慌ただしくする周りとは違ってガルは静かに立ち上がった。

「あ、アレ?ガル君?!ど、とこ行くんですか?!今は作戦会議しないと…」

引き止めるシルビアにガルが持ってきたアスカのノートを見せながら

「このノートを書いたやつが居るかもしれない。他の帝国の奴に見られる前に探してくる」

「…ほぉ……その方…異常者なのですか?」

「嗚呼」

即答してロビーの出口に向かう後でシルビアが

「ガル君〜!その方とお待ちしています!!」

と声を掛けた。何も答えないガルの背中を見送ってシルビアはふふ…と、好きな人と喋れた余韻に浸る。

(はっ!仕事しなくちゃ!)

……現在。アスカとガルは図書館にて、目の前の武装した男と向かい合っている。

武装した男は首をコテン、と傾げる。

「あっれ〜?もしや、もしやもしやのもしや、お前、ストレインレッドの期待の新人くんじゃないの〜?」

「…」

(ガル〜!!こういうのは会話で相手の情報を引き出すもんだぞ!!!頼むなら無視しないでぇー!!!)

アスカ…私はガルの背中を掴んであっちに聞こえない様に言う。

「ねぇ〜無視しないでよぉ〜ガル君なんでしょ〜。女の子颯爽と助けてかっこいいねぇ〜妬けちゃうなぁ゙〜」

と首をぐるりと回して、パキッと、鳴らす。

この仕草に、私は、“見覚えがあった。”知っている。私はこの男を知っている。

(そしたら、仲間として見られるんじゃ…?)

ガルは冷静に武装した男に言う。

「お前は、プロテスだな」

ぎゃあああああああああ!!!

過去の私のバカあああああああああああああああ!!!習いたての単語をいれるなぁぁああ!

中学二年生の社会で習う歴史のかっこいい名前ランキングに必ず上がるであろう厨二病ネーム、プロテスタント(抗議するもの)。それを私はただかっこいいという理由で、技名っぽいっていう理由で敵組織の名前にした。その分かりやすい黒歴史に、今更こんなに悶えることになるとは、本当に思わなかった。

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!割とガチの黒歴史だから尚更恥ずかしいっ!!!!)

武装した男は両手を広げて高らかに言った。

「嗚呼…!!そうだよ…そうだよ!俺はプロテスだ!!」

ふぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!やめろっ!本当にやめろっ!

「プロテス、お前達はなぜプロテスと名乗り、均衡を脅かす?プロテス!!」

わざと?!ガル、お前わざとかっ?!わざと連呼してるのか?!最後に名前言う必要あったか?!なぁ!!!

「俺達はお前ら帝国に抗議するっ!」

やめろって!!!!!!!意味を言うな!!!ダサいからっ!!!覚えたての単語を使いたかったあの頃を思い出させるな!!!!!

「ところでさぁ…ガル君〜。そこの女の子、なんでそんなに悶えてるの?」

「さぁ?何でだ?」

黒歴史をえぐり出されてんだよ!!!……なんて、言えるわけないしッッッ!

「…………な、なんでもない…」

…いっそ殺して……お願い…

ガルは武装した男に言う。

「おい、お前の目的はなんだ。なぜこの図書館を狙った」

「ん?それで言うわけないじゃん〜でも、ストレインレッドが来たってことはある程度分かってるわけでしょ?」

「…」

ガルのタンザナイトの双眼は深く、冷たく男を睨みつける。

「おおっ、怖い。やっぱり予想はついてんじゃん〜。さしずめ、その子が番人かな?ねぇ、お嬢ちゃん、君の異常は何?教えてくれたらお兄さん嬉しいなぁ〜」

武装した男は持っているハンドガンをペン回の様に華麗に持ち変えると、私を躊躇いなく撃った。

右肩を掠めた弾丸は壁に埋め込まれ、石の壁に小さな穴を開けている。

痛く無い…。でも、怖い。

心臓が煩い。体が震える、足が竦む。呼吸が浅くなって、頭に酸素が回らない。怖い。

逃げなきゃ、逃げなきゃ…


『あんた何時までボーッと生きてる気?』


姉の言葉が頭の中に響く。鋭く痛い言葉は今の私を嘲笑しているようで、怖かった。

それは実に……姉らしい姿だと、私は思った。

ボーッと生きている私に…、この状況をどうにかできる事なんて出来るの…?

「チッ、弾道ずらしたなぁ?ガルくぅん」

ぐるりと首を回して骨を鳴らす。武装した男の低くく唸るようや声は、ライオンが唸っているようで…それに比べて、私は瀕死のうさぎだ。食われる事を待つしか出来ない。

(ああ…やっぱり…武装した男は……彼なんだ…何で、今なんだ。今じゃなかったら…誤魔化せるっのにっ!)

「おい、アスカ。走れるか?」

「む、り…腰抜けた…」

腰がピクリとも動かない。傷口が熱くて脈打っている感覚が私の脳内を支配する。

ガルは私の腰を掴んで、机を蹴りあげ、武装した男に蹴りつける。

「チッ!!」

男は首を鳴らして机をハンドガンで連射した。あたりは木屑と硝煙がたちこめ、静かになった。

「逃げられた…か。まぁいい。“直ぐに見つけられる”」

武装した男は静かに言った。

真っ白だった視界が暗闇になった瞬間、一メートルほど落ちた。

「ほごぎゃあ!」

いたた…くない?私は自分の下に暖かい胸板を感じて目を開けると、見慣れた服が視界を覆い尽くしていた。

「お前、もう少し静かに落ちれないのか…」

と呆れた低い声に上を見ると、ガルの顔が鼻先が着くほど近くにあった。それを理解した瞬間、顔の熱がキャパオーバーして飛び退いた先で、本棚にぶつかり、頭の上に数冊の本がクリティカルヒットで落ちてくる。

「〜〜〜〜ッ!いっっっ!」

頭の中でガルの服越しに伝わる熱とガルの家の匂いと同じ匂いが頭の中に駆け巡る。

(うぉぉお!う、生まれて初めて男子とあんな密着したぁぁぁあ!生粋の喪女である私がっ!)

「大丈夫か?」

「うん……なんか…ガルって生きてるんだね?」

「嗚呼。生きてるぞ」

ガルは部屋を見渡して、おそらく物置であることを確認して、そばにあった木の椅子に座った。

(ガルの異常で転移したのか…。でも、武装した男の異常を考えたら、ここもすぐ見つかる。ガルに男の情報言うべきか?いや、だとなぁ…絶対仲間だって思われるもん。あんな情報でわかんの絶対作者の私だけよ?いや、私も忘れかけてたキャラだけども…どうしよう…)

私はガルに本を片付けながら聞く。

「どうするの?これから…」

「さぁ?」

「ノープラン?!」

「とりあえず逃げた。アイツの目的も分からない今、やすやす返してくれるとは思えない。策を練る」

「あ、目的もわかってない感じ?」

「嗚呼」

考え込むガル。その姿を見て、私はまた、頭の中に姉の声が響いた。

『あんた何時までボーッと生きてる気?』

ずっと…聞こえる。お姉ちゃんの声が。怖い。怖い。

『いい加減やめたら?自信ないからって全部諦めんの』

ごめんなさいごめんなさい。わかってる。分かってるから言わないで…。考えるから…怒らないで。

なんで今更、頭の中にお姉ちゃんの声が響くの?今更…今更…

ガルが震える私に気づいて、背中に手を置いた。

「大丈夫か?」

「うん…。平気…」

「そうは見えないが…」

「ねぇガル…私は、私はっ!!生きてていいと思う?ガルから見て、私は何も考えてない?ボーッとしてる?上手くいかなくても頑張ってるけど…ガルから見たら何もしてない?」

「おい、いきなり…」

「答えてっ!…頑張らなきゃ、お姉ちゃんに怒られちゃう!」

「…」

黙り込んで、じっと私を見る深い青色の瞳を見て、私はハッとした。

ガルにそんな事を言ったって意味が無い。これは私の問題だ。今考えるべきはあの武装した男の事だ。

「ごめん、なんでも…」

「お前にとって姉がどういう存在かは知らない」

ガルは淡々と低い声で言う。私を見る深い青色の目は合わせてしまえば、逸らすことが出来なかった。

「だが、俺はお前が努力していると思う。悪いが、お前のノートを見た。あれは並大抵の努力でかけるものじゃない。シルビア…俺の同期もそう言っていた。だから……保証する」

ガルは私の肩をしっかり持って、ちゃんと、真正面から言う。言い逃れが出来ないほど、誤魔化せないほど真っ直ぐに。

「お前は凄い奴だ。俺はそう思う」

嗚呼。こういう感覚なのか…人に褒められるって…。初めて知った。こんなに嬉しいのか…

そして、こんなに、頑張ろうと思えるのか…。

私の肩を掴んでいるガルの手に手を置き、私もガルを見つめ返して言う。

「…、武装した男の名前はルドイド…プロテスの下っ端であり、密偵や調査を得意とする諜報員。そして、ルドイドの異常は異常の検知」

「…」

「アイツの目的は、おそらく、この図書館の地下にある、異常者のリストが狙い」

「なんでそんな事を…いや、そうか。分かった」

「ガル、他の人達はあとどれぐらいで来る?」

「他のプロテス達が暴れているから…おそらくあと十分」

「そっか…」

その間、ここに隠れていても、すぐに見つかる。

ルドイドの弱点を知っているのは私だ。きっと、私だけだ。

ガルは私の為に来てくれた。

なら、きっとそれだけで十分だ。

「ガル。私も戦う」

今なら、できる気がする。今の、私なら…

異常が使える自信があるっ!!

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