隔つ闇…24

 秀頴と縁切りをさせられた。ひどい言葉を言ったと思ってる。

その矢先、また同じ様にひどい言葉を浴びせてしまった。最悪だ。


あの時、左之さん以外に人がいないなら、もう少し普通の会話が出来たろうに…

いや、歳さんのことだから全体に目を光らせているはず…


文もダメだといっていたが、どうなのだろう。此処から秀頴が寝泊りしてる屋敷なら見つかりそうなものだが、飛脚に頼んで江戸表に出すのはどうだろうか?


そう思って飛脚を使って江戸表に文を書いてみた。

そこはバレても良いように、歳さんが読んでも良いような内容にしてみた。


数日後案の定、歳さんから呼び出された。


歳さんの部屋には他には誰もいないようで、歳さん一人だった。


「総司。これはなんの真似だ?」

「文ですね」

「わかっとる!! これのあて先は誰だ?」

「秀頴」

「罷りなり…あ! 罷りならぬと言った… 申したであろう」

「はい? お聞きしましたっけかねぇ? 副長殿」

「俺… じゃない、、私じゃなくて山南、、、いや山南君から聞いたであろう?」

「はい。総長からは聞き及んでります」

「では、何故、何故に文を出す」

「何故って、伝えたいことがあるからでございますよ、新選組副長殿」

「あぁもう! 総司!!」

「はい。ですから何でございますか?土方副長」

「その呼び方をするな」

「では何とお呼びすればよろしゅうございますか? 新選組副長土方様」

「やめろ! いつも通りにしゃべれ!!」

「お偉い新選組の幹部の方にそんなに気安く話しかける訳には参りませんから」

「宗次郎!! そいつぁ嫌がらせか?」

「はい!」


歳さんの顔色がみるみる変わっていく。だんだん怒りの表情に変わる歳さんを冷静に見てるのは面白い。


「いいか?! この文は内容を検閲の上没収。場合によっては隊内に張り出す」

「どうぞ。えっ?!張り出す?!皆が見てもいいですか?」

「張り出しゃ皆が見るだろう。赤っ恥かくのはお前だ、ろ、、う…」

歳さんは文に目をやりながら驚きを隠せなかった。


「なんだって? 今回の一件は京に住む幕臣達の陰謀と我が新選組お歴々が権力に負けただけで、東国の人達は預かり知らぬこと。秀頴に切腹のご沙汰はないと判った。俺の方は切腹させられる可能性はあるが、俺達の縁切りもなかったことに出来ると判明…?!」


「宗次郎!!」

「今は元服致しまして総司と申します」

「あぁわかってらぁな! だから、この文の内容は…」

「張り出して貰ってかまやしませんよ」

「なんだと? 総司…お前… 判っててやりやがったな!」

「さぁてね。何のことでございましょう」

「この内容は本当のことなのか?」

「副長なら真偽の程なぞ、とっくの昔にご存知でしょう」

「だったらどうする?」

「返してくれ!!」

「何をだ?!」

「伊庭を!! 秀頴を返してくれ!!」

「無理だ」

「あの一件が京の連中が画策したことでも、鵜呑みにするしかないかよ?!」

「上からのお達しには逆らえない」

「俺が無抵抗の浪士を斬ったと濡れ衣を着せられてもかい?」

「そうだ」

「判ってても、見捨てるんだ。酷い話だよね。お陰でこっちゃ暴言吐いてまで秀頴と縁を切るしかことになったってのによぉ。最悪だよ」

「俺は縁を切れと言ってない。距離をおけと言っただけだ」

「副長の大事な局長様は、縁を切れといわれたよ」

「それは男女の…」

「そういう仲だったらどうすんだよ。俺にとって唯一無二の相手だったらどうするんだよ。そんな人に酷い言葉を言わなきゃならなかった俺の身にもなってくれよ」

「酷い言葉を言って距離を置けと指示した覚えはない。その言葉はお前が選んでお前のこの口から伊庭に言ったことだろう?それはお前の判断であって俺達の知ったことではない、全てはお前の責任じゃないのか?」

「そうかい、そうかい。言った俺が悪くて言わせた奴にはお咎めなしかよ。ひでぇ話しだな!! 何でもかんでも俺が悪けりゃいいんだろ判ったよ!!」


バシッ!!


歳さんから平手が飛んできた。


「ふん、散々コケにしてさ。気は済んだかい? 副長さんよぉ?」

襟をつかむ歳さんを睨んだまま視線をはずさずにいた。


突然、襖が開いて山南さんが割って入った。


「総司!! 土方君も、頭を冷やしなさい。総司はもういいから部屋に下がりなさい!!」


山南さんの言葉に部屋に下がった。あの文を見た時の歳さんとの反応が見たかった。

今になって状況が見えてきた歳さんは、あれは在京の者が仕組んだものと判った様だ。だからと言って異議申し立て出来るはずもなかった。


濡れ衣はさておき、縁切りだけでも、めでたくお蔵入りとはいかないらしい。

そして俺の頭の中では、秀頴を傷つける酷い言葉を選んだのは俺なのだと…

上から強要されたとはいえ、あの言葉を選んだのは俺なのだと、

秀頴を傷つけたのは俺だと今更ながらに痛感した。殊更に自分が嫌になった。

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