隔つ闇…17

京の幕臣達がいなくなって、納得のいかない話を頭の中で確認していた。


「総司! 総司!!」


副長が呼んでることすら耳に伝わりはしなかった。呼ばれてる方を向くと渋い顔の局長と、困った顔の副長と眉間に皺をよせた総長がいた。


局長が確認するようにいう。


「判ったな。今後、伊庭君との交流は相成らぬ。京でも江戸でも同じだ。一緒にいるところが発覚した腹を切ってもらう」

「俺だけですか?」

「さっきの話の通り、伊庭君もだ」


「さっきの無抵抗の人を斬り殺したと思っているんですか?!」

「新選組の一番隊ともなれば、見境無く憂さ晴らしがしたくなる時もあるだろう?」

「ありません!! だいたい、うちの流派はそういう剣ではないことは局長が一番ご存知のはず!!」

「だが、この京の都で宗旨替えすることもある」


(宗旨替えしたのは近藤さんの方だろう、と思っても今のあの人にその言葉は心に届かない)


納得のいかない俺の様子を見兼ねた山南さんが口を開いた。


「なぁ総司。いくらこちらが正しくても、上からああ言われて違いますとは言えまい? 下手に反抗するよりも長いものには巻かれてしまう方が穏便にすませられることもある」


反論したい俺の気持ちを察した様に、今度は副長が口を開いた。


「これについては、あちらに合わせるしかない。だから伊庭とはもう会うな。お前も非番を変わって貰ったり他の隊に迷惑をかけてることは承知してるのか?」


「それは、各々の隊長と話をして…」


「それはお前の我儘だろう? 迷惑だ、二度と会うな。会えば伊庭が腹を切ることになるんだ。引くしかないだろう」


「歳さんも俺が無抵抗の奴を斬ったと思ってるのかよ?」


歳さんはだんまりをきめこんだ。それを見て局長が引導を渡す。


「それはどうでもいいことだ。そんなことよりお前は新選組の人間で、旗本にはなれない。身分の差は変わらない。一人出し抜いて出世など罷りならぬ」


「出世? そんなことを望むのなら江戸にもっと利用できる人が…」


「ほぅやっぱり一人出世を考えていたのか!」


「違う! そんなことを考えているなら京に来なくても江戸で出来たよ!」


「ふっ…負け惜しみを言いよって。」


「近藤さん!!」


「局長だ!!」


何を言っても無駄だった。判ったことは2つ。


言われもない濡れ衣を着せられたこと。

秀頴と二度と会えなということ。


秀頴と会えない? 会えない…? 会えないだと?

それはどういう意味だ。近藤さん達は秀頴と俺がただの友人だと思ってるから、距離をおけばいいと簡単に思っているのだろう。

そうじゃない!!


秀頴は俺にとって唯一無二の相手で、祝言をあげた俺の片割れ我が身同然だ。



「局長。もし、、もし伊庭と俺がただならぬ関係だったとしても別れろといいますか?」

「ただならぬ関係?」

「はい」

「男同士でか?」

「はい」

「それでも同じだ。男女のそれと同じというなら縁を切れ!!」

「でも!!」


「うるさい!!もういいから下がれ!! 沖田君、身分を自覚しなさい!!」


理解して貰えるとは思ってなかった。それでも少しは聞く耳くらいあるかと思った。

せめて無抵抗の奴を斬っていないと、信じていると言って欲しかった。

そう言葉だけでもいい、信じていると言って欲しかった。


これまで試衛館で一緒に過ごしてきた、近藤さんも歳さんもいなくなっていた。

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