都にて…3

京に来て清河は妙なことを言い出し、多くの人達は江戸に戻った。

ただの物見遊山なら、それでも良かったかもしれない。

京を見てみたい気持ちだけなら満足したかもしれない。


でも、俺はそれでは帰れなかった。たぶん試衛館の人達も

残留した芹沢さん達も同じだろうと思う。


 ここに残ってから、芹沢さん達との関わりが増えた。

宿場の焚き火の時は「先生」と呼んでいたが、

馴れるに従って親しい呼び方に変わってきた。

芹沢さんは剛毅な人で、呼び方には拘らなかった。


反対に勇先生は、あちこちの重鎮と謁見する機会が増え

京での居場所が確立していくに従って、武士になろうとしていた。

立ち居振る舞いや周りに対する態度も

少しずつ変わっている様に感じた。


 そういう俺も京に来て、人を斬るようになった。

それも段々と頻繁になってきている。


京の治安の為と思えば、それは大切なお役目だから当然だと思う。

江戸の頃は覚悟はあっても日常ではなかった。

花街の輪番で剣を抜いても、それは警告でしかなく

実際に斬ることは避け、斬っても着物や髷までで充分だった。


 不逞浪士を斬るのであれば、納得もできる。

昨日は仲間と思った者の裏切り。上下の権力争い。

あまり歓迎できない出来事の数々。

京に馴れるに従って、よく知る人を斬らねばならないことも増えてきた。


ねぇ 秀穎。これもお役目のうちだよね?

俺の手は汚れてはいないだろうか?

秀穎に触れても赦される手であるだろうか?


江戸でも多々事件はあった。

でも、京ほど頻繁に事件があるわけではなく

この都で何やら蠢いていることを感じずにはいられない。



   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★



浪士隊から新選組という新しい名を頂く。

人も増え形も整えていく必要が出来、対面を重視するようになった。


芹沢さんも深酒をすると、焚き火の時の様に荒れた一面が出始めた。

京についてしばらくは、大人しくしていたが元々の性格が

顔を出してきたのだろう。


豪放磊落な好ましい性格が酒が入ると暴れ悪評が立つ。

その悪評が苛立ちを呼び、さらに暴れる。


その姿を勇先生は、隙をうかがう様に静観していた。


この頃の勇先生は、試衛館からの仲間にも「近藤さん」とは

言わせなくなっていた。もちろん俺にも「近藤先生」と呼ぶ様に言った。

旧知の仲の歳さんにさえ人前では「勇さん」ではなく「近藤先生」と

呼ばせるようになっていた。


 近藤先生が、芹沢先生一派のご乱行を諌めるのだと言い出した。

確かに目に余ることが増えた。上からのお達しもある。

近藤さん… もとい近藤先生は今までになく強気だ。


 外堀を埋める様に、芹沢先生一派の人を面子から外し

そして、その日が来た。


 綿密な計画。暗くても動ける様に部屋を確認する。

逃げることも考えて部屋の手前に文机を置く。


あとは、酔わせて屯所へ連れ戻せばいい。

芹沢先生は酔っていても手練は手練だ。

緊張感が走る。

雨に紛れて、それは闇に行われた。


翌日、明るくなって、その部屋を見渡せば

近藤先生の逸る気持ちが作らせた刀の跡が残っていた。


芹沢先生の葬儀は盛大に行われた。

大仰に悲しむ近藤先生の姿が目を引いた。


葬儀も終わり、身内だけの宴席で近藤先生は嬉しそうに言った。

これからは俺達の時代だ!! と…


同席していた、山南さん、永倉さん、左之さん、いっちゃん…

皆で顔を見合わせ、山南さんが呟いた。

「はやまったか…?」




※左之さん…原田左之助のこと

※いっちゃん…斉藤一のこと(沖田は斉藤をこう呼んでいます)

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