ブッコローしか知らない【本当に怖い】つまんないぬいぐるみの世界

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第1話

「あー、これは言ってるわ完全に言ってる、つまんないって」


 ブッコローは、ホテルの一室で動画を見返しながらため息をついていた。カクヨムのトリぬいぐるみがベッドの上で天井を虚ろに眺めている。あの時こんなことを言わなければ、プロデューサーもなんてことを言ってくれたんだと頭を振った。



****



 事の発端は、Youtubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」と、カクヨムがコラボをしてMCのR.B.ブッコローを題材にした二次創作小説コンテストが行われる告知動画内でブッコローが自分で気に入った作品を決める「ブッコロー賞」の景品をどうしようか悩んでいたことだった。


「ブッコローと合コンに行け……ダメですか? ダメ……」


「一番つまんないのはぬいぐるみの詰め合わせです」


「一番つまんないのはぬいぐるみの詰め合わせ……」


 プロデューサーの提案をオウム返しする。確かにせっかくのコンテストの景品が既存商品の詰め合わせなのは余りにもしょっぱすぎる。もっと貰って嬉しい物が欲しいとブッコローは思った。


「一番面白いのがブッコローと合コンに行ける……間取ったほうがいいすね。ぬいぐるみと合コンに行ける……」


 番組スタッフの笑い声が漏れるようなやり取りが交わされ、結局ブッコロー賞はチャンネルに出られる権利に決まった。動画の撮影は無事に終わり、数日後Youtubeにアップされ、ブッコローは出張先のホテルからカクヨムにアクセスしていた。


「いや何回見ても目がチカチカするわ本当に。情報量多すぎ」


 企画ページから概要に目を通し、再度景品の確認をする。


「ゆうせか賞は図書カードネットギフト五万円分!? スゲェな、逆にしおりにして大賞作品が読めるようにするって話はアレ副賞なんだ。ブッコロー賞は置いといて、文房具王になり損ねた女賞は安定と信頼のガラスペンとインクのセット、ザキさんのブレなさはいよいよ尊敬ものだわ。でも小説家さんは喜ぶか。書くもんな。あっ、よく見たら参加賞もある! 抽選で図書カードネットギフト五百円分が当たる、太っ腹になったなウチも」


 しみじみと画面をスクロールしていって、応募作品を読むボタンを押すと投稿作品の一覧が表示された。


「おー、もう結構投稿されてる。みんな早いな」


 ざっと投稿された作品のタイトルを流し見る。ブッコロー賞を狙う作品が多いのか、ラブコメ要素のタグ付けをされた作品が多い。ネット小説特有の無駄に長いタイトルも散見される。


「あーはいはい、言ってた通り要素ガン詰めのやつ来たな。これ読みたいかって言われると最初からネタバレになってるっていうか、全部書いちゃってるし内容読む必要が無いんじゃないかっていう……抑えが必要じゃない? とりあえず、気になるやつ適当に読んでいこうかな」


 タイトルからしてがっつりラブコメだろうと思う作品を読む。お話の中でブッコローは主人公でかわいい女の子に惚れられたり、トラックに跳ねられて異世界でイケメンに転生しておもしれー女に振り回されたり、逆に女の子になってイケメンだらけの学園に放り込まれたり、展開はなんでもありだった。


 その中でも、高校生の頃からブッコローを一途に思い続ける新人書店員の話が特にグッと来た。念願叶って有隣堂に就職したもののブッコローは会社の重役になっていて、おいそれとは会えない身分違いの恋のお話だ。


「いやぁーいいなこういう届かぬ思いみたいなの。実際に経験してみたかったわ。もうブッコロー賞この人にあげちゃおっかな!」


 人の作品にああでもないこうでもないと画面の前でツッコミを入れつつ、気になっていた作品を一通り読み終わると、ふとベッドの上に放り出したトリぬいぐるみと目が合った。景品にはならなかったが、サンプルにどうぞとカクヨムから貰っていたのだ。両翼で掴まないと持ち運べない、かなり大きいサイズをしている。


「まあ流石に無いよな、今どきぬいぐるみの詰め合わせって。売れ残りの福袋だってもうちょいイイもの入れるでしょ……。それにしてもデカいなキミ、普通に置き場困るわ」

 

 出張用のバッグに無理やり押し込め、これからどんな作品が読めるのかワクワクしながらブッコローは眠りについた。夢の中ではかわいい女の子の作家数人を連れて合コンへ行き、すごいです流石ですと褒めちぎられて有頂天になり空高く羽ばたいていた。


 翌朝。ブッコローが目を覚ますと、バッグに押し込めていたはずのトリぬいぐるみが隣で寝ていた。


「うわビビった! おっかしいな、しまったはずなんだけど……」


 驚いて飛び起きたが、ただぬいぐるみがそこにあるだけ。単なるしまい忘れだと思ったブッコローは、もう一度トリぬいぐるみをバッグの奥底にしまい、朝食を食べに部屋を出た。

 この後恐ろしいことが起きるとは知るはずもなく。

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