第2話 お荷物なやつ  sideガル

「パーティーは解散だ!」




 そんな風に言ってオレらのパーティはすぐに解散した。


 あいつだって分かっていたんだろ?はん!




 何時だってうるさく小言ばかりで、仕事もしやしねぇ奴とパーティーを組んだこと自体間違いだったんだ!








 冒険者ギルドに初めて登録した日、あいつは依頼ボードの前で一人で立っていた。


 オレがギルドに入って来たのは昼前。この時間なら、空いているはずだし、酔っているやつも少ないって聞いたんだ。


 順調に登録して、ボードの前に行こうと思ったら、オレと同じくらいの背の高さの奴がボードを見てた。


 ふうん。オレと変わんない年だな。待ち合わせでもなさそうだし。こんな時間に依頼なんて残って無いのは常識だろ?こいつこんなことも知らないのか。




 横で顔を見ても特徴のないやつだった。少し細いかな?ぐらいの印象のやつ……




「もうまともな依頼なんて残ってないぞ。明日にしたらどうだ」




 声を掛けたら振り向いた。ほっそい奴だなぁ……


 振り返って俺をみたあいつの印象なんてこんなもん。




「禄なの残ってないだろう?朝のがぜってぇいいぜ」




 帰ってきた声も小さく……




「いや……採取依頼だけするよ」




 見ると薬草なんかの依頼書を握っていた。




「はぁ?お前、草が見分けられんのか!すげえな!」




 薬草の依頼書は鑑定か知っていないと出来ないからな。




 そいつはそのままカウンターに依頼書を持っていきガードを出す。


 やっぱりな、オレとおんなじアイアンカードだ。


 カウンターの中の姉ちゃんはカードを返して何か言った。


 頷いたそいつはそのままギルドを出て行った。






 オレは講習会というギルドの勉強会に出て仕組みを教わった。


 つまりは依頼書をカウンターに持って行って、依頼通りの物を持ってくる。


 魔物は討伐部位だけでいい。もしくは有用な部位だ。角とか、蹄とか羽根とかだ。


 薬草なんかは薬事ギルドからの依頼もあるんだってさ。


 まあ、間違ったのを採ってくるとペナルティーがあるっていってたから、オレは手を出さないぜ。




 早く上のランクにあがりたい。


 そうすれば受けられる依頼も増えるはずだ。


 一人じゃ受けられる依頼もしれたもんしかないな。




 明日からは早くきて依頼書を手にいれないとな。










 まだ、夜が明けて間がないというのに、ギルドは混雑している。


 まあ、オレの受けられる依頼は最低ランクのものしかないから、もともと少ない……




 あー西の林のスライム掬いか薬草採取……ギルドの清掃?……


 冒険者なのに?




 あ!


 あいつだ!今日も採集依頼の所を見ている。あいつも一人なら誘ってみるか。二人ならパーティー一つ上のランクまで受けられるはずだ。




「なぁ、お前もひとりなのか?一緒に組んで討伐依頼の方を見てみないか?」




 細っこい体つきだなぁ。え?オレをにらんでる?




「あんた、誰?」




「あ、ああ。オレはガルっていうんだ。最近登録したばかりだから、まだ誰とも組んだことが無いんだ。なぁ、お前も一人なら一緒に組んでみないか?」




「悪い。俺は一人の方が良い。それに今日は約束がある。もういくつか依頼を受けているんだ」




「そ、そうか……今日は残念だ。次は考えてくれよな」




 早えな……もう依頼を受けているのか……もっと早く来ないとな。


 依頼表の貼りだしているボードは話をしている間にもどんどんはがされていった。




 えー……もうスライム掬いしかないのか……仕方ない、汚れるけど少しでも金とポイントを稼がないとな……








 うー昨日は酷い目にあった、スライムは西の林の池からどんどん溢れて水路を潰していた。それを掬って渇いた土の所で干乾びさせるために林の外まで網で掬うのを半日以上……


 しかもやっているのは小さい子供ばかり。見張りのじいさんから依頼書にサインを貰ったが他の奴と変わらんもの……はぁ最低だな。


 腰も腕も痛くなって疲れ切った……それ程やってもポイントは1しかつかないし、ギルドから貰える金も20Gにしかならない……


 汚れた服を洗って、水場で身体も綺麗にして……パンを買ったら無くなってしまう。


 今日は絶対スライム以外のにするぞ。もう嫌だ!






 今日は昨日より早く……おっさんら早起きだな……もうボードにたかっている……




 まあ、あの辺はどうせ受られないから関係ないけどな。


 おっ!あいつがいる!


 まだ早いから依頼書も持ってないな。




「おいっ。まだ受けてないんだろ?オレと組まねえか?」




「えっと……」




「昨日も声を掛けたろ?ガルだ!」




「ああ、確かに見た顔だ……悪いが一人がいいんだ……」




「えーつ?一人じゃ受けられんのが多いんじゃ……」




 断るとあいつはさっさと行ってしまった。


 また断られた……こっちに引っ越したばかりで知り合いが少ないのが困るよな。幼馴染らは村から出てきてない。うー……


 仕方ない。今日はギルドの掃除にするか……汚れ方はスライムよりましだろう……


 マジきつい。何度掃除してもギルドの床は綺麗にならないし。窓だって高すぎるぜ……


 便所掃除もかよ……


 結局一日中仕事して、1ポイント30Gだった…… まぁ、途中でパンを奢ってもらったから飯代は掛からなかったけどな。それにしても安い……








 今日こそ……そう思って昨日より早くギルドに来た。


 するとカウンターであいつを見つけた。


 あいつは受付じゃない職員の人と話をしていた……




「はぁ……アンナさんから言われた。あんたと組んでやれって。討伐だったら、俺は弓だから金がかかるんだ。それでもいいのか?」




「あ、ああ……」




「どれにするんだ?」




「アイアンだから……これならどうだろう?」




 オレが指さしたのは、畑にでるホーンラビの駆除依頼だった。




「そうだな。それぐらいなら……」




 それから二人でカウンターにいき依頼書と今日からパーティーを組む事を伝えた。


 ギルドカードを出して、パーティーとなった事を書き込んでもらう。


 ん?あいつのカード、オレと少し違う気がする……アイアンなのは同じはずだけど。


 でも見せてくれとは言えない。講習会でもそのことは煩いほど言われたからな。






 依頼された畑へ言ってみると畝のあちこちに穴が開いていた。


 うわぁ、これじゃ作物はボロボロだな。根をがりがり齧る音が聞こえるようだ。




「ガル!右に一匹行くぞっ」


「おう!」


「左に跳ねたのが行くっ。足を射ってるから!」


「おうっ!」


 シルがピョンピョン跳ねるやつを矢で射る。どんどん射って、そこから漏れた奴をオレに回す。オレに回ってくる奴は方向を示してくれるし矢で傷ついた奴もいるからどんどん狩れる。オレは父ちゃんから貰った剣で切る。


 数刻後、十匹ものホーンラビを狩った。


 矢だけで狩れたのは五匹。矢で傷ついたのを俺が狩ったのが三匹。二匹はシルがナイフで狩った。


 シルは解体をどうするか聞いてきた。


 オレとしては解体してからギルドに持っていきたかった。でもその場所がないんで仕方なくそのままギルドに持っていく事にした。


 シルも同意して、それぞれが持って来たバッグに入れることにした。


 実はオレのバッグはマジックバッグなんだ!結構な量が入るんだぜ。


 シルもバッグに自分が狩った七匹を入れていた。あいつもマジックバックなんだ……。




 初日はアイアンチームにしては上出来だとギルドで言われた。


 どう見てもシルの方がたくさん貰えるのは仕方のない事だった。一緒に行ったのに、一緒に狩ったのに、あいつだけが……




 次の日は休みにしようと言われたので、ぶらぶらと町を歩いた。


 武器やでシルを見かけた。何をしているのかと聞くと矢の補充だった。確かに、ホーンラビに刺さったものや変なものに刺さったものは矢じりも潰れ矢も曲がっていたからな。


 オレは剣だからそういう事はなくて、ふき取るだけで済んだけど。






「今日はどれにする?」




 あれからオレたちは二日に一度づつ、依頼を受けている。


 ホーンラビだけでなく、コッコも余裕で獲れるようになった。


 二度ほど、解体の講習も受けた。まだ拙いが、自分で解体も出来る。


 これで、自分の食生活にも余裕が出来て来た。肉屋にも少しだが持ち込み出来るようになった。。


 あいつはちゃんとギルドを通せというが、こっちの方が高く売れる時もあるんだ。


 なるべくなら金は多い方がいいだろう?


 融通の利かないやつだなぁ。




 オレたちは少しずつ林のそばから、領で管理されている森の中の魔物へと討伐依頼を変えていった。


 そして……




 ガルっ!鹿はほっとけっ!後ろにゴブリンが!!




 声は聞こえたが、もう少しで鹿を落とせるところだったんだ……


 ゴブリンぐらい、シルでも何とかなるだろう?


 こいつは角と肉がかなりの値段で売れるんだ!






 ゴブリンは一体ずつは弱いが、数でおしてくる……


 シルはずっと木の上から矢を射っている。


 オレは気づかなかった。既に矢が無くなっていることに。


 頭を鈍器で殴られ気を一瞬失いかけた。


 でも気がつくと周りはゴブリンだらけ……


 鹿をせっかく倒したのに持ち帰ることが出来なかった。


 シルは応援を呼ぶ煙幕弾を使い、オレたちは助け出された……




 ギルドに帰って取り調べを受けた。シルとは別室で。


 終わった後、上級者にしこたま怒られた。


 ペナルティも受けた。マイナスポイントが付いた。




 しばらくは講習会の毎日だ。だが何故かシルはそれを受けていなかった。


 あいつだけ……




 さんざん無理な狩りはしない事、依頼以外は慣れてからすることなどさんざん言われた。


 シルは何でいいんだ? あいつは薬草の採取やキノコの採取をしているぞ?


 そういうと、奴はちゃんと依頼書を既に提出しているらしい……




 なんでなんで……








 反省明けにシルと会う事が有った。奴は他の人と一緒に討伐依頼を受けていたらしい。


 個人として。








「シル!」




「やあガル。この後どうする?」




 こいつはオレが稼げてない事を知っているはずなのに。




「依頼を受けるさ。もう少しで上のランクだしな」




 我慢してもうしばらくは続けるしかない……


 上のランクになればどこかに潜り込めるかもしれないし、下のアイアンを使う事も出来るはずだ。




 オレはそれからがむしゃらに依頼を受けた。依頼書さえ出しとけばいいんだろ? アイツみたいに。


 森も中まで入らずに害獣駆除を中心に受けた。ポイントは少ないが複数の依頼を取れるからな。


 空いた時間に獣も狩れるし。


 そうして三か月も過ぎたころ、また森の中を目指すことになった。




 これはランクアップ依頼だ。


 あの悪夢のようなゴブリンの巣を見つけることになっている。



 これさえ済めば……ブロンズになれる……




「ガル。右方向に気配がたくさんある。今日は動物の狩りはやめよう」


 うるさいうるさいうるさい。



「自分はクロウの討伐数を超えたからか?オレはまだノルマ分を獲ってないんだ……」




「それは依頼分じゃないだろう?今日は巣を見つけることに集中した方がいい。森のどこかマッピングは済んだのか?」


 お前も書くんだろう?それを見りゃいいじゃねえか。




「だいたい覚えている。あとで書き起こすさ。それよりここウイズルが多いぞ。狩れば冬場の装備になる」


 一応は覚えているさ。それよりこれからの事も考えないお前とは違うんだ。




「そんな暇はないよ。場所は覚えているんだろ?もう、ギルドに帰って報告をした方かいい」




 くっ……仕方ない……




 音をたてないように歩いたが、木や落ち葉を踏んでどうしても音をたててしまう。




「ガル。音をたてないように歩いて。気配を消してくれなきゃ見つかる」




「うるさい……しずかに歩いているだろうがっ」




 うるさいうるさい……




 森の外れまで帰るといい具合に子豚と遭遇した。チャンスだ!


 ちょうど気配を消しながら歩いていたから奴はこっちに気づいていない。


 よし……


 上手くいった……だが少し大きすぎたか?解体をせずに入れるのは少し無理がありそうな……


 いや、何とか無理矢理口を広げれば入った。




「ギルドで早くマッピングをしないと忘れるよ」




「分かってる!」




 煩い奴だ、せっかく獲物をとっていい気分だったのに。



 これでランクアップだ。こんなやつとは別れてやる!



 まあいい!


「パーティーは解散だ!」


 これでオレも自由にやれる。









「おい、オレと組まないか?ランク?一応ブロンズだぜ」


「そこの新入り、組んでやるよ。お前らのお守りぐらいできるぜ」




「セーラーさん、俺をチームに入れてくれませんか?」


「エリンさんとこのクランに入りたいんだけど……」




 色んな人に声を掛けたけど、入れるところが無かった。


 仕方が無いからソロで活動していたが、その内マジックバックの口が破れて中に収納出来なくなった。


 バックが無くなって持ち帰るものが少なくなって、剣を買い替える事も出来なくなり……




 ギルドからは職人になった方がいいとか、村に帰った方がいいとかいわれ……




 それでも諦められず、ギルドの依頼書を引きちぎる毎日。


 少しづつペナルティが増えて……


 アイアンに格下げされた……


 オレが何をしたっていうんだ?










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