鬼殺人【キサツジン】

1輝

プロローグ

 ピンポーン

「……うぅん?」

とあるマンションの一室、ベッドの中で何かが動く。眠っていた者は来訪者の呼び出し音で目が覚めた。動く手、動く足。そして、尻尾だった。

ピンポーン

もう一度、呼び出し音が部屋に響く。モゾモゾと起きて玄関前に行くと、覗き穴から外の様子を伺った。そこには郵便配達の人間がいた。ガチャリと扉を開け、受け取ろうとする。

「はー……い……」

「あっ!郵便ですー!」

「外に置いておいて貰えます?」

「分かりました!一応、お名前『リリム』様でよろしいですか?」

「はい、そうです……」

「では、速達、お願いします!」

「ありがとうございます……」

郵便配達員がドアのすぐ横に封筒を置いて、すぐに立ち去った。姿が見えなくなったのを確認すると、少しだけ扉を開け、隙間から郵便を回収した。部屋に戻りながら、届いた速達を確認する。表には住所と受取人の名前、裏には何もなかった。

「誰からだろ?」

とりあえず中身を開けて、確認する。中には紙が一枚、入っているだけだった。その文章を読んで、眠気が去るどころか、二度と安眠できないのではないかと思うほどの恐怖を抱えた。


………………………………………………


 「マミ?お手紙よー!」

「いま包帯を巻いてて手が離せないのー!」

「大丈夫?手伝わなくて、良いの???」

「もぉー、子供じゃないんだから!」

「そう?じゃあ、置いておくわね。」

「うん、わかったママー!」

扉を挟んで二人の全身、包帯まみれの人間が会話する。おそらく二人とも、女性であった。廊下側が立ち去ると、部屋の中にいた方がドアを開けて確認する。

「行ったかしら?」

誰も居ない廊下。置かれた手紙。すぐに回収して、部屋の中で開ける。

「誰からかしら?もしかして、ライミさんから!?」

急いで開けると、驚愕の文字が並んでいた。


………………………………………………


工事現場に巨体が並ぶ。しかし全員が巨大な為に、人間が小人の様に見えてしまう。

「えー、今日も1日、安全最優先で行きましょう!」

「「「オー!」」」

各自、それぞれの持ち場に向かう。その中の1人、いや1体が呼び止められる。

「あー!キュクロさん!チョット……」

「なんでしょう、監督!」

「君宛てに、郵便が来てるよ。」

「郵便ですか?」

「そう!」

監督は、封筒を見せる。明らかに、人間サイズであった。

「すいません、開けてもらっても良いですか?」

「全然!破いたりしたら、いけないからね〜」

「ありがとうございますー!」

「はい、どうぞ!中身は、見てないから!」

監督は手紙の中身を渡すと、持ち場へと向かった。キュクロは、大きな大きな1つの眼で、文章を読んだ。その内容に、しばし凍りつく。すぐに監督の元に向かう。

「監督!すいません!」

「おぉ、どうした?」

「有給、使っても良いですか?」


………………………………………………


「ウル兄ちゃん!」

「うん?どした???」

一軒家の庭先で小さな男の子が、花壇の花の世話をしている毛むくじゃらの塊と話していた。

「さっき、郵便屋さん来たよー!」

「そうか〜」

「兄ちゃんのお手紙あった!」

「そうかそうか。」

「はい!」

「ありがとう〜」

男の子は手紙を渡すと、毛むくじゃらは受け取って開けた。中の手紙を読むやいなや、男の子に声を掛けた。

「兄ちゃん、チョット旅行に行ってくるわ。」

「えー!」

「ゴメンな〜」

「ヤダヤダヤダーーー!!!」


………………………………………………


「我々に『トカゲ』と言うのは、差別用語だ。」

「まっ、待ってくれ!」

「裁判所から手紙が来るのを、大人しく待ってろ。」

「おい!」

呼びかける人間を無視して、しっかりとしたスーツから伸びる鱗に覆われた手で扉を閉める。そのままエレベーターに乗り、地下駐車場へと向かう。

「オレだ。今回も上手く訴訟に持っていけそうだ。弁護士として、一枚また噛ませてもらうぞ。」

電話で依頼人に端的に報告すると、すぐに切った。自身の車に乗ろうとした時に、ワイパーに何か挟まっているのに気がついた。

「チラシか?ゴミか???」

面倒だが、回収する。そこには自分の名前が、書かれていた。

「なんだ?脅迫状なら、腐る程あるぞ。」

差出人の名前は当然、無い。仕方なく中を開けて、紙を取り出して書かれた文を読む。

「………………………………」

無いはずの汗が、垂れる様な感覚だった。その文章は今までで1番、恐ろしい物だった。


………………………………………………


「こんばんはー!」

「あぁ、郵便屋さん、こんばんは。」

「配達に来たんですけど……」

「直接、渡さなきゃいけない物?」

「えぇーと……そうでも無さそうですね〜」

「じゃあ、預かるよ!」

「本当ですか!助かります〜」

「コッチも、イチイチ検査するの大変だからさ?」

「あー、確かに。呼気でニンニク検査して、持ち物の銀の含有量チェックして、X線検査して中身の検査ですもんね……」

「高級セキュリティマンションより、メンドクサイから……」

「では、見回りのついでに、玄関先のポストに入れておいて下さい!」

「了解、血を吸われない様に気をつけるよ!」

「それ、差別で訴えるヤツ居るから聞かれない様にして下さいよ……」

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