第43話 復讐劇

 荷物を取りまとめているジョーと、その様子を見ているリッケルト。

 最期に二本の白銀の曲刀を担ぎ上げるジョー。

「待たせました、行きましょうか。」

「はい。」

 後ろ髪を惹かれながら歩き始めるジョー。

 その隣で見て見ぬ振りをするリッケルト。

 するとバリトンが聞こえる。

次元門ゲート。」


 二人の眼前に黒い洞穴が開かれる。

 リッケルトが穴に吸い込まれると、ジョーも続いた。

 次の瞬間二人の眼前に広がった光景は…。

「やぁ、モック、ご苦労さま。」

 甲冑姿の歩兵の死体が散乱する中、その一区画に座り、リッケルトの呼びかけに手を挙げるインディアン。

 死体の山を気にする風もないリッケルト。

 インディアンに駆け寄ると情報の摺り合わせを行っている。


「ああ、モック、紹介が遅れたね。

 ジョルジュ、ゴーレム使いだ。」

「モホークだ、よろしく。」

 モックがジョーに握手を求める。

「ジョルジュです。」

 握手を交わすジョー。

「ところで、この兵隊たちは?」

「領主の子飼いしへいさ。

 森から出てきた冒険者の口封じが目的だったようだね。」


 ジョーの質問に答えるモック。

「なぜ、そんなまどろっこしい事を?」

「保護と称して、冒険者くぐつから合法的に女エルフせいどれいを確保する口実さ…。」

 肩をすくめてみせるモック。


「で、どうするよ?

 リック。」

「もちろん、潰しに行きますよ。」

「そうこなくっちゃっ!!」

 フィンガースナップゆびパッチンを鳴らしてはしゃぐモック。

 そして、音に反応したかのようにゆっくりと起き上がる死体の群れ。

「これは…アンデッド…。」

「そ、俺はネクロマンサー。

 死人を傀儡のように操るモノさ。」

 驚くジョーにウィンクで答えるモック。


 リッケルトを先頭に、ジョーとモックが両脇を固め、後方にはアンデットたちが控えている。

「それじゃ、行きましょうか。

 助さん、格さん。」

「ヘイ、ご隠居。」

「???」

 ネタについて行けないジョーを残して、歩き始めるリッケルトとモック。

 アンデットたちも伴をする。あわててリックスの後に付いて行くジョーなのだった。


「お、お前たち、何者だ?なぜこのような事を?」

 領主が応接間の端で縮み上がっている。

 応接間に控えていた兵士も含め、主だった者は倒れ伏している。

 ジョーがゆっくりと歩み出し、その姿を見て青ざめる領主。

「はじめまして、人種の領主よ。

 私はジョルジュ、見ての通りのダークエルフだ。」

 リッケルトは黒剣を地面に突き立て、モックは装飾品を鑑賞している。

「用事は聞くまでもなかろう。

 …村の民の復讐さ。」

「や、やめろぉ。

 わ、わしが悪かった。

 い、命ばかりは…。」

 ゆっくりと曲刀を振り上げるジョー。


「や、や、やめろぉぉぉ~~~っ!」

 悲鳴を上げる領主の頭上に振り下ろされる曲刀。

 悲鳴を上げる間もなく、領主は絶命する。

「終わったようですね。」

 リッケルトがジョーの隣に立つ。

 ジョーは曲刀を骸から抜き取り、リッケルトへ向き直り、頭を下げる。

 そこへ、調度品の幾つかを携え、やって来るモック。


「では、外へ出ましょうか。」

 いつの間にか黒剣は姿を消し、ジョーの携えていた曲刀も土に帰る。

 調度品を麻袋に詰めたモックとともにリッケルトとジョーが歩き出す。

 領主の館は隅々まで家探しも行き渡り、奴隷は開放され、使用人たちにも自由が与えられる。

 借用証文などは破り捨てられ、収蔵庫の鍵も破壊される。


 領主の館を出る三人。

 眼前の街は静まり返り、ピリピリとした空気が流れている。

 押し寄せるアンデットの群れ、為す術もなく押し負ける騎士団や冒険者。

 領民は家から出ること無く、この混乱を見つめるしか無かったのである。

 異邦人三人が領主の館から離れ始めると、押し寄せたアンデットの群れも一斉に街を離れていく。

 さて、三人が街外れの門まで来ると、領主の家に居た執事と騎士団長が走ってくる。

 リッケルトを呼び止め、何がしかの交渉を始める執事と騎士団長。


 結局二十分程度の話し合いの結果、リッケルトは首を横に振りジョーとモックの下に戻る。

 執事と騎士団長は二言三言交わすと、きびすを返し領主の館へ引き上げていく。

「リック、領主代理へのご招待かい?」

「まぁ、そんなところです。」

「その様子だと…蹴ったわけだな。」

「ああ、メリットがまったくないからね。」

 モックの問いかけにサバサバ答えるリッケルトは少し元気がない。

「なにか心配事でも?

 リッケルトくん。」

「まぁ…ね。

 連中がどうやって代表を選出するのか。

 はたまた、中央から新しい領主を招くのか…どうするのかと思うとね。」

「潰した人間が考えるのは、お門違いかもしれないね。」

 ジョーの言葉で我に返り、皮肉めいた笑顔をみせてリッケルトが吠える。

「それもそうだっ!」

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